剣術大会では、予選を勝ち抜いた十人が本戦への出場権を獲得できる。様々な剣士たちが挑むため、強さもバラバラだ。また、数も多いため本選への出場権を獲得できた者は、相当な実力者といえる。
すでにシンとオリバーは本選への出場権を獲得したが、オズヴィーンとヒューリはまだあと一戦、残っている。
不運だったともいえるし、強運だったともいえる。実力者と戦えるのは、本戦に出場できるのみがほとんどだからだ。だからこそ、まさか予選最終戦で二人があたるだなんて、誰も思っていなかった。
「どう思う、シン?」
「なにが?」
「オズヴィーン様とヒューリ様に決まってるじゃん。どっちが強いと思う?」
「……分野が違うから何とも言えない」
「ま、そうなんだけど」
オズヴィーンは若くして剣の才を発揮し、最年少で騎士団長の座に君臨した男だ。もとは平民の出だったが、彼の才を見抜いた前騎士団長が特例で騎士団に入れたのだった。
「生い立ちを考えると、シンってオズヴィーン様に似てるよね」
「そうか?」
「そうだよ。だってシンは人間で平民だったけどアストライア様がシンの才能を見抜いて主従契約して結果的にシンは騎士団に所属することになったじゃん? 似てる似てる」
(よくしゃべるな……)
一方ヒューリは魔王ライゼーテの実弟で、幼少期から魔術の研究を行ってきた者だ。その時から魔術の才を発揮しており、多くの研究に携わり、功績を残している。何も知らない者から見たらただの回復薬の匂いが漂う生活力のない中年に見えるが、身なりをきちんと整えればそれなりに美形(だし一応二十代)だ。
そんなヒューリの残念なところはやる気を起こさないことだ。興味のあるものにはとことん力を注ぐのだが、そうでないものは至極どうでもいいと思っている面倒な男である。
だが裏を返せばヒューリに少しでも興味を抱かせれば何とかなると言うことだ。言葉の使い用によっては自身の味方につけることも可能だろう。味方になれば強い戦力になるのは確実である。
オズヴィーンもヒューリも、互いに努力して今の地位についた実力者だ。分野は違えど、間違いなくレベル的には互角。あとは戦闘時の頭脳が勝敗を分けることだろう。
剣術最強と魔術最強の対決。これを見逃せる魔族はーーいない。
「うおーっ! 早く戦えーっ!」
「見せろ観せろ魅せろーっ!」
会場は開始十分前でこの盛り上がり。いかに二人の対決に魔界が注目しているのかがうかがえる。
「剣術大会なら、やっぱ騎士団長が勝つんじゃね?」
「いやいや、魔術ありなんだろ? 筆頭魔術師が勝つ可能性も十分にありえるぞ」
「あ〜〜っ! 早く見たい……っ!」
熱気に包まれ、コールが始まる。
「すごいな、これは」
「だね。予想以上だ」
こんなふうに落ち着いて話せるのはシンとオリバーくらいだろう。
そして、試合開始の時間となった。
「予選最終戦! 騎士団長オズヴィーン! 筆頭魔術師ヒューリ! 入場だぁ!」
オズヴィーンとヒューリが姿を現す。会場はさらに盛り上がりを見せる。
「では参りましょう! 試合、開始だーーっ!」
合図が出されると同時に、オズヴィーンが一気に距離を詰める。魔力なしでその速さはシンが【風吹】を使った時以上。からの、連撃。
(動きが速すぎて、全然わからない)
だが、そんなオズヴィーンの連撃を、ヒューリは剣で軽くあしらう。面白そうに微笑していることから、余裕が見てとれる。
(ヒューリ様って、剣術もいけるのか。意外だ)
「準備運動はこのくらいにしよっか。……【火焔】」
「っ、……【氷結】」
ヒューリの【火焔】とオズヴィーンの【氷結】が衝突し、視界が悪くなった。水蒸気爆発だ。オズヴィーンはひるまず前進。ヒューリは防御を諦め、魔法での攻撃を始める。
「【創造】【促成】【拡大】【火焔】【氷結】【天雷】【風吹】」
(! あれは……っ)
【創造】によって創られた種子を【促成】させ花を咲かせたものを【拡大】、【火焔】【氷結】【天雷】の能力を付与させ、【風吹】によって速度を向上させたヒューリ考案の合成魔法生物ーーその名も死狂花。
(またえげつないのを創ったな……)
観客として見ている分には面白いが、いざ戦えとなれば、シンは命令でない限り即離脱すると確信している。
(アレとどうやって戦うのか……)
創造したヒューリが解除するか魔力が枯渇すれば消えるが、それ以外に方法は一つしかない。ーー死狂花の核を破壊すればいいのだ。
