お母さんという強敵を話に持ち込み、どうにか畑中の誘いを、張り巡らされた網の間を掻い潜るように、切り抜けようとする。子供は親に、従わなければいけない。
 「じゃあお母さんも連れてけよ」
 「そういう問題じゃない」
 ここからは、畑中の口八丁に乗せられて、僕たちは、南野トンネルへと行く羽目になった。

 夜九時ごろ、トンネルの中に入ると、僕の周りの世界はたちまち暗くなった。幽霊が出てきたところで、気がつかない恐れもあるので、持参してきたライトで照らす。
 畑中は僕のことを気に留めることなく、ズンズンと進んでいく。
 僕たちの足音と、荒い息遣いだけが、トンネル内には存在していた。
 「おい、待て」
 畑中が足を止める。僕が足を止めた途端、耳からくる情報に、僕は卒倒しそうになった。
 僕たちは足を止めているはずなのに、何らかのとても小さな足音が鳴っていたからだ。それは、トコトコと言うよりも、サワサワとした感じだった。虫だろうか。
 その足音は、どんどん僕たちのところへと、近づいてくる気がする。
 幽霊はどこにいるのだ、と訝っていると、僕の足元に、頭の上の方が灰色の、小型人間がいたものだから、僕は「ひっ」と甲高い声を上げてしまう。
 畑中は僕を見て、僕の指差した方へと視線を向ける。
 「で、でたああ!」
 「すみません、すみません」