「お疲れ様。疲れたかい?」
「ううん、これぐらいへっちゃら」
母屋に戻ると、鳳魅さんが奥の方で作業しているのが確認できた。
近づいてみると足元には大きな鍋が火にかけられた状態で置かれており、中を覗いてみれば何やら赤い液体がぐつぐつと煮立っている。
「これってさっきの柘榴?」
「そうそ、沢山採れたから色々と作ろうかと思ってね。因みにこれはジャム」
大きめの鍋に柘榴の果汁、レモン果汁、砂糖を入れて混ぜ合わせ強火で沸騰させる。沸騰したら、そこへペクチンを入れてかき回し続ける。煮立ってくると硬くなってくるため火から鍋を下し、消毒済みの綺麗な瓶に入れれば柘榴ジャムの完成だ。
「私も何か作ってみようかな」
「まだまだ沢山あるから好きに使っていいよ」
「ほんと!ありがとう」
シロップ漬けなんてどうだろうか。
今後は少しずつ寒くなっていくだろうし、喉のケアも兼ねて蜂蜜入りのシロップを作ったり、砂糖やハーブを混ぜてのど飴なんかにしても良さそうだ。
「おや?そう言えば青龍君が見当たらないけど」
「あ、それならここに居るよ」
私はぺらりと着物の袖をめくり、鳳魅さんへ見せる。
するとそこには腕へと巻き付き、吞気に眠りこける青龍の姿が。
私の体温が温かいのか、ツンツンとつついてみても起きる気配はなく鼻提灯まで出している。
「随分とまあコンパクトになったね。人の姿にはもう飽きたのかい?」
「なんでも神聖力が安定しないから、この姿の方が今は落ち着くんだって」
「なるほどね~まあ無理もないか。神獣からしたら、この世界の空気は体への負荷が大きいだろうし」
四神は神聖な場所で本来ならば邪気を跳ね返す存在だ。
吞気に生活してきたが、よくよく考えてみればこの世界で一番邪気による負担が大きいのって青龍さんなのではないか?
「はぁ、私を守護してくれてるしで余計に心配だよ」
「まあ時雨ちゃんとはもう契約している仲なんだし。少なくとも双方の神聖力が共有されているとなれば、案外彼も大丈夫なんじゃない?若と同じようにさ」
そう言えば私の体には白夜様の妖力も流れているんだった。
青龍さんが不在の間、私のケアをしていたのは彼だ。
日頃から体内の安定化を図るためにも定期的に妖力を供給してくれていた。お陰で邪気により体調を悪化させることはなく被害も受けなかった。
私が御神の子として青龍さんが契約したとなると、何らかの形で私達の間にも自然と神聖力の供給が行えていることになる。つまり双方の安定化は保たれたのか?
「…御神の子か。青龍さんが言っていた意味、やっぱり分かんないな」
御神の子ってなんだろう。
巫女の血とも言えるし、神の子とも称されているんだっけ?
一体、どんな能力を持っていて、何がそこまで凄いのかさえ全く分からない。
「彼は私を御神の子だと言うけれど、久野家にいた時もそんな話は聞いたことないし」
「ん~残念ながら僕もその分野にはとんと疎くてね。でも神獣が言うんだ。今後の為にもこういう話は彼に聞いておくのが一番ベストだ」
異能をもつ人間が無能者に術学を教えたとこで何か出来る訳ではない。
一般人にでさえ到底理解出来ない。
現代風に読み解けば我々は魔法に近いものを有し、その領域の中で国のため身を挺して日々活躍している。
「私ね、異能とはずっと無縁な生活をしてきたの。使用人として一華さんの侍女として働いていただけ」
ここに来るまで異能や術家に関する一切の情報は何一つ教えられて来なかった。
隠世の存在ですら最近知ったのだ。
つまりは彼らにとって、無能者が生まれた時点でその世界に干渉させる気はないということ。
実力のある者はとことん上に。
そうでない者はとことん下に。
それがあるべき彼らの社会としての姿というわけだ。
「打算的に、利益と質を第一に優先して作られた世界なの。術家とあれば己の完璧を求めて下を顧みない、残酷な日常を上から見下ろすのが基本的なとこあるし」
「まるでカースト制度のような生き方だね。そんなんじゃ、例え異能があったとて無意味みたいに思えるよ」
「でも実際そうだと思う。何も異能を持つ全員がみんな優秀かって言われたらそうでもなさそうだし。昇格前の任務で死ぬ人も多くいるって聞いたことあるから」
久野家ではそういった事情に深く踏む込まない代わりに学校へは通わせてもらえていた。
基本的な教養と高い学力を身につけさせる。
まあ無能だと言われてる時点で、果たして彼らは私を人間同等に扱ってくれていたのか。
それすらもあの業界では危ういどこだが。
「なら尚のこと君は鬼頭家に来て良かったのさ。間違ってもそんな腐った世界にいる時に比べたら、今の君は心底幸せそうな顔してると思うよ」
「うん、ここに来て良かったと思ってる。邪気のこととか、色々と考えればまだまだ油断は出来ない状態だけれど。でも白夜様がいてくれるから」