だがヒューリの創り出した死狂花は一般的なものと違い、戦闘能力も防御能力も高く、核も複数存在している。しかも、時間が経てば自然に回復するため、短時間で倒すことができなければ、体力や魔力を無駄に消費して終わることになる。
まさに死期を狂わせる花だ。
「さあ君はどうする? オズヴィーン」
「……勝利のために、心苦しくありますが討伐させていただきます」
「ふ〜ん。じゃ、今後の実験のためにも相手をしてくれないかい?」
「……承知致しました」
オズヴィーンはそう言うと、死狂花へと走り出す。死狂花からは無数の魔法が打ち出される。オズヴィーンは【防御】を発動しつつ、そのほとんどを避け死狂花の核へと狙いを定める。
ヒューリはオズヴィーンの動きや躱し方を熱心に見つめ、ぶつぶつと呟いていた。
「……そこか」
オズヴィーンは眼で核の数と正確な位置を割り出すと、【転移】を使ったのかと思うほどの速さで核を撃つ。その動きにシンとオリバーは見覚えがあった。
「シン、あれ……」
「あぁ、剣舞【春桜の舞】だ」
【春桜の舞】とは、魔界に存在する剣舞の一つだ。剣舞とは一般的には剣を持って踊ることを指すのだが、騎士団では剣技をより美しくするため、剣舞を取り入れた訓練をしている。
その中でもかなり難しく、だが美しい剣舞が【春桜の舞】とされている。オズヴィーンはそんな【春桜の舞】を使ってヒューリの死狂花の核を破壊している。観客が興奮しないはずなかった。
「すっげぇ〜〜!」
「騎士団長カッコいい〜!」
「ヒューリ様もすごいけど、オズヴィーン様もやっぱすごい!!!」
十数秒もすると、オズヴィーンは全ての核を破壊し、死狂花を討伐したのだった。
「いやぁ、さすが騎士団長と言ったところかな。すごいすごい。私の開発した死狂花がすぐに倒されてしまった」
「……ですが、まだ死狂花の実験は始まって一週間も経っていないのでしょう? 倒せて当然です」
「おや、そうかね? 嬉しいな。……では、そろそろ本気を出すとしよう」
「…………」
ヒューリの言葉にオズヴィーンは警戒する。そしてーー
「【破壊】」
「……っ」
地が割れ、観客もどよめく。その先を狙ってヒューリは高く【飛翔】すると、空から魔法を展開、発動させた。
「【火焔】【氷結】【天雷】」
「っ……【防御】」
ヒューリの攻撃を避けきれないと判断したオズヴィーンは、高密度の【防御】を発動させる。そしてヒューリと同じように【飛翔】した。
「うーん、まだ来られると困るんだよねぇ。……【業火】」
「!」
(【業火】……!?)
【業火】は【火焔】よりも火力の強い魔法だ。もちろんその分魔力消費も大きいのだが、ヒューリは必要最低限の魔力で【業火】を発動させる。ーーオズヴィーンの【防御】を破壊できるギリギリの魔力を籠めて。
「……っ、【停止】【凍結】!」
それに対してオズヴィーンは降り注ぐ【業火】を【停止】させ、【凍結】した。【凍結】は【氷結】よりも魔力消費の大きい魔法だ。それ故に【業火】を打ち消す威力を出せるのだ。
オズヴィーンもヒューリと同じくらいの高さへと行く。ここからは空中戦だ。
「いやぁ、仕留め損ねてしまった」
「……私も、これほど魔法を使うとは予想していませんでした。剣士の恥です」
だが、そうでもしなければオズヴィーンはヒューリに近づくことができない。ヒューリはこれ以上オズヴィーンが近づくと、オズヴィーンからの剣撃を受けることになる。
どちらが優勢な距離を取ることができるかが、この勝負を決めるのだ。
「……オズヴィーン。次の一撃で勝負を決めよう」
「詳しくお聞かせ願います」
「私は魔術で、オズヴィーンは剣術で攻撃する。どうだ?」
「…………」
この勝負、明らかにヒューリの勝ちだ。剣で一撃する。それは『【防御】をしてはいけない』という意味である。
【防御】は魔法並みに有効なので、剣術には効かない。従ってヒューリは攻撃魔法を使うことになる。だが魔法は剣で相殺することができない。つまりこれは、ヒューリのオズヴィーンへの挑戦状だ。
魔法の敵は魔法しかないと証明するための舞台なのだ。
「どうする? オズヴィーン」
「……わかりました。その話、お受けしましょう」
周りがざわめく。当然の反応だ。
