数日後、私の傷が癒えたタイミングで食事処『けもめん』は再開した。
入口のプレートを「営業中」にして、私たちは準備を整える。
人員は揃っているということで、パティは広場へ行ってしまった。
間もなく、扉が開き客が入って来た。
「いらっしゃいませ!」
「おっ、やってる!」
ほっとしたように言い、客はテーブルへとついた。
その後も、何人か続けて入店してくる。
私はこれまでに倣い、お好み焼きの準備を始めた。
けれど彼らが口にしたのは、意外なオーダーだった。
「アリス、この塩牛丼頼むわ」
「こっちは天ぷらだ」
「鶏肉のけもめん風、二つ!」
「えっ?」
私は思わず聞き返す。
「お好み焼きじゃなくていいんですか?」
その言葉に、客たちは苦笑いしながら頭を掻く。
「いやー、ここしばらくこの店閉まってただろ?」
「はぁ」
「てっきり、俺らが安いオコノミヤキばっか注文し続けたから、経営が立ち行かなくなったのかと思ってよ」
「そうそう。で、もし店が再開したら、中でちゃんと食事しようぜってことになって」
「この味を失うのは惜しいからな」
(そんな風に思ってくれてたのか)
胸の奥がじわっと温かくなる。
「ありがとうございます、ディーン、セス、注文取ってきて」
「へーい」
「えぇ、お任せを」
二人がテーブルに向かうと、一人の客が「おっ」という顔をする。
「新人さんかい? あっちが犬型魔獣で、あんたが蜥蜴型魔獣の兄ちゃんか」
「えぇ、そうです」
「ん? なんか色っぺぇな。もしかして姉ちゃんか?」
「ふふ、さぁ、どちらでしょう?」
セスの謎めいた微笑みに客たちは好意的な笑いを返す。
「そうそう、蜥蜴型魔獣と言えば、聞いたか?」
「あぁ、どっかのチンピラ興行主が、見世物にしてた蜥蜴型魔獣を逃がしちまったんだってな」
聞こえてきた話にギクリとなり、指を切りそうになる。
一方テーブルの側で会話を聞いているセスは、涼しい表情だ。
「蜥蜴型魔獣逃がしたのはまずいだろ。で、被害は?」
「それが不思議なことに、テントが燃えたきりで人的被害は出てないんだと。あ、興行主は怪我したか」
「住民を危険に晒したって理由で捕まったと聞いたぞ。で、肝心の蜥蜴型魔獣は、今どこに?」
「知らん、山にでも逃げ込んだかねぇ。なぁ、蜥蜴型魔獣の兄ちゃん」
「なんでしょう?」
「ひょっとして、アンタが逃げた蜥蜴型魔獣だったりしねぇかい?」
ヒュッ吐息を飲む私とは裏腹に、セスは嫣然と笑って見せる。
「そうかもしれませんね」
その言葉に客たちはどっと沸く。
「おいおい、蜥蜴型魔獣がこんな細っこい兄ちゃんなら、スィーウェ級の俺らでも討伐可能だろうが!」
(ぅおーい! あなた方、魔獣人のパワー知らないから笑ってますけど! その細くて艶めかしいお兄さん怒らせたら、多分皆さんまとめてひとたまりもないですよー)
セスは彼らの軽口を気にすることなく、優雅に注文を受け取るとオーダーシートを私の前に差し出した。
(セスが温和で良かったね。ディーンなら、大暴れしちゃうところだよ)
ちなみに、先程客が口にしていたスィーウェ級というのは、ハンターレベルでいう下から二番目の級だ。
今、私たちもそこに含まれてるらしい。
耳慣れない言葉なので、他の級の名前は全然憶えられてないけど。
「うわ、席いっぱいだ!」
新しく入って来た客の前に、レオポルドが進み出る。
「満席だ。少し待ってもらうことになるが」
「あ、いや、オコノミヤキ欲しいんだ。いいかな?」
「構わない。何人前だ」
「五人前」
私の隣では、コリンが調理補助をしている。
「コリン、それ終わったら、キャベツ刻んでくれる?」
「任せてなの!」
