「姫君様は今日もなんと尊い」
毎日お顔を拝見すると言わずにはいれなくなってしまいます。
私がまだ姫君様のお母様の侍女として仕えていたとき、姫君様はその頃から本当にお可愛らしくて、常にきゅんでした。
お琴もお母様から習われてサイコーの奏者ですし、何よりも裁縫の技術は神業なんです。
もし衣装を仕立てる競技があれば、『姫君様しか勝たん!』と言えるくらい、それはそれはすごい腕前なんです。
私の推しは姫君様ただお一人。本当に応援せずにはいられないのです。
大好きな人を目の前にしたら多少無理をしてでもその人のためにとなんでもやりたくなりますよね。
まさに愛。そんな気持ちを持って毎日、姫君様の推し活しながらお母様共々お仕えしておりました。
姫君様のお母様は皇族の方でその地位は高く、姫君様もまさに高貴なお方なんです。
ところがですよ、なんとそのお母様が急にお亡くなりになられたことで、姫君様はえぐいことになるんです。
この実のお父様というのが源忠頼というのですが、中納言の役職についてました。他に北の方という奥様がいらっしゃって、情けないことに尻に引かれてるんです。
北の方は息子三人、娘四人をお産みになられ実の子を大層かわいがっておられました。
二男二女はとっくに成人されてますが、最近三の君が成人されて結婚し、四の君はまだ結婚前のお年、そして三郎が一番年下でまだまだおぼっちゃんとお呼びするようなお子様でした。
この時代、夫に愛人がいるのは仕方ない事ですが、その愛人が亡くなって、その娘を引き取って継母になるのを北の方は非常に嫌がりました。普通、誰しもそうなのかもしれません。でも露骨に意地悪する最強ボスだから性質が悪い。
父親の中納言も実の娘なのに、北の方がディスるからそれを真に受けて姫君様に塩対応するんです。だから私めちゃめちゃ怒りました。
こうなったらとことん姫君様についていき、絶対にお守りしようと誓いました。なんせ姫君様は私の尊い推しですし、その推しが幸せにならなければ私は我慢できません。
でもついて行きましたら、姫君様のために用意された部屋というのが寝殿の隣を張り出して造られた十畳くらいの一部屋で、おまけになんと床が低いんですよ。地面に置いた簀の上で暮らすようなもんです。落窪ってる部屋と呼ばれて、そこから名前も『落窪』とつけられてしまうんですよ。
あまりにもディスり過ぎじゃありません? 自分で名づけておいて北の方もやっぱりすごいパワーワードと思ったのか、そこに申し訳なさ程度に姫君を表すために『落窪の君』と呼ぶことにしました。
何なんですかこのふざけた名前は。馬鹿にしながらとりま姫扱い。きっと命名した陰で「じわる~」などとほくそ笑んでいるのかもしれません。
私は悲しいやら悔しいやらそんなのありなのかと憤っていましたら、姫君様は「仕方なき、ありよりのあり」などと我慢されるから、こちらとしては尊重するしかありません。
姫君様は美しい長い髪を持ち、気品があってお顔も申し分ない美少女なのに、どうもご自身に自信がないのが玉に瑕なんです。ちょっと豆腐メンタル的なところがあって、私なんかどうせダメだからと否定的でいつもめそめそされてます。
口癖は『死にたい……』。
ちょっとそれやめてって、もうお気の毒です。そんな姿を見ると歯がゆくてたまりません。
できるだけ元気つけようと明るく応援する思いでいるのですが、いくらこちらが陽キャのパリピになっても姫君様がノってくれないのが寂しいところです。
北の方は姫君様を睨んでは虐めるので、私もいくら姫君様をお守りしたいといっても、身分が違うので面と向かっては歯向かえないのがストレスとなり、本当にどうしてよいのやら悩んでおりました。そして私は無理やり北の方の三の君の侍女にされてしまい、姫君様から離されてしまいました。悲しいです。
でも私が心からお仕えするのは姫君様ただお一人。三の君にはふりだけしておいて、常に姫君様を思っておきます。
黙々と縫い物をされているお姿が本当に健気でいらっしゃる。つややかな長い髪が美しいのに、それに似合わない粗末な衣装で、本当においたわしや。
北の方のパワハラに洗脳されてひたすら自虐になられて、そのお姿を見るのは毎日辛いです。涙目でぴえん。
こうなったら私、絶対に姫君様をお助けしますわ。私にはできる。そう信じて突き進むしかありませんわ。
私には刀を見につけて警護などをする帯刀という職についた夫、惟成がいるんですが、力になってくれるかもしれません。
北の方の仕打ちに負けてなるものですか。私は姫君様を必ずお幸せにしてまいりますわ。この阿漕にどうかお力をお与え下さい――。
ちょうどこうやって神様にお祈りしている時でした。
「阿漕、何をしているの。早く、三の君のお支度を手伝いなさい」
北の方に呼ばれてしまいました。
とにかく今は我慢。三の君の世話をちゃっちゃとやっちゃいます。
姫君様のためなら私も耐えて頑張れる。
だけど、今にみてなさいよ、北の方。このままにしとかないから。
私の姫君様お救い計画は今始まりました――。