(師匠は何を考えているんだ……? ヒューリ様も、嫌な賭けを持ってくる)
オズヴィーンの考えも、ヒューリの考えも、シンにはわからない。オリバーはどうなのだろうか。視線を移すと、そこには真面目に見つめるオリバーがいた。
だが、オリバーの視線はオズヴィーンとヒューリではなく、【破壊】によって割れた地面を見ていた。何もない、ただの地面だ。
(オリバーには何が見えているんだ)
それすらも、シンにはわからない。
オズヴィーンは構えを取る。ヒューリは笑みを浮かべながら魔法陣を展開した。
「いざ、」
「尋常に」
「「勝負っ!!」」
これは、男と男の勝負であり、武術と魔術と優劣を決める戦いであり、そしてーー。
大きな音がして、煙が上がる。観客は静かに勝負の行方を見守っている。風が幕を開け、結果を伝えた。
ーーオズヴィーンがヒューリの首元に剣をあてていた。
「……降参だ」
ヒューリから降参の言葉が出た。試合のルールに則り、この勝負、オズヴィーンの勝利である。
観衆が試合の結末に歓声を上げる。これで予選は全て終了である。だがしかし、この試合の裏側を知る人間は、一割にも満たないだろう。
「シン、見えたか?」
「……あぁ。あれは、ヒューリ様の慈悲だ」
シンとオリバーには、ヒューリがわざと水蒸気爆発を起こして姿を隠し、そして、二人が小さく話していた声が聞こえていた。
『魔術師にこの大会は相応しくない。オズヴィーンと戦うことが私の目的だったから、もういいよ』
『……あなたは嘘をついていますね』
『ははっ、オズヴィーンの想像に任せるよ』
『…………』
そう言って、ヒューリは【風吹】で煙を飛ばし、降参の意を示したのだった。
「……でも、ヒューリ様の気まぐれでもオズヴィーン様の勝ちは勝ちだ」
「あぁ。だけど、気分のいいものではないな。偽物の勝利ほど、嫌なものはない」
「そうだな」
結局、オズヴィーンの勝利以外、シンにはわからなかったのだった。
すでにシンとオリバーは本選への出場権を獲得したが、オズヴィーンとヒューリはまだあと一戦、残っている。
不運だったともいえるし、強運だったともいえる。実力者と戦えるのは、本戦に出場できるのみがほとんどだからだ。だからこそ、まさか予選最終戦で二人があたるだなんて、誰も思っていなかった。
「どう思う、シン?」
「なにが?」
「オズヴィーン様とヒューリ様に決まってるじゃん。どっちが強いと思う?」
「……分野が違うから何とも言えない」
「ま、そうなんだけど」
オズヴィーンは若くして剣の才を発揮し、最年少で騎士団長の座に君臨した男だ。もとは平民の出だったが、彼の才を見抜いた前騎士団長が特例で騎士団に入れたのだった。
「生い立ちを考えると、シンってオズヴィーン様に似てるよね」
「そうか?」
「そうだよ。だってシンは人間で平民だったけどアストライア様がシンの才能を見抜いて主従契約して結果的にシンは騎士団に所属することになったじゃん? 似てる似てる」
(よくしゃべるな……)
一方ヒューリは魔王ライゼーテの実弟で、幼少期から魔術の研究を行ってきた者だ。その時から魔術の才を発揮しており、多くの研究に携わり、功績を残している。何も知らない者から見たらただの回復薬の匂いが漂う生活力のない中年に見えるが、身なりをきちんと整えればそれなりに美形(だし一応二十代)だ。
そんなヒューリの残念なところはやる気を起こさないことだ。興味のあるものにはとことん力を注ぐのだが、そうでないものは至極どうでもいいと思っている面倒な男である。
だが裏を返せばヒューリに少しでも興味を抱かせれば何とかなると言うことだ。言葉の使い用によっては自身の味方につけることも可能だろう。味方になれば強い戦力になるのは確実である。
オズヴィーンもヒューリも、互いに努力して今の地位についた実力者だ。分野は違えど、間違いなくレベル的には互角。あとは戦闘時の頭脳が勝敗を分けることだろう。
剣術最強と魔術最強の対決。これを見逃せる魔族はーーいない。
「うおーっ! 早く戦えーっ!」
「見せろ観せろ魅せろーっ!」
会場は開始十分前でこの盛り上がり。いかに二人の対決に魔界が注目しているのかがうかがえる。
「剣術大会なら、やっぱ騎士団長が勝つんじゃね?」
「いやいや、魔術ありなんだろ? 筆頭魔術師が勝つ可能性も十分にありえるぞ」
「あ〜〜っ! 早く見たい……っ!」
