「ご苦労様」
母屋では既に鳳魅さんが何か作業をしていた。
「そっちは後日また使うから、取り敢えずは倉庫の方へ運んどいてくれるかい?時雨ちゃん案内してあげて」
「分かった、青龍さんこっちです」
母屋を出て、突きあたりを少し進んだ所にある倉庫へと彼を案内する。扉を開ければそこには収穫された柘榴が既に沢山置かれていた。他にも薬草や穀物も多く置かれていたため農作物も育てているようだった。
「ここでいいですか?」
「うん、運んでくれてありがとう」
「お安い御用です。また収穫する際はお声がけ下さい」
「うん!じゃあ戻ろっか」
彼が部屋の奥へとカゴを下したのを確認してお礼を言うと、私は扉の方に向かって歩き出した。
「時雨殿」
「ん?ッ!」
かけられた声に振り返れば、青龍さんは私の直ぐ真後ろに立っていた。少し距離があったにもかかわらず、一気に詰められたせいか驚いでしまう。
「…時雨殿は幸せですか?辛くはありませんか?」
「え?」
突然そんなことを言われて戸惑ってしまう。
青龍さんを見てみれば、人当たりの良さそうな顔でこちらを見下ろしてはいるのだが、瞳の奥底から感じるのは本当は笑ってなどいないということ。
白夜様に見下ろされる時とはまた違った感覚。
そこには不思議と怖さを覚えた。
「…幸せだよ?」
久野家での生活を思い返せば今は本当に幸せだと感じている。地獄のようで、牢獄に閉じ込められたような厳しい生活を強いられることもない。
何より自分を無能だと蔑まれることもない。
鬼頭家に来てからは良い人達にも恵まれた。
自分らしく生きていられていることは心地が良かった。
「今は毎日が楽しいんだ。現世とは違って大変なことも多いけれど、良い人達にも出会えて凄く感謝しているし。それに…白夜様とも出会えたから」
白夜様との出会いは私にとって大きな救いだ。
彼のお陰で今の私がいる。
だから私はここで彼の側で生きていたいと思えた。
「あんな契約をされてもですか?」
「あんな契約?」
「あの鬼と交わしたこの契約です」
青龍さんは私の手首をとると冷たい手でするりと撫でた。そこを覆うのは鎖型を宿した模様。
あの日は確か…
お翠さんの件で初めて白夜様の部屋を訪れた時だ。
彼女を助けて欲しいと。
そうお願いしに行った矢先、彼は頼みをきくことを条件にある契約を持ちかけた。
結べば互いを繋ぎとめ決して切れることはない。
結べば最後、両者とも解除することは不可能となる。
そんな強力な縛りはどちらかが裏切ったと同時に双方の命を絶たせる程に恐ろしいもの。
相即不離縛り——別名…
「死の契約。あの日、貴方はあの鬼との間に大きな契約をした。手首に残るこの痣こそがその証拠」
死の契約。
白夜様が裏向きに編み出したとされるもので、彼のみが使用できる史上最高難易度の契約。
そんな契約を彼は私と交わした。
結果、私は彼と結び付き、その側を離れることはできなくなってしまったわけだ。
「僕の役目は時雨殿を御守りすることです。貴方様に加護を与えたのは、その身の安全を確保し全力でお仕えする為です」
「うん、青龍さんのお陰で私は何不自由なく暮らせてる。ありがとう」
「貴方のお役にたてるなら本望です。しかし貴方は御神の子なのです。御神の子は神聖が第一。なら一刻も早く、邪気の少ない安全な現世へとお戻りになるべきなのです」
「それは…」
確かに私は人間だ。
長くここでの生活に身が持たない日が今後も来ないとは限らないし、例え白夜様の妖力と青龍さんの加護があったとしても油断できない。
何よりそう神獣がそう言っているのだ。
そうなる未来が来ることを暗示しているのだろうか。
「時雨殿、貴方はまだよくご存知ないのです。御神の子がどれほど貴重な存在であるか。本来ならば隠世にいること自体論外なのですよ」
「そういうものなの?」
御神の子って言われても正直まだよく分からない。
自分が本当にそこまで凄い存在なのかなんて半信半疑だから。
「いいですか?この契約は言わば呪いです。条件などと、あの鬼がそんな生温い約束ごとだけでこの契約を取り付けたとでも本気でお思いですか?あの鬼は貴方を逃がすつもりがない」
「…」
「理由はともあれ何か裏があることは間違いありません。もし万が一にも、この呪いがその身を侵すようなことがあればどうするおつもりですか」
死の契約は片方に支障をきたせば双方に負担がかかる。白夜様に何かあっても私に何かあってもダメ。
言わば天秤の重さは一定に。
少しでも片方へ揺れ幅をかけてはいけないということだ。
