「おや、てっきり皆さま、ご存じとばかり思っておりました。えぇ、私どもはこの姿で生まれた者です」
セスは優雅な足取りで一人の客の前に跪き、カパリと口を開けて見せる。
「ひぇ!?」
「ご覧くださいませ。喉の奥まで繋がっているのが見えますでしょう? 仮面ではこうはいきません」
「じゃ、じゃあ、あんたらは何なんだ」
怯える客の前に、コリンがぴょこんと進み出て、くるりと愛らしくターンをして見せる。
「アリスの国から来たのなの!」
「アリス……。店長さんの……国?」
「せや」
パティは、後ろめたさを一切感じさせない様子で、ニッと笑う。
「ここの料理が珍しいんは、お客さんらかて気付いとるやろ?」
客たちは自分たちの前に並ぶ皿に目を走らせる。
「アリスは別の文化圏の、遠い国から攫われて来たんや。この子らと一緒に」
(一緒に来たわけじゃないよ! 日本に獣人なんていなかったよ!)
パティの言葉に突っ込みたくなったが、あえて口をつぐむ。
考えてみれば、彼らの今の姿は私の故郷である日本のゲームがベースになっている。
私の記憶を介してデータを連れて来た、と考えられなくはない。
「皆にとって脅威である魔獣と似た姿をしていることを知り、なかなか言い出せなかった、それについてはすまないと思う」
魔獣の中でもレアと言われる黒豹型魔獣の姿を持つレオポルドが、穏やかな、しかしよく通る声で紳士的に説明する。
「だが故郷に戻れぬ以上、我々はアリスと共にこの国で生きていきたい。受け入れてはもらえぬだろうか」
客たちは困惑したように、互いに顔を見合わせている。
その中で、一つの声が上がった。
「……ま、いいんじゃねぇの」
(あ! あの人は……)
口を開いたのは、紫の肌、額に石、尖った耳が特徴的な客。
それはかつて魔族と呼ばれ敵対していたルーツを持つ、ラプロフロス人だった。
「額に石なら、俺らと一緒だし」
「いや、でも、あいつらは魔獣のような顔で……」
「人の面してても、平気で人を殺す奴もいる。こいつらはこんな面だが、ただおとなしく給仕してるだけじゃねぇか」
「それも、そうだが……」
「うわぁああああ~ん!!」
何とも言えない空気の中、突如慟哭が轟いた。
「うっせぇな! あ、さっきのキモい酔っ払い女!!」
ディーンが怒鳴った先には、さっきまで自分に絡んでいた女ハンターが、おいおいとその場で泣き崩れていた。
「アタシ、アタシ! 人の頭の皮剥ごうとしちゃってたんだ! ごべんなさぁああい!」
(えぇえ!?)
感情ジェットコースターの酔客に、私たちも対応に困る。
「知らなかったの! ディーンが仮面じゃないって知らなくて、頭剥いじゃった! どうしよう!?」
「いや、剥がれてねぇし……」
「ディーン!! ごべんなざぁあい!!」
「うるせぇ、叫ぶな! 泣くな!!」
「怒ってるぅうう!! 許じでくれるまで泣ぐぅうう!!」
「だーっ、もう!! 鬱陶しい!!」
ディーンは頭をガシガシ掻くと、大きく息をついた。
「怒ってねぇし、許した。泣き止め、クソ女!」
「え、えへへっ」
女は鼻水を垂らしながら、今度はニタァと笑う。
「じゃあ、これからもモフモフさせてくれる?」
「嫌だ。キショい」
「やったー、モフモフするぅ~」
「させねぇっつってんだろ!!」
二人の様子を見守っていた客たちは、やがてぎこちなく笑った。
「ま、まぁ、気のいい奴らのようだし、いいんじゃねぇか?」
「そうだな、今までこいつらに乱暴を働かれたこともないし」
客たちは再び食事へと戻っていく。
中にはそそくさと会計を済ませ出て行った者もいたが、それ以上揉めることはなかった。
「だぁーっ! 肝冷やしたでぇ!!」
セスは優雅な足取りで一人の客の前に跪き、カパリと口を開けて見せる。
「ひぇ!?」
「ご覧くださいませ。喉の奥まで繋がっているのが見えますでしょう? 仮面ではこうはいきません」
「じゃ、じゃあ、あんたらは何なんだ」
怯える客の前に、コリンがぴょこんと進み出て、くるりと愛らしくターンをして見せる。
「アリスの国から来たのなの!」
「アリス……。店長さんの……国?」
「せや」
パティは、後ろめたさを一切感じさせない様子で、ニッと笑う。
「ここの料理が珍しいんは、お客さんらかて気付いとるやろ?」
客たちは自分たちの前に並ぶ皿に目を走らせる。
「アリスは別の文化圏の、遠い国から攫われて来たんや。この子らと一緒に」
(一緒に来たわけじゃないよ! 日本に獣人なんていなかったよ!)