熱気に包まれ、コールが始まる。
「すごいな、これは」
「だね。予想以上だ」
こんなふうに落ち着いて話せるのはシンとオリバーくらいだろう。
そして、試合開始の時間となった。
「予選最終戦! 騎士団長オズヴィーン! 筆頭魔術師ヒューリ! 入場だぁ!」
オズヴィーンとヒューリが姿を現す。会場はさらに盛り上がりを見せる。
「では参りましょう! 試合、開始だーーっ!」
合図が出されると同時に、オズヴィーンが一気に距離を詰める。魔力なしでその速さはシンが【風吹】を使った時以上。からの、連撃。
(動きが速すぎて、全然わからない)
だが、そんなオズヴィーンの連撃を、ヒューリは剣で軽くあしらう。面白そうに微笑していることから、余裕が見てとれる。
(ヒューリ様って、剣術もいけるのか。意外だ)
「準備運動はこのくらいにしよっか。……【火焔】」
「っ、……【氷結】」
ヒューリの【火焔】とオズヴィーンの【氷結】が衝突し、視界が悪くなった。水蒸気爆発だ。オズヴィーンはひるまず前進。ヒューリは防御を諦め、魔法での攻撃を始める。
「【創造】【促成】【拡大】【火焔】【氷結】【天雷】【風吹】」
(! あれは……っ)
【創造】によって創られた種子を【促成】させ花を咲かせたものを【拡大】、【火焔】【氷結】【天雷】の能力を付与させ、【風吹】によって速度を向上させたヒューリ考案の合成魔法生物ーーその名も死狂花。
(またえげつないのを創ったな……)
観客として見ている分には面白いが、いざ戦えとなれば、シンは命令でない限り即離脱すると確信している。
(アレとどうやって戦うのか……)
創造したヒューリが解除するか魔力が枯渇すれば消えるが、それ以外に方法は一つしかない。ーー死狂花の核を破壊すればいいのだ。
だがヒューリの創り出した死狂花は一般的なものと違い、戦闘能力も防御能力も高く、核も複数存在している。しかも、時間が経てば自然に回復するため、短時間で倒すことができなければ、体力や魔力を無駄に消費して終わることになる。
まさに死期を狂わせる花だ。
「さあ君はどうする? オズヴィーン」
「……勝利のために、心苦しくありますが討伐させていただきます」
「ふ〜ん。じゃ、今後の実験のためにも相手をしてくれないかい?」
「……承知致しました」
オズヴィーンはそう言うと、死狂花へと走り出す。死狂花からは無数の魔法が打ち出される。オズヴィーンは【防御】を発動しつつ、そのほとんどを避け死狂花の核へと狙いを定める。
ヒューリはオズヴィーンの動きや躱し方を熱心に見つめ、ぶつぶつと呟いていた。
「……そこか」
オズヴィーンは眼で核の数と正確な位置を割り出すと、【転移】を使ったのかと思うほどの速さで核を撃つ。その動きにシンとオリバーは見覚えがあった。
「シン、あれ……」
「あぁ、剣舞【春桜の舞】だ」
【春桜の舞】とは、魔界に存在する剣舞の一つだ。剣舞とは一般的には剣を持って踊ることを指すのだが、騎士団では剣技をより美しくするため、剣舞を取り入れた訓練をしている。
その中でもかなり難しく、だが美しい剣舞が【春桜の舞】とされている。オズヴィーンはそんな【春桜の舞】を使ってヒューリの死狂花の核を破壊している。観客が興奮しないはずなかった。
「すっげぇ〜〜!」
「騎士団長カッコいい〜!」
「ヒューリ様もすごいけど、オズヴィーン様もやっぱすごい!!!」
十数秒もすると、オズヴィーンは全ての核を破壊し、死狂花を討伐したのだった。
「いやぁ、さすが騎士団長と言ったところかな。すごいすごい。私の開発した死狂花がすぐに倒されてしまった」
「……ですが、まだ死狂花の実験は始まって一週間も経っていないのでしょう? 倒せて当然です」
「おや、そうかね? 嬉しいな。……では、そろそろ本気を出すとしよう」
「…………」
ヒューリの言葉にオズヴィーンは警戒する。そしてーー
「【破壊】」
「……っ」
地が割れ、観客もどよめく。その先を狙ってヒューリは高く【飛翔】すると、空から魔法を展開、発動させた。
「【火焔】【氷結】【天雷】」
「っ……【防御】」
ヒューリの攻撃を避けきれないと判断したオズヴィーンは、高密度の【防御】を発動させる。そしてヒューリと同じように【飛翔】した。
「うーん、まだ来られると困るんだよねぇ。……【業火】」
「!」
(【業火】……!?)