母屋では既に鳳魅さんが何か作業をしていた。
「そっちは後日また使うから、取り敢えずは倉庫の方へ運んどいてくれるかい?時雨ちゃん案内してあげて」
「分かった、青龍さんこっちです」
母屋を出て、突きあたりを少し進んだ所にある倉庫へと彼を案内する。扉を開ければそこには収穫された柘榴が既に沢山置かれていた。他にも薬草や穀物も多く置かれていたため農作物も育てているようだった。
「ここでいいですか?」
「うん、運んでくれてありがとう」
「お安い御用です。また収穫する際はお声がけ下さい」
「うん!じゃあ戻ろっか」
彼が部屋の奥へとカゴを下したのを確認してお礼を言うと、私は扉の方に向かって歩き出した。
「時雨殿」
「ん?ッ!」
かけられた声に振り返れば、青龍さんは私の直ぐ真後ろに立っていた。少し距離があったにもかかわらず、一気に詰められたせいか驚いでしまう。
「…時雨殿は幸せですか?辛くはありませんか?」
「え?」
突然そんなことを言われて戸惑ってしまう。
青龍さんを見てみれば、人当たりの良さそうな顔でこちらを見下ろしてはいるのだが、瞳の奥底から感じるのは本当は笑ってなどいないということ。
白夜様に見下ろされる時とはまた違った感覚。
そこには不思議と怖さを覚えた。
「…幸せだよ?」
久野家での生活を思い返せば今は本当に幸せだと感じている。地獄のようで、牢獄に閉じ込められたような厳しい生活を強いられることもない。
何より自分を無能だと蔑まれることもない。
鬼頭家に来てからは良い人達にも恵まれた。
自分らしく生きていられていることは心地が良かった。
「今は毎日が楽しいんだ。現世とは違って大変なことも多いけれど、良い人達にも出会えて凄く感謝しているし。それに…白夜様とも出会えたから」
白夜様との出会いは私にとって大きな救いだ。
彼のお陰で今の私がいる。
だから私はここで彼の側で生きていたいと思えた。
「あんな契約をされてもですか?」
「あんな契約?」
「あの鬼と交わしたこの契約です」
青龍さんは私の手首をとると冷たい手でするりと撫でた。そこを覆うのは鎖型を宿した模様。
あの日は確か…
お翠さんの件で初めて白夜様の部屋を訪れた時だ。
彼女を助けて欲しいと。
そうお願いしに行った矢先、彼は頼みをきくことを条件にある契約を持ちかけた。
結べば互いを繋ぎとめ決して切れることはない。
結べば最後、両者とも解除することは不可能となる。
そんな強力な縛りはどちらかが裏切ったと同時に双方の命を絶たせる程に恐ろしいもの。
相即不離縛り——別名…
「死の契約。あの日、貴方はあの鬼との間に大きな契約をした。手首に残るこの痣こそがその証拠」
死の契約。
白夜様が裏向きに編み出したとされるもので、彼のみが使用できる史上最高難易度の契約。
そんな契約を彼は私と交わした。
結果、私は彼と結び付き、その側を離れることはできなくなってしまったわけだ。
「僕の役目は時雨殿を御守りすることです。貴方様に加護を与えたのは、その身の安全を確保し全力でお仕えする為です」
「うん、青龍さんのお陰で私は何不自由なく暮らせてる。ありがとう」
「貴方のお役にたてるなら本望です。しかし貴方は御神の子なのです。御神の子は神聖が第一。なら一刻も早く、邪気の少ない安全な現世へとお戻りになるべきなのです」
「それは…」
確かに私は人間だ。
長くここでの生活に身が持たない日が今後も来ないとは限らないし、例え白夜様の妖力と青龍さんの加護があったとしても油断できない。
何よりそう神獣がそう言っているのだ。
そうなる未来が来ることを暗示しているのだろうか。
「時雨殿、貴方はまだよくご存知ないのです。御神の子がどれほど貴重な存在であるか。本来ならば隠世にいること自体論外なのですよ」
「そういうものなの?」
御神の子って言われても正直まだよく分からない。
自分が本当にそこまで凄い存在なのかなんて半信半疑だから。
「いいですか?この契約は言わば呪いです。条件などと、あの鬼がそんな生温い約束ごとだけでこの契約を取り付けたとでも本気でお思いですか?あの鬼は貴方を逃がすつもりがない」
「…」
「理由はともあれ何か裏があることは間違いありません。もし万が一にも、この呪いがその身を侵すようなことがあればどうするおつもりですか」
死の契約は片方に支障をきたせば双方に負担がかかる。白夜様に何かあっても私に何かあってもダメ。
言わば天秤の重さは一定に。
少しでも片方へ揺れ幅をかけてはいけないということだ。