『シグレ…シグレ』
声が聞こえる。
ふわりと軽くなった感覚が体越しに感じて目を開ける。
辺りは一面真っ白な世界がただどこまでも広がっていて、目の前を遮る邪魔なものは何もない。
そんな世界に一人、私はポツンと立っていた。
不思議と驚かなかった。
何もこの世界に来たのは今回が初めてのことではないと分かったから。
ここに来るのはあの日以来だろうか。
何故だろう、ここに来ると自分が自分ではなくなる。
決して気分が良くなることが無ければ悪くなることもない。そんな何とも言えない変な気持ちで虚無感に襲われるのだ。
ふと、気配の強くなった方へ目を向ければ彼らは私の目の前に現れた。体は黒い靄全体に覆われ、その形はハッキリと読み取れない。ユラユラとろうそくの炎のように揺らめいて浮かんでいる。
見るとモヤからは私を覗く白い四つの瞳。
『シグレ』
『シグレ』
「うん、そうだよ。ふふ、いきなりすぎてビックリしちゃった」
式神の前鬼と後鬼。
彼らからの呼びかけにふわりと笑いかけた。
この子達はあの日、私が契約した八雲家の式神だ。
長年に渡って八雲家の研究所に封印されていた彼らは、術師達に憑依化させることを目的に異能力の強度を図る対象物として悪用されていた。
だが元は悪行罰示神。
この子達の持ち合わせる力はすさまじく強大だった。
結果、実験の対象となった多くの術師達は次々と命を落としていった。
母もその内の一人だった。
だからあの日、私はこの子達を解放してあげたのだ。
もう苦しまなくて済むように。
誰も傷つける心配がないように。
今度は自分の役に立って貰らおうと今は契約という名ばかりのやり方ではあるが、こうしてこの領域内に閉じ込めている。
少しずつでいい。
これからは彼らと意思疎通を図らなければならない。
この先もずっとここに閉じ込めておくだなんて。
彼らが大人しくしてくれる保証なんてこの先どこにもないのだから。
『クル』
「え?」
式神はユラユラと揺れながら囁くように小さな声を漏らす。
『ムカエ、…クル…クルヨ』
不思議と彼らの言っていることが聞き取れる。
だがそれは一体何を表しているのがサッパリだ。
『クル、モウスグ』
「来る?一体何のこと?」
『ミカミノ、ミカミノ…モウスグ』
彼らは私の問いかけには答えずそう囁き始めた。
どうしたもんか。
私は困ったような笑みを浮かべるとその様子を観察していた。ふと、目線をずらしてみれば辺りがぼんやりとぼやけ始めていた。
ぎょっとして全体を見回せば、背景がどんどんと薄れ消え始めていく。慌てて式神に視線を戻すと、彼らはもう半分と満たなかった。
「あ、待って!」
消えてしまう!
彼らは私に何かを伝えようとしてくれていた。
だから自分はここへ呼ばれてきたはずなのに。
「お願い待って!教えて、何が来るの⁈」
消えていく視界の中、私は必死にそれへ問いかける。
だが彼らはその問いに答える間もなく消えてしまった。
それを合図に私の体も薄れ意識は徐々に遠のいていく。
そうして私は再び深い眠りの世界へと沈んでいったのだった。
声が聞こえる。
ふわりと軽くなった感覚が体越しに感じて目を開ける。
辺りは一面真っ白な世界がただどこまでも広がっていて、目の前を遮る邪魔なものは何もない。
そんな世界に一人、私はポツンと立っていた。
不思議と驚かなかった。
何もこの世界に来たのは今回が初めてのことではないと分かったから。
ここに来るのはあの日以来だろうか。
何故だろう、ここに来ると自分が自分ではなくなる。
決して気分が良くなることが無ければ悪くなることもない。そんな何とも言えない変な気持ちで虚無感に襲われるのだ。
ふと、気配の強くなった方へ目を向ければ彼らは私の目の前に現れた。体は黒い靄全体に覆われ、その形はハッキリと読み取れない。ユラユラとろうそくの炎のように揺らめいて浮かんでいる。
見るとモヤからは私を覗く白い四つの瞳。
『シグレ』
『シグレ』
「うん、そうだよ。ふふ、いきなりすぎてビックリしちゃった」
式神の前鬼と後鬼。
彼らからの呼びかけにふわりと笑いかけた。
この子達はあの日、私が契約した八雲家の式神だ。
長年に渡って八雲家の研究所に封印されていた彼らは、術師達に憑依化させることを目的に異能力の強度を図る対象物として悪用されていた。
だが元は悪行罰示神。
この子達の持ち合わせる力はすさまじく強大だった。
結果、実験の対象となった多くの術師達は次々と命を落としていった。
母もその内の一人だった。
だからあの日、私はこの子達を解放してあげたのだ。
もう苦しまなくて済むように。
誰も傷つける心配がないように。
今度は自分の役に立って貰らおうと今は契約という名ばかりのやり方ではあるが、こうしてこの領域内に閉じ込めている。
少しずつでいい。
これからは彼らと意思疎通を図らなければならない。
この先もずっとここに閉じ込めておくだなんて。
彼らが大人しくしてくれる保証なんてこの先どこにもないのだから。
『クル』
「え?」
式神はユラユラと揺れながら囁くように小さな声を漏らす。
『ムカエ、…クル…クルヨ』
不思議と彼らの言っていることが聞き取れる。
だがそれは一体何を表しているのがサッパリだ。
『クル、モウスグ』
「来る?一体何のこと?」
『ミカミノ、ミカミノ…モウスグ』
彼らは私の問いかけには答えずそう囁き始めた。
どうしたもんか。
私は困ったような笑みを浮かべるとその様子を観察していた。ふと、目線をずらしてみれば辺りがぼんやりとぼやけ始めていた。
ぎょっとして全体を見回せば、背景がどんどんと薄れ消え始めていく。慌てて式神に視線を戻すと、彼らはもう半分と満たなかった。
「あ、待って!」
消えてしまう!
彼らは私に何かを伝えようとしてくれていた。
だから自分はここへ呼ばれてきたはずなのに。
「お願い待って!教えて、何が来るの⁈」
消えていく視界の中、私は必死にそれへ問いかける。
だが彼らはその問いに答える間もなく消えてしまった。
それを合図に私の体も薄れ意識は徐々に遠のいていく。
そうして私は再び深い眠りの世界へと沈んでいったのだった。