「ううん、これぐらいへっちゃら」
母屋に戻ると、鳳魅さんが奥の方で作業しているのが確認できた。
近づいてみると足元には大きな鍋が火にかけられた状態で置かれており、中を覗いてみれば何やら赤い液体がぐつぐつと煮立っている。
「これってさっきの柘榴?」
「そうそ、沢山採れたから色々と作ろうかと思ってね。因みにこれはジャム」
大きめの鍋に柘榴の果汁、レモン果汁、砂糖を入れて混ぜ合わせ強火で沸騰させる。沸騰したら、そこへペクチンを入れてかき回し続ける。煮立ってくると硬くなってくるため火から鍋を下し、消毒済みの綺麗な瓶に入れれば柘榴ジャムの完成だ。
「私も何か作ってみようかな」
「まだまだ沢山あるから好きに使っていいよ」
「ほんと!ありがとう」
シロップ漬けなんてどうだろうか。
今後は少しずつ寒くなっていくだろうし、喉のケアも兼ねて蜂蜜入りのシロップを作ったり、砂糖やハーブを混ぜてのど飴なんかにしても良さそうだ。
「おや?そう言えば青龍君が見当たらないけど」
「あ、それならここに居るよ」
私はぺらりと着物の袖をめくり、鳳魅さんへ見せる。
するとそこには腕へと巻き付き、吞気に眠りこける青龍の姿が。
私の体温が温かいのか、ツンツンとつついてみても起きる気配はなく鼻提灯まで出している。
「随分とまあコンパクトになったね。人の姿にはもう飽きたのかい?」
「なんでも神聖力が安定しないから、この姿の方が今は落ち着くんだって」
「なるほどね~まあ無理もないか。神獣からしたら、この世界の空気は体への負荷が大きいだろうし」
四神は神聖な場所で本来ならば邪気を跳ね返す存在だ。
吞気に生活してきたが、よくよく考えてみればこの世界で一番邪気による負担が大きいのって青龍さんなのではないか?
「はぁ、私を守護してくれてるしで余計に心配だよ」
「まあ時雨ちゃんとはもう契約している仲なんだし。少なくとも双方の神聖力が共有されているとなれば、案外彼も大丈夫なんじゃない?若と同じようにさ」
そう言えば私の体には白夜様の妖力も流れているんだった。
青龍さんが不在の間、私のケアをしていたのは彼だ。
日頃から体内の安定化を図るためにも定期的に妖力を供給してくれていた。お陰で邪気により体調を悪化させることはなく被害も受けなかった。
私が御神の子として青龍さんが契約したとなると、何らかの形で私達の間にも自然と神聖力の供給が行えていることになる。つまり双方の安定化は保たれたのか?
「…御神の子か。青龍さんが言っていた意味、やっぱり分かんないな」
御神の子ってなんだろう。
巫女の血とも言えるし、神の子とも称されているんだっけ?
一体、どんな能力を持っていて、何がそこまで凄いのかさえ全く分からない。
「彼は私を御神の子だと言うけれど、久野家にいた時もそんな話は聞いたことないし」
「ん~残念ながら僕もその分野にはとんと疎くてね。でも神獣が言うんだ。今後の為にもこういう話は彼に聞いておくのが一番ベストだ」
異能をもつ人間が無能者に術学を教えたとこで何か出来る訳ではない。
一般人にでさえ到底理解出来ない。
現代風に読み解けば我々は魔法に近いものを有し、その領域の中で国のため身を挺して日々活躍している。
「私ね、異能とはずっと無縁な生活をしてきたの。使用人として一華さんの侍女として働いていただけ」
ここに来るまで異能や術家に関する一切の情報は何一つ教えられて来なかった。
隠世の存在ですら最近知ったのだ。
つまりは彼らにとって、無能者が生まれた時点でその世界に干渉させる気はないということ。
実力のある者はとことん上に。
そうでない者はとことん下に。
それがあるべき彼らの社会としての姿というわけだ。
「打算的に、利益と質を第一に優先して作られた世界なの。術家とあれば己の完璧を求めて下を顧みない、残酷な日常を上から見下ろすのが基本的なとこあるし」
「まるでカースト制度のような生き方だね。そんなんじゃ、例え異能があったとて無意味みたいに思えるよ」
「でも実際そうだと思う。何も異能を持つ全員がみんな優秀かって言われたらそうでもなさそうだし。昇格前の任務で死ぬ人も多くいるって聞いたことあるから」
久野家ではそういった事情に深く踏む込まない代わりに学校へは通わせてもらえていた。
基本的な教養と高い学力を身につけさせる。
まあ無能だと言われてる時点で、果たして彼らは私を人間同等に扱ってくれていたのか。
それすらもあの業界では危ういどこだが。
「なら尚のこと君は鬼頭家に来て良かったのさ。間違ってもそんな腐った世界にいる時に比べたら、今の君は心底幸せそうな顔してると思うよ」
「うん、ここに来て良かったと思ってる。邪気のこととか、色々と考えればまだまだ油断は出来ない状態だけれど。でも白夜様がいてくれるから」