「いいのか? レオンハルト兄さん」
「なにが?」
「アストライアのことだよ」

 中心で踊るアストライアとシンに、ユリウスは視線を向けた。レオンハルトは少し見ると、ユリウスに言う。

「……邪魔してやりたいが、アストライアが楽しんでいる。それを邪魔することは兄であってもダメだと思うんだ」
「そうだな」

 あんなに自然な笑顔を見たことがない、とユリウスが言う。
 すると、後ろからラウアノースとフェイランが現れた。

「もう、レオンハルト兄さんもユリウス兄さんもアストライアちゃんのことが大好きね」
「ラウアノースもだろう?」
「えぇ。でも、私は兄さんたちとは違って、アストライアちゃんの邪魔をしようだなんて考え、ないもの。少なくとも兄さんたちとは違った愛を持っていると思っているわよ」
「ははっ、そうだな」

 談笑していると、ラウアノースの後ろで控えていたフェイランが一歩前に出た。

「……アストライアに聞こえますよ、兄さん、ララ」
「大丈夫だ。そうならないように防音の結界を張ってある。安心していいぞ」
「いつのまに……。ならいいです」

 いつも無口なフェイランだが、一番気を遣っている。一番はラウアノースだが、アストライアにもわかりにくい愛情を注いでいる。
 するとレオンハルトのもとに一人の魔族がやってきた。黒いタキシードを着た男だ。

「レオンハルト様」

 男はレオンハルトの前で止まり、跪いた。

「遅くなりました」
「構わない。一応何をしていたか教えてくれ、オリバー」
「はっ」

 男……オリバーは状況を説明した。

「アストライア様とシンが共に踊る姿には性別を問わず見惚れてしまうお方が何人もおりました。それ故にその者たちの対処にあたっていました」
「そうか」

 レオンハルトは中央に視線を向ける。
 アストライアとシンはお似合いだ。
 人間と魔族、主人と従者でなければ、結婚も視野に入れることができただろう。

「……それで? 例のものは準備できたのか?」
「はい。全員配置を終えました。あとは魔王様の指示を待つのみです」

 レオンハルトは黒い笑みを見せる。
 ユリウスとラウアノース、フェイランはレオンハルトが笑った理由がわからず、怪しむ。

「……何を企んでいるんだ、レオンハルト」

 あえてユリウスは「兄さん」をつけずに言った。明らかにレオンハルトは何かが怪しい。

「その台詞(セリフ)だと、お父様も絡んでいるのよね? どういうことなの?」
「……ララに危険が及ぶことなら、俺はレオンハルト兄さんでも許さないよ」
「そんなにみんなして警戒しなくても平気だよ。それに、これを提案したのは父上だ。俺に非はない。俺は命令されて遂行するだけ。怒るなら父上にしてくれよ?」

 何がこれから始まるのか。
 三人には想像もつかない。

「【レオンハルト、始めろ】」
「っ!」

 レオンハルトだけに魔王の指示が通る。
 おそらくヒューリの魔法によるものだろう。

「……じゃ、はじめるとしますか」

 レオンハルトはオリバーに合図する。
 オリバーは会釈すると、胸元のポケットから何かを取り出した。魔力を込めると、大きな音を立てて爆発した。
 最初に反応したのはユリウスだ。前方に【防御】の結界を施す。次に動いたのはフェイランだ。ラウアノースの前に出て、剣を構えた。
 叫び声が響く。
 煙が立ち込め、怪しい影が姿を見せる。

「なんだ、あれは……」

 視線の先には、数十体の魔獣が出現していた。