白鬼の封印師 二

その言葉に男は驚きを隠せなかった。

「何だと⁈藤宮の巫女は消滅したのではなかったのか?」

分かりやすく半開きの目をかっぴらけば男が動揺するのを壱都は静かに制す。

「確かにその昔、神の血から生まれたとされる巫女達の存在は消滅したとも言われています。その数は稀少かつ稀。藤宮の歴史史上、御神の子が誕生した割合は1%にも満ちません。ですが今回、その生き残りがいたのです」
「…まさか」

男には思い当たるふしがあった。
壱都を見てみればニコリと微笑んだまま。
つまりはそれが肯定の意ということであろう。

「本人は上手く騙せていたつもりだったでしょうが、私の御霊は誤魔化せません。それは陛下もよくご存知のはず」
「…信じられん。あれはたかが術師如きの異能など足元にも及ばぬ。国でも屈指の力を誇るものだ」

極めて重要な代物。
若干の違和感は感じつつ、見て見ぬふりをしてきたつもりではあった。
どうやら自分の考えはあながち間違えてはいなかったようだ。
男は遠い過去を振り返れば溜息をつく。

「…死んだか」
「はい。残念ながら」
「子は?」
「無事です。神獣は彼女の元に」
「…そうか」

それには何処か安堵した様子を見せると気だるげに肩の力を抜き布団に横になる。

「娘の期限は?」
「まだ残っています。ですが封印が強すぎます。急ぎ開花させねば後がありません」
「ならば見つけ次第、娘を藤宮家へ連れ戻せ。決してその血を途絶えさすな」

御神の子が生きている。
今はそれだけでいい。
これを逃す手はない。
あるべき宝はあるべき場所にしまっておかないと。
その意を表明するよう視線を壱都に向ければ、壱都は既に頷き笑っていた。

「恐れながら陛下、娘に少々の問題が発生しております」
「問題だと?」
「はい。見たところ、純血の血が娘の存在を上手く囲っているようです。引き戻すには術師の力では少々手に余るかと」
「…鬼頭白夜め」

鬼頭家の噂は聞いていたがやはり奴は生まれていた。
鬼神の生まれ変わり。
呪いの元凶。
現世に目を向けるばかりでは異界との通信に制限がかかり、碌な情報の一つ提供された試しがない。それが契約ともなれば、こちらにしても異界に住む妖共のことなど無関心。花嫁さえ差し出し、危害さえ加えられなければどうでも良い。だが純血の血が御神の血を囲うなどどういうつもりか。

「穢れた邪物が。奴らもまた厄介なものを生み出してくれたものだ。…まあいい。そんなことどうとでも出来る。今は娘を最優先させろ。必ず連れ戻してこい」
「ではその許可を賜りたく」
「よかろう、綾瀬(あやせ)

男は枕元にいる自身の息子へと目を向ける。

「話は聞いたな。後のことはお前に任せた」
「かしこまりました。では私達はこれで」

青年は美しい顔で綺麗な髪をなびかせれば立ち上がる。
二人は男に一礼すれば部屋を共に後にした。
襖が閉じられると部屋には本来の静けさだけが残る。
男は天井を見上げると左腕を上に掲げた。
そこにはめられた薬指の指輪。
骨ばり、やせ衰えた指の中で光は失うことなく銀色に輝いている。

「…美椿、これがお前のやり方か。実に哀れなものだ。そなたも…わしも」

目を閉じれば蘇る彼女の姿。
美しい御神の血。
最後に彼女を見たのはいつだったか。
決して逃がしてなるものか。
今まで築き上げてきたこの地も。
自分と彼女を繋ぎとめておくためにも。
どんな手を使おうと襲い掛かる脅威は徹底的に排除する。
今度こそ、失敗は許されない。