「依頼を受けても、討伐した証拠――つまり魔石を提出できなきゃ、完遂したことにはならん」
「で、でも、魔獣がいなかったのなら、それはいいことなのでは? 魔獣に困っていたから、討伐依頼が出されてたわけでしょう?」
「そりゃ、依頼主としてはいいことなんだろうな。金を払うことなく、魔獣が消えてくれるんだから」
「デスヨネー」
「だが、俺らや魔石ハンターが困るんだよ。魔石ハンターは稼ぎにありつけない、わしはマージンが手に入らない」
「……デスヨネー」
魔獣はこの国にとって害でありながら、経済活動の一端を確実に担っているようだ。
(これだと、街の近くにいる魔獣を魔獣人化させるのはまずいかも。鼠型魔獣とか猫型魔獣とか。私たちが通りかかっただけで吸収してしまうから、初心者ランクのハンターさんが食いっぱぐれる可能性出て来るよね)
手当たり次第に魔獣人化するべきでないと判断した。
(それに街の近くにいる魔獣の場合、吸収する様子を通りすがりの誰かに見られる危険があるし)
「なぁ。えぇと、コリンだったか?」
「呼んだなの?」
「あんた、その仮面をつけてるんだから、上手く兎型魔獣を呼び出しちゃくれないかい? それで討伐してくれると助かるんだが」
すみません!
兎型魔獣が目的地から姿を消すの、その子が原因なんです!
「あの、大丈夫ですよ。他の魔石ハンターさんたちも、今なら兎型魔獣にエンカウントできるはずです」
「うん? なんでそんなことが、あんたに分かるんだ?」
『私たちが現場に行きさえしなければ消えません』……なんて言えるはずがない。
「……勘、ですかね」
「なぁ、頼むよ」
マスターは私の手首を掴むと、兎型魔獣討伐の依頼書をまとめて私の掌へ押し付けた。
(ぎゃあ!)
「これを全部引き受けてくれたら、報酬に色付けてやっから」
(あぅう……)
兎型魔獣討伐の依頼を、ハンターたちが避けるようになった原因を作ったのは私たちだ。
(仕方ない)
勿体ないが、今日手に入れる魔石は全て砕いて提出しよう。
それがせめてもの罪滅ぼしだ。
(パティが知ったらキレそうだけど)
(あれ?)
束になっている兎型魔獣討伐の依頼書の中に、一枚異質なものが紛れ込んでいた。
『犬型魔獣討伐 ヒカの森 12000カヘ』
添えてある絵を見ると、柴犬に似てる気がする。
(犬型魔獣、これまで聞いたことがないな)
恐らく、私のランクでは受けられない依頼なのだろう。
マスターにこの依頼書だけ返しに行こうとして、足を止めた。
(……柴犬。てことは、ディーンに似るかな?)
私は『けもめん』のキャラクターの一人を思い出す。
活発でツンデレで、好戦的な少年。
イベントのたびに先陣きって大暴れする『けもめん』における特攻隊長だ。
アクティブで動かしやすいキャラのためか、二次創作でも大人気だった。
(なるほど?)
私は依頼書を懐に入れる。
(……やるか)
荷物の中にある、パティから預かったパーカーとパンツ、ネックゲイターを確認した。
(魔獣人化させる一体以外は普通に討伐すれば、大丈夫だよね?)
無傷で手に入れた赤い魔石を泣く泣く砕き、袋に詰めた後、私たちはヒカの森へと移動する。
距離があるため、例のごとく魔獣人である彼らにおんぶで運んでもらうこととなったが。
(え~っと……)
『自分を選んでくれ』という期待に満ちた眼差しが二組、私に注がれる。
(気持ち的には、やっぱりレオポルドなんだけど……!)
広い背中は安定感があって頼もしい。
何より、最推しの姿をしている。
が、身軽な彼は何の疑問も持たず樹上へと駆け上ってしまう。
あれが怖いのだ。めちゃくちゃ怖いのだ。
「今日は……」
私はコリンへと目を向ける。
彼の肩幅は細く、魔獣人でなければ潰してしまいそうな儚さだ。
けれど彼のパワーは、これまでの戦闘で十分な信頼に繋がっていた。
(ごめんね、レオポルド)
浮気するような後ろめたさを感じながらも、私はコリンに歩み寄る。
「コリン、お願いできる?」
「わはぁ、嬉しいの! 任せてなの!」
「……!」
(だから、そんなショック受けた顔しないで、レオポルド。あぁ、胸がキリキリする)
「ぎゅおおおおおん!!なのー!!」
(ぎゃあぁああぁああぁああーーっ!!!)
はしゃぎつつ全力で疾走するコリンに背負われた私は、心の底から後悔していた。
そう、彼の足は間違いなく地についている。
だが、スピードはレオポルドを上回る。
バナナボートに乗せられ、ジェットスキーに海上を引きずり回されたことを思い出した。猛スピードで進むものにまたがり、我が身を支えるのは自らの両手だけだったあの時のことを。
しかもコリンの華奢な背や肩は密着度が低かった。
(たーすーけーてぇええ!!)