【業火】は【火焔】よりも火力の強い魔法だ。もちろんその分魔力消費も大きいのだが、ヒューリは必要最低限の魔力で【業火】を発動させる。ーーオズヴィーンの【防御】を破壊できるギリギリの魔力を籠めて。
「……っ、【停止】【凍結】!」
それに対してオズヴィーンは降り注ぐ【業火】を【停止】させ、【凍結】した。【凍結】は【氷結】よりも魔力消費の大きい魔法だ。それ故に【業火】を打ち消す威力を出せるのだ。
オズヴィーンもヒューリと同じくらいの高さへと行く。ここからは空中戦だ。
「いやぁ、仕留め損ねてしまった」
「……私も、これほど魔法を使うとは予想していませんでした。剣士の恥です」
だが、そうでもしなければオズヴィーンはヒューリに近づくことができない。ヒューリはこれ以上オズヴィーンが近づくと、オズヴィーンからの剣撃を受けることになる。
どちらが優勢な距離を取ることができるかが、この勝負を決めるのだ。
「……オズヴィーン。次の一撃で勝負を決めよう」
「詳しくお聞かせ願います」
「私は魔術で、オズヴィーンは剣術で攻撃する。どうだ?」
「…………」
この勝負、明らかにヒューリの勝ちだ。剣で一撃する。それは『【防御】をしてはいけない』という意味である。
【防御】は魔法並みに有効なので、剣術には効かない。従ってヒューリは攻撃魔法を使うことになる。だが魔法は剣で相殺することができない。つまりこれは、ヒューリのオズヴィーンへの挑戦状だ。
魔法の敵は魔法しかないと証明するための舞台なのだ。
「どうする? オズヴィーン」
「……わかりました。その話、お受けしましょう」
周りがざわめく。当然の反応だ。
(師匠は何を考えているんだ……? ヒューリ様も、嫌な賭けを持ってくる)
オズヴィーンの考えも、ヒューリの考えも、シンにはわからない。オリバーはどうなのだろうか。視線を移すと、そこには真面目に見つめるオリバーがいた。
だが、オリバーの視線はオズヴィーンとヒューリではなく、【破壊】によって割れた地面を見ていた。何もない、ただの地面だ。
(オリバーには何が見えているんだ)
それすらも、シンにはわからない。
オズヴィーンは構えを取る。ヒューリは笑みを浮かべながら魔法陣を展開した。
「いざ、」
「尋常に」
「「勝負っ!!」」
これは、男と男の勝負であり、武術と魔術と優劣を決める戦いであり、そしてーー。
大きな音がして、煙が上がる。観客は静かに勝負の行方を見守っている。風が幕を開け、結果を伝えた。
ーーオズヴィーンがヒューリの首元に剣をあてていた。
「……降参だ」
ヒューリから降参の言葉が出た。試合のルールに則り、この勝負、オズヴィーンの勝利である。
観衆が試合の結末に歓声を上げる。これで予選は全て終了である。だがしかし、この試合の裏側を知る人間は、一割にも満たないだろう。
「シン、見えたか?」
「……あぁ。あれは、ヒューリ様の慈悲だ」
シンとオリバーには、ヒューリがわざと水蒸気爆発を起こして姿を隠し、そして、二人が小さく話していた声が聞こえていた。
『魔術師にこの大会は相応しくない。オズヴィーンと戦うことが私の目的だったから、もういいよ』
『……あなたは嘘をついていますね』
『ははっ、オズヴィーンの想像に任せるよ』
『…………』
そう言って、ヒューリは【風吹】で煙を飛ばし、降参の意を示したのだった。
「……でも、ヒューリ様の気まぐれでもオズヴィーン様の勝ちは勝ちだ」
「あぁ。だけど、気分のいいものではないな。偽物の勝利ほど、嫌なものはない」
「そうだな」
結局、オズヴィーンの勝利以外、シンにはわからなかったのだった。