時雨がその日、浮かない顔で屋敷へと戻れば真っ先に向かったのは深夜のいる部屋。
あれからというもの、深夜の身が心配で気が気ではなかった。まさか自分の知らない曖昧にそんなことになっていただなんて。
「さあさ、時雨様。こちらですよ」
お香さんに事情を話せば、彼女は快くうなずくとご当主様のいるお部屋まで私を案内をしてくれた。
本当なら一人でも行けたはずなのだが。
どうにもこの屋敷は大きく複雑に入り組んだ構造をしているせいか未だ慣れない。
「すみません。一人で行けたら良かったのですが」
「いえいえ、何も気にする必要ありませんよ。本来、人間の方がお一人で当主様の部屋まで行くことは出来ませんから」
「え?何故ですか?」
「あの場所は鬼頭家の中でも最高位に配属される特殊な空間部屋です。当主様の放つ特別な妖力の気配をたどらなければ、使用人でも見つけることが出来ない秘密の領域に存在しているのですよ」
「じゃあどうしてお香さんは分かるのですか?」
「ふふ、以前は私が当主様の身の回りの世話をしていましたから。ですが当主様は、私が時雨様の元に就くようになった今でもこうして部屋へと通じる道筋を残してくれているようです」
お香さんって一体何者なんだろう…。
ご当主様が直属に私のお世話係に彼女を任命したとは言っていたし。明らかに他の使用人達に比べたら、その信頼性を高く評価していることはよく分かるが。
「あのー、お香さんって強いんですか?」
「は!も、もしや…時雨様の目には私がただのか弱い低級鬼に見えていたということですか⁈」
目をうるうるさせてこちらを見てくる彼女に思わず慌ててしまう。
「あ、いや!そういう事ではなく。ただご当主様からの信頼性が厚いと感じたので。ひょっとしたら持つ力が強いのかなって」
「ふふ、冗談ですよ。まあでも力だけでものをいうのでしたら、私もそこら辺の野次馬ぐらいでしたら鬼火ひと吹きで倒せるとは思いますが」
「…ひ、ひと吹き」
お香さんはそう言うと手の平から小さな鬼火を出して見せた。ポーっと燃える炎を笑って見せてくる彼女の姿に私は若干の冷や汗を流す。
「とは言っても、若様に比べたら私なんかミジンコです。あの方なら妖力を少し放つだけで上級妖とて失神させてしまいますから」
それもそれでヤバいとは思うが。
だが妖は人間の何倍も高い身体能力と知性を合わせ持っている。もし人間が妖の妖力なんかくらった暁には即死レベルだ。
「もしや若様ならば、最悪三大妖家の当主とて人差し指一本で弾き通せるかもしれませんね」
「…いや、より恐ろしいですよ」
とんでもないお方を好きになってしまった、、、。
うーんと考え込むお香さんを横目に改めて自分の置かれた立場を振り返る。
イケメンだけでは収まらない白夜様。
ここはあえて一種の破壊魔とでも言っておこうか。
「非常に注意深い当主様とは反面、若様は自由すぎるお方ですからね~。当主様もそれだけが心配のようで私共も当時はとても不安でしたが。でも今は時雨様がいらっしゃいますし。これで安心ですね!」
「うっ、また責任重大なことを、、、」