それからはただ只管に自分を磨いた。
今まで手を抜いていたことにも積極的に取り組んだ。
学問はもちろん、専門的な知識や社会で学ぶに必要なもの。
その全てを叩き込んでいった。
あの時に言われた言葉が頭から離れない。
都合のいい型で大人しくいられたら。
そんな自分を一度は否定し、あの方に否定された自分の存在価値は違う形で生かされているように思えたのだ。
汚い連中へ耳を傾けるな。
今度はあの方に。
その気持ちにお答えしよう。
そんな自分の変わりように周りは驚きながら何か確信を得たようだった。
利用価値が上がったとでも言いたげに、昼を返すようにして自分へと近づき始めた者や媚びを売り出した女達。
ああ、彼もこんなお気持ちだったのか。
むせかえるような香水の臭いが鼻を貫き吐き気を覚えた。
鬼頭家に仕える鬼灯家の身分というなら。
自分は格好の餌食だったのだろう。
向けられる目は以前にも増して強まっていった。
それが良い意味でも悪い意味でも。
でもそれでも自分には何も残らなかった。
どれだけ高く評価されようと、それが彼から向けられたものでなければ何の意味もなかったからだ。
何も感じない。
だが着実に変化していった。
「今日から若様の補佐官に配属されました、鬼灯徹夜です」
それから数年の月日が経った。
補佐官としての初仕事で訪れた鬼頭家で私は彼へ挨拶をした。
噂には聞いていたが、あれから彼の存在は高校入学と同時に周りを轟かせ、何をやるにしても誰一人として敵わなかったらしい。
会うのはあの時以来だろうか。
目の前に着座する彼からは以前にも増して強い妖力への気配が感じ取れた。
唯一、変わらないのは何者にも染まらない冷酷な表情に浮かべるその瞳だけ。
「…ふーん。ま、ちょっとはマシになったんじゃね?」
久しぶりにお会いした彼は幾分か背が伸びたようで美しさと強さにも磨きがかかっていた。
他人を馬鹿にしたような性格は相変わらずのようだったが。
自分の存在も覚えていたようだった。
「光栄です。貴方様にお仕えする今日この日の為に自分を磨いて参りました。誠心誠意、全力で務めさせて頂きます」
「は、別に認めた訳じゃねぇから高望みするだけ無駄だ。例え鬼頭家直近の分家とは言え、一度でも俺が使えねぇと判断すればお前は即クビだ」
それだけ言うと彼は私から視線をそらした。
あの日からなんらお変わりがない態度。
その日から彼との交流が始まった。
浴びせられる嫌味や冷たい態度に動じることも臆することもせず、与えられた仕事を全うした。
最初こそは警戒視していた彼も、ひと月も経てば徐々に耳を傾けてくれるようになった。
そして半年も経てば無駄話を挟む仲にまでなった。
互いに媚びることもせず、ありのままをぶつけ合った。
一緒にいて分かってきたこともあった。
薄々感じてはいたが、やはり性格はゴミだったようだ。
言い寄る女性相手にも毎度ながら接点を持つも面倒ごとを大いに嫌うクズさ。
その後始末を押し付けてくる彼には何度舌打ちをしたか数え切れない。
だがそれでも彼は彼だった。
泣こうが怒ろうが関係ない。
冷酷非道なお顔で裏切り者には一切の容赦をしない残酷さ。
それが鬼頭白夜であることに変わりはなかった。
ムカつくことがあれど、自分を変えた彼の存在に密かに憧れた。
皆が恐れ慄くその姿を追って、ただ只管にその側にお仕い続けた。
気づけば数年が経とうとしていた。
いつしか彼が自分をクビにすることも自然となくなった。
それが私を補佐官として。
その身に仕えることを認めて下さった、彼なりの意志表示だったのではないのだろうか。
「なあ、…や、おい徹夜!」
名前を呼ばれてハッと意識が戻った。
長いこと過去の物思いにふけていたようだ。
「何してんだよ。この後、呼ばれてんだから早く来いって」
見れば彼が私に声をかけて部屋を出ようとするところだった。
急いで後に続くように書類を纏めると自分も立ち上がる。
「どうかしたのか?」
「いえ、失礼致しました。しばし考えごとを」
「あんなに俺の顔を見つめちゃって。あ、もしかして惚れた?」
「やめて下さい。気持ち悪い…」
「強がんなって♡あんなご熱心に俺の顔拝んでたくせに。でも悪ぃな、俺興味あんの時雨と時雨の胸と尻だけなんだわ」
「(クソじゃねぇか)」
一瞬でも憧れを抱いた過去への自分を悔いたい。
結局のところ、この男は脳みそを取替えでもしない限り何も変わることはない。
「貴方のような方を婚約者にもつだなんて。今なら彼女のそのお気持ち、痛くお察ししますよ」
「俺とあいつは両想いなんだから無問題っつーの。キスだってしたんだぜ。もう俺のこと大好きじゃん!!」
