(さて)

 アストライアはシンを連れてライゼーテのもとへ行く。

「どういうことか説明してくれる? 魔獣を侵入させた黒幕のお父様」
「……」

 そもそも、この警備の厳しい魔王城に侵入者がいること自体おかしかったのだ。
 魔王城を領域とするライゼーテが魔獣が現れるまで気づかないのも、天才と謳われる筆頭魔術師のヒューリと、ライゼーテに次ぐ実力を持つオズヴィーンが討伐しないのも。

「試していたんでしょう? シンのことを」

 シンは人間で、魔王軍の敵だ。
 だから、味方であると証明しなければならなかったのだ。

「緊急時の行動は本性が出る。すぐに逃げれば弱く、緊急時(これ)を利用すれば腕のいい暗殺者。……そして、誓いと変わらず私を守れば信用に足りる。そうでしょう?」

 シンは逃げることなく、アストライアを守り、混乱を鎮めた。実力も、精神も、信用するに値する。

「答え合わせの時間よ。お父様」

 ライゼーテは口を開いた。
 そしてーー



「全て正解だ、アストライア」



 アストライアの予想は合っていた。

「シンの実力と精神を試した。そして、シンはそれに合格した。……魔王ライゼーテの名のもとに、シンをアストライアの従者と認める」
「!」

 つまり、これでシンは正式な従者になったと言うことだ。
 そして、とライゼーテが続けた。

「シンを、オズヴィーンの養子に入れることを決める」
「!!!」

 オズヴィーンは魔界でも随一の権力を持つ家の出だ。これで「人間」であること以外の課題の身分、「平民」から「貴族」に変わった。周りの見る目も変わってくるだろう。

「シン。其方は人間だ。だが、其方は人間であることを隠さず、努力を重ね、アストライアに相応しい従者となった。そのことを、我は知っている」
「……!」
「よって、其方を特例で貴族とし、アストライアの隣にいることを許す。……その重大さ、責任を抱えてでもアストライアの従者となることを望むか?」

 これは、誓いだ。

「はい」

 永遠に続く、命を賭してでも誓うこと。

「私は、絶対の忠誠を、誓います」

 ライゼーテはそれを聞き入れた。

「其方は、我らの仲間だ」

 わああああっ!と歓声が上がった。
 今宵は祝福の宴だ。

「シン」
「アストライア様」
「これからもよろしくね」
「こちらこそ」

 踊り、舞い、歌い、にぎやかな夜が過ぎた。



「シン」

 そしてパーティが終わった夜。
 二人はアストライアの部屋で話をしていた。

「私のために、ありがとう」
「俺はティアに救われた。だから俺も、ティアの望むことをしたいと思ったんだ」
「昔のシンは私が守ってあげないといけない子だったのに、それに、背も同じくらいだったのにね」
「ティア、昔の話はやめてくれ」
「えー? シンが可愛いんだもの」
「かわ……。可愛いはないだろ」
「そうかしら? ふふっ」
「……」

 シン、とアストライアが呼んだ。

「ねぇ、キスして」
「……、……何言ってるんだ?」

 主人と従者。
 魔族と人間。
 なのに、そんなことをアストライアは要求してきた。

「いいじゃない、別に。それとも何してるの?」
「そうじゃないが……」
「ならいいでしょ? ねぇ、して?」
「〜〜っ」

 シンは、アストライアを好いていて。
 アストライアも、シンを愛している。

「だめ?」

 そんな顔で言われたら、せざるをえない。

「……後悔しても知りませんよ」
「しないわ」
「はぁ、またそうやって……」

 シンは頭を抱える。
 アストライアがシンに迫る。

「私、シンが好きよ」
「っ……」
「シンは私の自慢の騎士(ナイト)よ」
「……俺も」
「ん?」
「俺も、ティアを愛している」
「……ふふっ。ありがとう」

 そして二人は優しいキスをした。

「……勇者、絶対に倒すわよ」
「ええ。そのために従者になって、結果的にティアを好きになった」
「あら。運命みたいなことを言うのね」
「運命でないのなら、なんだと言うんだ」

 シンも随分と変わったな、とティアは思った。

「シン、大好き」
「ああ。俺もだ」

 そして二人はまたキスをして、ふっと笑い合うのだった。



【第一部・完結】