今後は一日で無理に依頼を片付けようとせず、他の魔石ハンターのように野営の準備をしっかり整え、数日かけて現地まで移動しようと心に決めた。
「で、でも、魔獣がいなかったのなら、それはいいことなのでは? 魔獣に困っていたから、討伐依頼が出されてたわけでしょう?」
「そりゃ、依頼主としてはいいことなんだろうな。金を払うことなく、魔獣が消えてくれるんだから」
「デスヨネー」
「だが、俺らや魔石ハンターが困るんだよ。魔石ハンターは稼ぎにありつけない、わしはマージンが手に入らない」
「……デスヨネー」
魔獣はこの国にとって害でありながら、経済活動の一端を確実に担っているようだ。
(これだと、街の近くにいる魔獣を魔獣人化させるのはまずいかも。鼠型魔獣とか猫型魔獣とか。私たちが通りかかっただけで吸収してしまうから、初心者ランクのハンターさんが食いっぱぐれる可能性出て来るよね)
手当たり次第に魔獣人化するべきでないと判断した。
(それに街の近くにいる魔獣の場合、吸収する様子を通りすがりの誰かに見られる危険があるし)
「なぁ。えぇと、コリンだったか?」
「呼んだなの?」
「あんた、その仮面をつけてるんだから、上手く兎型魔獣を呼び出しちゃくれないかい? それで討伐してくれると助かるんだが」
すみません!
兎型魔獣が目的地から姿を消すの、その子が原因なんです!
「あの、大丈夫ですよ。他の魔石ハンターさんたちも、今なら兎型魔獣にエンカウントできるはずです」
「うん? なんでそんなことが、あんたに分かるんだ?」
『私たちが現場に行きさえしなければ消えません』……なんて言えるはずがない。
「……勘、ですかね」
「なぁ、頼むよ」
マスターは私の手首を掴むと、兎型魔獣討伐の依頼書をまとめて私の掌へ押し付けた。
(ぎゃあ!)
「これを全部引き受けてくれたら、報酬に色付けてやっから」
(あぅう……)
兎型魔獣討伐の依頼を、ハンターたちが避けるようになった原因を作ったのは私たちだ。
(仕方ない)
勿体ないが、今日手に入れる魔石は全て砕いて提出しよう。
それがせめてもの罪滅ぼしだ。
(パティが知ったらキレそうだけど)
(あれ?)
束になっている兎型魔獣討伐の依頼書の中に、一枚異質なものが紛れ込んでいた。
『犬型魔獣討伐 ヒカの森 12000カヘ』
添えてある絵を見ると、柴犬に似てる気がする。
(犬型魔獣、これまで聞いたことがないな)
恐らく、私のランクでは受けられない依頼なのだろう。
マスターにこの依頼書だけ返しに行こうとして、足を止めた。
(……柴犬。てことは、ディーンに似るかな?)
私は『けもめん』のキャラクターの一人を思い出す。
活発でツンデレで、好戦的な少年。
イベントのたびに先陣きって大暴れする『けもめん』における特攻隊長だ。
アクティブで動かしやすいキャラのためか、二次創作でも大人気だった。
(なるほど?)
私は依頼書を懐に入れる。
(……やるか)
荷物の中にある、パティから預かったパーカーとパンツ、ネックゲイターを確認した。
(魔獣人化させる一体以外は普通に討伐すれば、大丈夫だよね?)
無傷で手に入れた赤い魔石を泣く泣く砕き、袋に詰めた後、私たちはヒカの森へと移動する。
距離があるため、例のごとく魔獣人である彼らにおんぶで運んでもらうこととなったが。
(え~っと……)
『自分を選んでくれ』という期待に満ちた眼差しが二組、私に注がれる。
(気持ち的には、やっぱりレオポルドなんだけど……!)
広い背中は安定感があって頼もしい。
何より、最推しの姿をしている。
が、身軽な彼は何の疑問も持たず樹上へと駆け上ってしまう。
あれが怖いのだ。めちゃくちゃ怖いのだ。
「今日は……」
私はコリンへと目を向ける。
彼の肩幅は細く、魔獣人でなければ潰してしまいそうな儚さだ。
けれど彼のパワーは、これまでの戦闘で十分な信頼に繋がっていた。
(ごめんね、レオポルド)
浮気するような後ろめたさを感じながらも、私はコリンに歩み寄る。
「コリン、お願いできる?」
「わはぁ、嬉しいの! 任せてなの!」
「……!」
(だから、そんなショック受けた顔しないで、レオポルド。あぁ、胸がキリキリする)
「ぎゅおおおおおん!!なのー!!」
(ぎゃあぁああぁああぁああーーっ!!!)
はしゃぎつつ全力で疾走するコリンに背負われた私は、心の底から後悔していた。
そう、彼の足は間違いなく地についている。
だが、スピードはレオポルドを上回る。
バナナボートに乗せられ、ジェットスキーに海上を引きずり回されたことを思い出した。猛スピードで進むものにまたがり、我が身を支えるのは自らの両手だけだったあの時のことを。
しかもコリンの華奢な背や肩は密着度が低かった。
(たーすーけーてぇええ!!)
今後は一日で無理に依頼を片付けようとせず、他の魔石ハンターのように野営の準備をしっかり整え、数日かけて現地まで移動しようと心に決めた。