パティの言葉に突っ込みたくなったが、あえて口をつぐむ。
考えてみれば、彼らの今の姿は私の故郷である日本のゲームがベースになっている。
私の記憶を介してデータを連れて来た、と考えられなくはない。
「皆にとって脅威である魔獣と似た姿をしていることを知り、なかなか言い出せなかった、それについてはすまないと思う」
魔獣の中でもレアと言われる黒豹型魔獣の姿を持つレオポルドが、穏やかな、しかしよく通る声で紳士的に説明する。
「だが故郷に戻れぬ以上、我々はアリスと共にこの国で生きていきたい。受け入れてはもらえぬだろうか」
客たちは困惑したように、互いに顔を見合わせている。
その中で、一つの声が上がった。
「……ま、いいんじゃねぇの」
(あ! あの人は……)
口を開いたのは、紫の肌、額に石、尖った耳が特徴的な客。
それはかつて魔族と呼ばれ敵対していたルーツを持つ、ラプロフロス人だった。
「額に石なら、俺らと一緒だし」
「いや、でも、あいつらは魔獣のような顔で……」
「人の面してても、平気で人を殺す奴もいる。こいつらはこんな面だが、ただおとなしく給仕してるだけじゃねぇか」
「それも、そうだが……」
「うわぁああああ~ん!!」
何とも言えない空気の中、突如慟哭が轟いた。
「うっせぇな! あ、さっきのキモい酔っ払い女!!」
ディーンが怒鳴った先には、さっきまで自分に絡んでいた女ハンターが、おいおいとその場で泣き崩れていた。
「アタシ、アタシ! 人の頭の皮剥ごうとしちゃってたんだ! ごべんなさぁああい!」
(えぇえ!?)
感情ジェットコースターの酔客に、私たちも対応に困る。
「知らなかったの! ディーンが仮面じゃないって知らなくて、頭剥いじゃった! どうしよう!?」
「いや、剥がれてねぇし……」
「ディーン!! ごべんなざぁあい!!」
「うるせぇ、叫ぶな! 泣くな!!」
「怒ってるぅうう!! 許じでくれるまで泣ぐぅうう!!」
「だーっ、もう!! 鬱陶しい!!」
ディーンは頭をガシガシ掻くと、大きく息をついた。
「怒ってねぇし、許した。泣き止め、クソ女!」
「え、えへへっ」
女は鼻水を垂らしながら、今度はニタァと笑う。
「じゃあ、これからもモフモフさせてくれる?」
「嫌だ。キショい」
「やったー、モフモフするぅ~」
「させねぇっつってんだろ!!」
二人の様子を見守っていた客たちは、やがてぎこちなく笑った。
「ま、まぁ、気のいい奴らのようだし、いいんじゃねぇか?」
「そうだな、今までこいつらに乱暴を働かれたこともないし」
客たちは再び食事へと戻っていく。
中にはそそくさと会計を済ませ出て行った者もいたが、それ以上揉めることはなかった。
「だぁーっ! 肝冷やしたでぇ!!」