「させたの間違いでは?」
今まで手を抜いていたことにも積極的に取り組んだ。
学問はもちろん、専門的な知識や社会で学ぶに必要なもの。
その全てを叩き込んでいった。
あの時に言われた言葉が頭から離れない。
都合のいい型で大人しくいられたら。
そんな自分を一度は否定し、あの方に否定された自分の存在価値は違う形で生かされているように思えたのだ。
汚い連中へ耳を傾けるな。
今度はあの方に。
その気持ちにお答えしよう。
そんな自分の変わりように周りは驚きながら何か確信を得たようだった。
利用価値が上がったとでも言いたげに、昼を返すようにして自分へと近づき始めた者や媚びを売り出した女達。
ああ、彼もこんなお気持ちだったのか。
むせかえるような香水の臭いが鼻を貫き吐き気を覚えた。
鬼頭家に仕える鬼灯家の身分というなら。
自分は格好の餌食だったのだろう。
向けられる目は以前にも増して強まっていった。
それが良い意味でも悪い意味でも。
でもそれでも自分には何も残らなかった。
どれだけ高く評価されようと、それが彼から向けられたものでなければ何の意味もなかったからだ。
何も感じない。
だが着実に変化していった。
「今日から若様の補佐官に配属されました、鬼灯徹夜です」
それから数年の月日が経った。
補佐官としての初仕事で訪れた鬼頭家で私は彼へ挨拶をした。
噂には聞いていたが、あれから彼の存在は高校入学と同時に周りを轟かせ、何をやるにしても誰一人として敵わなかったらしい。
会うのはあの時以来だろうか。
目の前に着座する彼からは以前にも増して強い妖力への気配が感じ取れた。
唯一、変わらないのは何者にも染まらない冷酷な表情に浮かべるその瞳だけ。
「…ふーん。ま、ちょっとはマシになったんじゃね?」
久しぶりにお会いした彼は幾分か背が伸びたようで美しさと強さにも磨きがかかっていた。
他人を馬鹿にしたような性格は相変わらずのようだったが。
自分の存在も覚えていたようだった。
「光栄です。貴方様にお仕えする今日この日の為に自分を磨いて参りました。誠心誠意、全力で務めさせて頂きます」
「は、別に認めた訳じゃねぇから高望みするだけ無駄だ。例え鬼頭家直近の分家とは言え、一度でも俺が使えねぇと判断すればお前は即クビだ」
それだけ言うと彼は私から視線をそらした。
あの日からなんらお変わりがない態度。
その日から彼との交流が始まった。
浴びせられる嫌味や冷たい態度に動じることも臆することもせず、与えられた仕事を全うした。
最初こそは警戒視していた彼も、ひと月も経てば徐々に耳を傾けてくれるようになった。
そして半年も経てば無駄話を挟む仲にまでなった。
互いに媚びることもせず、ありのままをぶつけ合った。
一緒にいて分かってきたこともあった。
薄々感じてはいたが、やはり性格はゴミだったようだ。
言い寄る女性相手にも毎度ながら接点を持つも面倒ごとを大いに嫌うクズさ。
その後始末を押し付けてくる彼には何度舌打ちをしたか数え切れない。
だがそれでも彼は彼だった。
泣こうが怒ろうが関係ない。
冷酷非道なお顔で裏切り者には一切の容赦をしない残酷さ。
それが鬼頭白夜であることに変わりはなかった。
ムカつくことがあれど、自分を変えた彼の存在に密かに憧れた。
皆が恐れ慄くその姿を追って、ただ只管にその側にお仕い続けた。
気づけば数年が経とうとしていた。
いつしか彼が自分をクビにすることも自然となくなった。
それが私を補佐官として。
その身に仕えることを認めて下さった、彼なりの意志表示だったのではないのだろうか。
「なあ、…や、おい徹夜!」
名前を呼ばれてハッと意識が戻った。
長いこと過去の物思いにふけていたようだ。
「何してんだよ。この後、呼ばれてんだから早く来いって」
見れば彼が私に声をかけて部屋を出ようとするところだった。
急いで後に続くように書類を纏めると自分も立ち上がる。
「どうかしたのか?」
「いえ、失礼致しました。しばし考えごとを」
「あんなに俺の顔を見つめちゃって。あ、もしかして惚れた?」
「やめて下さい。気持ち悪い…」
「強がんなって♡あんなご熱心に俺の顔拝んでたくせに。でも悪ぃな、俺興味あんの時雨と時雨の胸と尻だけなんだわ」
「(クソじゃねぇか)」
一瞬でも憧れを抱いた過去への自分を悔いたい。
結局のところ、この男は脳みそを取替えでもしない限り何も変わることはない。
「貴方のような方を婚約者にもつだなんて。今なら彼女のそのお気持ち、痛くお察ししますよ」
「俺とあいつは両想いなんだから無問題っつーの。キスだってしたんだぜ。もう俺のこと大好きじゃん!!」
「させたの間違いでは?」