食事処『けもめん』は、何とか軌道に乗ってくれたようだ。
入口のプレートを「営業中」にして、私たちは準備を整える。
人員は揃っているということで、パティは広場へ行ってしまった。
間もなく、扉が開き客が入って来た。
「いらっしゃいませ!」
「おっ、やってる!」
ほっとしたように言い、客はテーブルへとついた。
その後も、何人か続けて入店してくる。
私はこれまでに倣い、お好み焼きの準備を始めた。
けれど彼らが口にしたのは、意外なオーダーだった。
「アリス、この塩牛丼頼むわ」
「こっちは天ぷらだ」
「鶏肉のけもめん風、二つ!」
「えっ?」
私は思わず聞き返す。
「お好み焼きじゃなくていいんですか?」
その言葉に、客たちは苦笑いしながら頭を掻く。
「いやー、ここしばらくこの店閉まってただろ?」
「はぁ」
「てっきり、俺らが安いオコノミヤキばっか注文し続けたから、経営が立ち行かなくなったのかと思ってよ」
「そうそう。で、もし店が再開したら、中でちゃんと食事しようぜってことになって」
「この味を失うのは惜しいからな」
(そんな風に思ってくれてたのか)
胸の奥がじわっと温かくなる。
「ありがとうございます、ディーン、セス、注文取ってきて」
「へーい」
「えぇ、お任せを」
二人がテーブルに向かうと、一人の客が「おっ」という顔をする。
「新人さんかい? あっちが犬型魔獣で、あんたが蜥蜴型魔獣の兄ちゃんか」
「えぇ、そうです」
「ん? なんか色っぺぇな。もしかして姉ちゃんか?」
「ふふ、さぁ、どちらでしょう?」
セスの謎めいた微笑みに客たちは好意的な笑いを返す。
「そうそう、蜥蜴型魔獣と言えば、聞いたか?」
「あぁ、どっかのチンピラ興行主が、見世物にしてた蜥蜴型魔獣を逃がしちまったんだってな」
聞こえてきた話にギクリとなり、指を切りそうになる。
一方テーブルの側で会話を聞いているセスは、涼しい表情だ。
「蜥蜴型魔獣逃がしたのはまずいだろ。で、被害は?」
「それが不思議なことに、テントが燃えたきりで人的被害は出てないんだと。あ、興行主は怪我したか」
「住民を危険に晒したって理由で捕まったと聞いたぞ。で、肝心の蜥蜴型魔獣は、今どこに?」
「知らん、山にでも逃げ込んだかねぇ。なぁ、蜥蜴型魔獣の兄ちゃん」
「なんでしょう?」
「ひょっとして、アンタが逃げた蜥蜴型魔獣だったりしねぇかい?」
ヒュッ吐息を飲む私とは裏腹に、セスは嫣然と笑って見せる。
「そうかもしれませんね」
その言葉に客たちはどっと沸く。
「おいおい、蜥蜴型魔獣がこんな細っこい兄ちゃんなら、スィーウェ級の俺らでも討伐可能だろうが!」
(ぅおーい! あなた方、魔獣人のパワー知らないから笑ってますけど! その細くて艶めかしいお兄さん怒らせたら、多分皆さんまとめてひとたまりもないですよー)
セスは彼らの軽口を気にすることなく、優雅に注文を受け取るとオーダーシートを私の前に差し出した。
(セスが温和で良かったね。ディーンなら、大暴れしちゃうところだよ)
ちなみに、先程客が口にしていたスィーウェ級というのは、ハンターレベルでいう下から二番目の級だ。
今、私たちもそこに含まれてるらしい。
耳慣れない言葉なので、他の級の名前は全然憶えられてないけど。
「うわ、席いっぱいだ!」
新しく入って来た客の前に、レオポルドが進み出る。
「満席だ。少し待ってもらうことになるが」
「あ、いや、オコノミヤキ欲しいんだ。いいかな?」
「構わない。何人前だ」
「五人前」
私の隣では、コリンが調理補助をしている。
「コリン、それ終わったら、キャベツ刻んでくれる?」
「任せてなの!」
食事処『けもめん』は、何とか軌道に乗ってくれたようだ。