朝日の眩しさに俺は目を覚ました。
ぼうっとしながらお堂に入っていく。そこには、昨日の旅の坊主が座っていた。
「お前はずっとそこにいたか」
俺が尋ねると、坊主は「いかにも」と頷いた。
俺はがっくりと膝をついた。俺のような鬼畜の目では、このような尊い僧侶の姿を捕らえることはできぬらしい。
坊主は静かに尋ねてきた。
「ひもじいのか? もし拙僧の肉でよければ、これで腹を満たしなさい」
俺はその言葉を黙って聞いていた。そして、首をゆっくりと左右に振った。
この坊主の肉では、己の腹は満たされない。いや、他の誰の肉であっても。
お前の肉でしか、俺は満たされないのだ。 俺が項垂れていると、坊主はゆっくり立ち上がって俺の頭を軽く叩き、被っていた青い頭巾を被せた。そして、俺に向かって呟いた。
「江月照松風吹 永夜清宵何所為」
俺はぼんやりと顔を上げて坊主を見た。
坊主は「この真意を探求しなさい」と静かに告げ、俺の前を立ち去った。
月が入江を照らす。松に風が吹く。この永く清らかな宵は、何の為にあるのか。
何の為にあるのか。
永い、永いこの、お前と戯れることのできない宵。
何の為にあるのか。
お前がいないのに。