私は樹の幹にしがみついたまま、慌てて下を見る。
群れなしていた犬型魔獣はその数を半分以下に減らし、残りもレオポルドやコリンと激突するたび黄金色の破片を振りまきつつ、煙へと化している。
「待って、レオポルド! コリン! 全部倒しちゃだめ!」
戦闘に集中している彼らに私の声は届かないのか、二人は一匹、また一匹と犬型魔獣を減らしていく。
「ストーップ! せめて一匹! 最後の一匹だけは!!」
一瞬、二人がちらりとこちらへ視線を向けた気がした。
だが、レオポルドもコリンもすぐに戦闘へと戻っていく。
(今、目が合ったよね? まさか……!)
二人は不思議なくらい私を慕ってくれている。
(これ以上ライバルとなる魔獣人を増やしたくなくて、私の声を無視してる!?)
魔獣人は私に絶対忠誠だとばかり思っていたが、実はそうでもないのかもしれない。
「こらぁ、二人とも!」
思わず身を乗り出した時だった。
枝を踏んでいた足が、ずるっと滑った。
(え……?)
重力に従い、私の体は空中へ投げ出される。
気配に気づいたのか、一匹の犬型魔獣がこちらへ突進して来た。
(あ……)
地面に叩き付けられるか、その牙に喉を食い破られるか。
私は枝を掴み落下を防ごうと手をのばす。
一瞬、手が引っかかった。
だが落下の勢いに負け、その手はすぐに枝から離れる。
その刹那の動きが、タイミングをずらしたのだろう。
私に喰らいつくはずだった犬型魔獣の牙は空振りをし、気付けは私の体は魔獣の背の上でうつ伏せとなっていた。
(ひぇ!?)
「「アリス!」」
私は慌てて獣毛に覆われたその体にしがみつく。
目の前で揺れるのはレンガ色の尻尾。
私は、犬型魔獣の尻側に頭を向ける形で乗っかってしまったらしい。
グラァアアアッ!!!
後方から、犬型魔獣の怒りを含んだ吠え声が聞こえる。
私は両足を犬型魔獣の胴へがっちりと巻き付けた。
(よぉし)
私は尻尾の近くの毛をかき分ける。
予想過たず、そこには蜂蜜色をした魔石が埋まっていた。
(これにキスをすれば……!)
腰のあたりに石があるなんて、「Kiss My ass」という意味じゃないだろうな、この野郎、などと苦笑しつつ唇を近づけた瞬間だった。
犬型魔獣が後足で大きく跳ねたため、蜂蜜色の魔石は私の前歯に激しくぶつかった。
「んぶっ!?」
慌てて片手を口元にやる。
(あぁ……)
うっすらと血が滲んでいる。歯が折れることはなかったが、歯茎が少々傷ついたようだ。
(もう! 魔石が割れたらどうするのよ!)
冷静に考えれば、歯が石に勝てるのか?と思うのだが、この瞬間の私は本気でそれを心配した。
犬型魔獣は私を振り落とさんと身を大きく揺すり、前足、後足と、交互に大きく跳ねるのを繰り返す。
それはさながらロデオの様相だった。
「アリス! 今すぐそいつから手を離し横へ転がり落ちろ! 即座に仕留める!」
「魔石の位置が、アリスの顔の近くなの! このままじゃ攻撃できないなの!」
駆け付けて来た二人の声が、すぐ側から聞こえて来た。
なるほど。
つまりこの状態の犬型魔獣に二人は攻撃できない。
(魔獣人にするチャンス!!)
二人には悪いが、ほくそ笑んだ瞬間だった。
犬型魔獣が突如方向を変え、森の奥へと駆け始めた。
(え?)
「まずい、アリス! そいつは逃げる気だ!」
「他の仲間と合流したら、危ないなの!」
(えっ? えっ?)
群れなしていた犬型魔獣はその数を半分以下に減らし、残りもレオポルドやコリンと激突するたび黄金色の破片を振りまきつつ、煙へと化している。
「待って、レオポルド! コリン! 全部倒しちゃだめ!」
戦闘に集中している彼らに私の声は届かないのか、二人は一匹、また一匹と犬型魔獣を減らしていく。
「ストーップ! せめて一匹! 最後の一匹だけは!!」
一瞬、二人がちらりとこちらへ視線を向けた気がした。
だが、レオポルドもコリンもすぐに戦闘へと戻っていく。
(今、目が合ったよね? まさか……!)
二人は不思議なくらい私を慕ってくれている。
(これ以上ライバルとなる魔獣人を増やしたくなくて、私の声を無視してる!?)
魔獣人は私に絶対忠誠だとばかり思っていたが、実はそうでもないのかもしれない。
「こらぁ、二人とも!」
思わず身を乗り出した時だった。
枝を踏んでいた足が、ずるっと滑った。
(え……?)
重力に従い、私の体は空中へ投げ出される。
気配に気づいたのか、一匹の犬型魔獣がこちらへ突進して来た。
(あ……)
地面に叩き付けられるか、その牙に喉を食い破られるか。
私は枝を掴み落下を防ごうと手をのばす。
一瞬、手が引っかかった。
だが落下の勢いに負け、その手はすぐに枝から離れる。
その刹那の動きが、タイミングをずらしたのだろう。
私に喰らいつくはずだった犬型魔獣の牙は空振りをし、気付けは私の体は魔獣の背の上でうつ伏せとなっていた。
(ひぇ!?)
「「アリス!」」
私は慌てて獣毛に覆われたその体にしがみつく。
目の前で揺れるのはレンガ色の尻尾。
私は、犬型魔獣の尻側に頭を向ける形で乗っかってしまったらしい。
グラァアアアッ!!!
後方から、犬型魔獣の怒りを含んだ吠え声が聞こえる。
私は両足を犬型魔獣の胴へがっちりと巻き付けた。
(よぉし)
私は尻尾の近くの毛をかき分ける。
予想過たず、そこには蜂蜜色をした魔石が埋まっていた。
(これにキスをすれば……!)
腰のあたりに石があるなんて、「Kiss My ass」という意味じゃないだろうな、この野郎、などと苦笑しつつ唇を近づけた瞬間だった。
犬型魔獣が後足で大きく跳ねたため、蜂蜜色の魔石は私の前歯に激しくぶつかった。
「んぶっ!?」
慌てて片手を口元にやる。
(あぁ……)
うっすらと血が滲んでいる。歯が折れることはなかったが、歯茎が少々傷ついたようだ。
(もう! 魔石が割れたらどうするのよ!)
冷静に考えれば、歯が石に勝てるのか?と思うのだが、この瞬間の私は本気でそれを心配した。
犬型魔獣は私を振り落とさんと身を大きく揺すり、前足、後足と、交互に大きく跳ねるのを繰り返す。
それはさながらロデオの様相だった。
「アリス! 今すぐそいつから手を離し横へ転がり落ちろ! 即座に仕留める!」
「魔石の位置が、アリスの顔の近くなの! このままじゃ攻撃できないなの!」
駆け付けて来た二人の声が、すぐ側から聞こえて来た。
なるほど。
つまりこの状態の犬型魔獣に二人は攻撃できない。
(魔獣人にするチャンス!!)
二人には悪いが、ほくそ笑んだ瞬間だった。
犬型魔獣が突如方向を変え、森の奥へと駆け始めた。
(え?)
「まずい、アリス! そいつは逃げる気だ!」
「他の仲間と合流したら、危ないなの!」
(えっ? えっ?)