毎日お顔を拝見すると言わずにはいれなくなってしまいます。
私がまだ姫君様のお母様の侍女として仕えていたとき、姫君様はその頃から本当にお可愛らしくて、常にきゅんでした。
お琴もお母様から習われてサイコーの奏者ですし、何よりも裁縫の技術は神業なんです。
もし衣装を仕立てる競技があれば、『姫君様しか勝たん!』と言えるくらい、それはそれはすごい腕前なんです。
私の推しは姫君様ただお一人。本当に応援せずにはいられないのです。
大好きな人を目の前にしたら多少無理をしてでもその人のためにとなんでもやりたくなりますよね。
まさに愛。そんな気持ちを持って毎日、姫君様の推し活しながらお母様共々お仕えしておりました。
姫君様のお母様は皇族の方でその地位は高く、姫君様もまさに高貴なお方なんです。
ところがですよ、なんとそのお母様が急にお亡くなりになられたことで、姫君様はえぐいことになるんです。
この実のお父様というのが源忠頼というのですが、中納言の役職についてました。他に北の方という奥様がいらっしゃって、情けないことに尻に引かれてるんです。
北の方は息子三人、娘四人をお産みになられ実の子を大層かわいがっておられました。
二男二女はとっくに成人されてますが、最近三の君が成人されて結婚し、四の君はまだ結婚前のお年、そして三郎が一番年下でまだまだおぼっちゃんとお呼びするようなお子様でした。
この時代、夫に愛人がいるのは仕方ない事ですが、その愛人が亡くなって、その娘を引き取って継母になるのを北の方は非常に嫌がりました。普通、誰しもそうなのかもしれません。でも露骨に意地悪する最強ボスだから性質が悪い。
父親の中納言も実の娘なのに、北の方がディスるからそれを真に受けて姫君様に塩対応するんです。だから私めちゃめちゃ怒りました。
こうなったらとことん姫君様についていき、絶対にお守りしようと誓いました。なんせ姫君様は私の尊い推しですし、その推しが幸せにならなければ私は我慢できません。
でもついて行きましたら、姫君様のために用意された部屋というのが寝殿の隣を張り出して造られた十畳くらいの一部屋で、おまけになんと床が低いんですよ。地面に置いた簀の上で暮らすようなもんです。落窪ってる部屋と呼ばれて、そこから名前も『落窪』とつけられてしまうんですよ。
あまりにもディスり過ぎじゃありません? 自分で名づけておいて北の方もやっぱりすごいパワーワードと思ったのか、そこに申し訳なさ程度に姫君を表すために『落窪の君』と呼ぶことにしました。
何なんですかこのふざけた名前は。馬鹿にしながらとりま姫扱い。きっと命名した陰で「じわる~」などとほくそ笑んでいるのかもしれません。
私は悲しいやら悔しいやらそんなのありなのかと憤っていましたら、姫君様は「仕方なき、ありよりのあり」などと我慢されるから、こちらとしては尊重するしかありません。
姫君様は美しい長い髪を持ち、気品があってお顔も申し分ない美少女なのに、どうもご自身に自信がないのが玉に瑕なんです。ちょっと豆腐メンタル的なところがあって、私なんかどうせダメだからと否定的でいつもめそめそされてます。
口癖は『死にたい……』。
ちょっとそれやめてって、もうお気の毒です。そんな姿を見ると歯がゆくてたまりません。
できるだけ元気つけようと明るく応援する思いでいるのですが、いくらこちらが陽キャのパリピになっても姫君様がノってくれないのが寂しいところです。
北の方は姫君様を睨んでは虐めるので、私もいくら姫君様をお守りしたいといっても、身分が違うので面と向かっては歯向かえないのがストレスとなり、本当にどうしてよいのやら悩んでおりました。そして私は無理やり北の方の三の君の侍女にされてしまい、姫君様から離されてしまいました。悲しいです。
でも私が心からお仕えするのは姫君様ただお一人。三の君にはふりだけしておいて、常に姫君様を思っておきます。
黙々と縫い物をされているお姿が本当に健気でいらっしゃる。つややかな長い髪が美しいのに、それに似合わない粗末な衣装で、本当においたわしや。
北の方のパワハラに洗脳されてひたすら自虐になられて、そのお姿を見るのは毎日辛いです。涙目でぴえん。
こうなったら私、絶対に姫君様をお助けしますわ。私にはできる。そう信じて突き進むしかありませんわ。
私には刀を見につけて警護などをする帯刀という職についた夫、惟成がいるんですが、力になってくれるかもしれません。
北の方の仕打ちに負けてなるものですか。私は姫君様を必ずお幸せにしてまいりますわ。この阿漕にどうかお力をお与え下さい――。
ちょうどこうやって神様にお祈りしている時でした。
「阿漕、何をしているの。早く、三の君のお支度を手伝いなさい」
北の方に呼ばれてしまいました。
とにかく今は我慢。三の君の世話をちゃっちゃとやっちゃいます。
姫君様のためなら私も耐えて頑張れる。
だけど、今にみてなさいよ、北の方。このままにしとかないから。
私の姫君様お救い計画は今始まりました――。