翌日。まだ日の高いうちに快庵は里の近くにある山寺を目指していた。
「ひどいありさまだ」
山門には荊が絡まっている。どこもかしこも苔が生え、蜘蛛の巣と燕の糞でみすぼらしく汚れていた。
日が西の方に傾く頃、寺の前で快庵は手にした錫杖をしゃらりと鳴らせた。
「一晩の宿をお借りしたい」
反応はなかった。それでも何度か声を上げていると、お堂の中から痩せこけた僧が出てきた。
「お前は何者だ」
しわがれた声がそう尋ねた。よくよく見ると、ひどい衰弱の仕方ではあるが、まだ年の頃は三十路前ではないかと思われた。
快庵は答えた。
「諸国遍歴の僧でございます。一晩の宿をお借りしたい」
「……勝手にしろ」
そう言うと、その僧は再びお堂の中へ覚束ない足取りで入っていった。