A「あー、あー」
 「響き方は、普通だな」
 「中、入るのか」
 「入るに決まってるだろ。何のために来たんだよ」
 僕たちは今、南野トンネルに来ていた。周りは暗く、肌に当たる風が冷たい。木々のざわざわとした音が、僕たちをより一層怯えさせる。
 なぜ、南野トンネルに来たのか。それは、教室で隣の席に座る畑中が、休み時間に誘ってきたからだった。
 
 「おい間宮、南野トンネルってあるじゃん?」
 「あー、あのボロボロのトンネルね。もしかして、崩れたのか?」
 「そんなにボロいわけじゃない。実はな、あそこで女性の幽霊が目撃されているんだ」
 「嘘」
 畑中は、人間が行う排泄の一日の回数分くらい、いつも僕に嘘をつく。
 畑中のつく嘘は毎回巧妙で、どうせ嘘だと分かっていても、確認せずにはいられなかった。ただ、今回の嘘は、幽霊が登場する、胡散臭さ満点の話だったため、僕は少し、安心している。
 「本当だって。俺が嘘ついたことあったか?」
 「嘘つくなよ」
 「一匹狼って、かっこいいよな」
 それは、狼だからかっこいいんだろうと、僕は心の中で反論する。
 「家から近いんだしさ。行くしかないだろ」
 「けどさ、幽霊を見るってなると、夜でしょ? お母さんに心配かけちゃうよ」