どこからか悲鳴が上がり、獰猛な唸り声が響く。異変に気づいたシンは真っ先にアストライアのもとに駆けつけた。
「アストライア様、これは……」
「魔獣。それも、上位の」
魔獣は以上に魔力を帯びた獣のことだ。魔界には多く存在しているが、警備の硬い魔王城に現れることはありえない。
となるとーー
「裏で糸を引いている者がいます」
「みたいね。けれど、今するべきことではないわ。優先すべきなのはーー」
アストライアに向かって魔獣が走る。
だがアストライアに届く前に、魔獣の動きが止まった。
「魔獣の対処ね」
そして、魔獣の四肢がバラバラに斬られ、鮮血が飛んだ。シンが高速で斬ったのだ。
シンは剣をしまい、アストライアに跪いて許可を申請する。
「どうか、御身を守るために剣を振るうことをお許しください」
「絶対に、死なないと約束して」
「お約束いたします」
そう言うと、シンは立ち上がり剣を取り出す。魔獣討伐の戦闘態勢に入った次の瞬間だった。
「【止まれ】」
「「!?」」
この場の全員の動きが止まった。強制的にだ。魔法によるもの。だが広範囲、大人数相手に簡単に行使できるはずがない。少なくとも長い詠唱をする必要がある。だが短縮詠唱でやってのける者など、いるのだろうか。
ーーいるとしたら、一人しかいない。
「(ヒューリおじさま!)」
「(ヒューリ様!)」
筆頭魔術師、ヒューリ・エイベルだけだ。
「一斉に魔法を放たれたら地獄絵図を作ることになっちゃうからね。先に封じさせてもらったよ。……【転移】」
「っ!」
九割ほどの魔族が【転移】によって飛ばされる。避難のためだ。さすがのヒューリでも全員を避難させるのは無理なことらしい。
「あとはできるね? シン。アストライア」
「っ、当然」
「期待に応えて見せます」
シンは剣を、アストライアは体に魔力を巡らせる。魔獣との戦闘が始まる。