白鬼の封印師 二

母屋に戻ると鳳魅が奥の方で作業しているのが見えた。
近づくと足元には大きな鍋が火にかけられていて、中を覗くと何やら赤い液体がぐつぐつと煮立っている。

「これってさっきの柘榴?」
「ああ。沢山採れたから色々と作ろうと思ってね。因みにこれはジャム」

大きめの鍋を用意し、柘榴の果汁、レモン果汁、砂糖を入れて混ぜ合わせ強火で沸騰させる。そこにペクチンを加えて更にかき回し続ける。煮立ってくると硬くなってしまうので鍋を一回火から下ろし、消毒済みの綺麗な瓶に入れれば柘榴ジャムの完成だ。

「私も何か作ってみようかな」
「まだまだ沢山あるから好きに使っていいよ」
「ほんと!ありがとう。シロップ漬けなんてどうかな。今後は少しずつ寒くなっていくだろうし」

喉のケアも兼ねて蜂蜜入りのシロップを作ったり。
砂糖やハーブを混ぜて、のど飴なんかにしても良さそうだ。

「おや?そう言えば青龍君が見当たらないけど」
「あ、青龍ならここに居るよ」

時雨がぺらりと着物の袖をめくれば鳳魅に見せる。
そこには腕へと巻き付き、吞気に眠りこける青龍の姿が。
時雨の体温が温かいのか、ツンツンとつついてみても起きる気配はない。鼻提灯まで出していた。

「随分とまあ…コンパクトになったね。人の姿にはもう飽きたのかい?」
「神聖力が安定しないんだって。この姿の方が今は落ち着くからって」
「なるほどね~まあ無理もないか。神獣からしたら、この世界の空気はそれだけで体の負荷も大きいだろうし」

四神は神聖な場所で生きる神聖な生き物。
本来ならば邪気を跳ね返す存在だ。
吞気に生活してきたが、よくよく考えてみれば、この世界で一番邪気による負担が大きいのって青龍なのではないか?

「それでいて私を守護してくれてるんだし。余計に心配だな…」
「時雨ちゃんとは契約した仲なんだし。少なくとも双方の神聖力が一定に共有されてるなら大丈夫なんじゃないかな。若と同じようにさ」

そう言えば体には白夜様の妖力も流れているんだった。
青龍が不在の間、私のケアをしていたのは白夜様だ。
体内の安定化を図るためにも。
白夜様は定期的に妖力を供給してくれていた。
お陰で邪気により体調を悪化させることもなく、白夜様本人が放つ邪気の被害も受けなかった。

「…御神の子か。青龍が言っていた意味、やっぱり分かんないや」

御神の子ってなんだろう。
巫女の血とも言えて神の子とも称されているんだっけ?
一体、どんな能力を持っていて、何がそこまで凄いのかさっぱり分からない。

「ねえ鳳魅さん。青龍は私を御神の子だと言うけれど。久野家にいた時もそんな話は聞いたことないし、私には彼の言う事がよく分からないの。異能を持つ術師とは違うのかな?」
「ん~残念ながら僕も専門外かな。でも神獣が言うんだ。今後の為にも、こういう話は神獣に直接聞いておくのが一番ベストだ」
「そうだよね…」

でも答えてくれるかな、、、?
さっきも上手くはぐらかされちゃったし。
異能をもつ人間が無能に術を教えたとこで何か変わる訳ではない。
一般人でさえ、術師とは理解出来ないのだ。
現代風に読み解けば我々は魔法使いに近いものを示し、その領域の中だけで国のため身を挺して日々活躍している。それを更に神に近づけた存在ともなれば余計に理解はされない。

「私ね、異能とはずっと無縁な生活をしてきたから。使用人として。妹の侍女として働いていただけ」

ここに来るまで異能や術家に関する情報は一切教えられて来なかった。
隠世の存在ですら最近になって知った。
実力のある者はとことん上に。
そうでない者はとことん下に。
それがあるべき術家の社会としての生き方だから。

「打算的に利益と質を第一に作られた世界。それが術家よ。己の完璧を求めて他を顧みない。常にプライド高く自分を疑わない。残酷だけど…そうしなきゃ生きられないの」
「カースト制度の良い例だね。そんなんじゃ、例え異能があっても無意味みたいに聞こえるなぁ」
「実際そうだと思う。何も異能を持つ術師が皆して優秀か?って言われたらそうでもなさそうだし。昇格前の任務で死ぬ人も多くいるみたい。だからあそこで暮らせるのはそんな生き残り」
「こっわ…」

久野家ではそういった事情に深く踏む込むのはご法度。
代わりに与えられるのは基本的な教養と高い学力。
無能の時点で彼らはその相手を人間同等に扱ってはくれないけど。

「なら尚のこと君は鬼頭家に来て良かったのさ。間違ってもそんな腐った世界にいるべきじゃない。壊れてしまうよう。でも当初に比べたら、今の君はとても幸せそうな顔をしているよ」
「うん。ここに来て良かったと思ってる。邪気のこととか、色々と考えればまだまだ油断は出来ないけど。でも白夜様もいてくれるし」