「アリス、ボクはどこを掃除すればいいなの?」
「そうね、まずはそこのイスやテーブルを端っこに寄せて、床や壁をきれいにしていこうか」
「任せてなの!」
鼻歌を口ずさみつつ、コリンは掃除を始める。
(後で、レオポルドにもフォロー入れておかなきゃ)
背に哀愁を漂わせ、階段を上っていった彼の姿を思い出す。
ふと脳裏をかすめたのは、ネットなどでいつか目にした
「下の子が生まれたら、上の子にもしっかりフォローを!」
という、子育て記事だった。
「ボロいし汚れとったけど、床が腐ったりはしてへんかったわ」
適度な活動でお腹がいい音を立て始めた頃、パティはレオポルドを伴い二階から降りて来た。
「そっちはどない?」
「こっちも大丈夫。ほら」
私は、何とか使える状態にまで持って行った飲食店エリアを指し示す。
「えぇ感じやん」
「だよね。古いけど、しっかりした造りのようだし。調理場周りも問題なさそう」
キッチンとフロアはカウンターテーブルで隔てられ、キッチンにいながら店の端まで目が行き届く造りになっている。
また、キッチンの両隣には小部屋があり、一方は食材を保管する倉庫として、もう一方は洗い場として使えるようになっていた。
さすがに蛇口をひねればきれいな水が、というわけにはいかなかったが。
「ほな」
パティは清潔な状態になったイスにどっかと座り、テーブルに頬杖をつく。
「ごはん」
「は?」
「アリスの作ったご飯、食べさせてぇや。めっちゃ美味しいらしいやん?」
「……あの、私ももうお腹ぺこぺこで、今から作りたくないんだけど」
「えーっ、ウチはアリスのご飯を楽しみに、お掃除いっぱい頑張ってんで?」
「だったら、朝からちゃんと伝えておいてよ。いきなり言われても困る。食材もこれから買いに行かなきゃだし」
その時、黒い影がそっと私とパティの間に立つ。
「アリス、困っているのだな」
「え? うん」
レオポルドはペリドット色の瞳を、チラとパティに向ける。
「ヒュッ」
オレンジ色のポニーテールがぴょこんとはねた。
「分かった、分かったって!」
「まだ何も言ってない」
「見たら、分かるわ!!」
レオポルドの指には、既に長い爪がスタンバイしていた。
(攻撃体勢への移行が速すぎる!)
恐らく掃除の時に選ばれなかったことで、自分が私の役に立てるとアピールしたい気持ちがあるのだろう。
「レオポルド、パティと戦うなの?」
「場合によっては」
「なら」
コリンは元気よく、その場でトントンとジャンプする。
「ボクだって負けないなの! アリスのために頑張るの!」
「いや、ここは自分一人でいい」
「やだやだなの! ボクもアリスの役に立ちたいの!」
「アーリースぅううう!!」
パティが悲鳴を上げながら、私の背にすがってきた。
「昼ご飯は、外で何か調達しよ? な? ウチが全部おごったるし!! せやから」
パティは私の肩ごしに、レオポルドたちを指差す。
「あの兵器ども止めてぇえ!!」
「はいはい」
私はぽんぽんと手を叩く。
「レオポルド、コリン、共同経営者を攻撃しちゃだめだよ」
「きょーどーけーえーしゃ? って、何なの?」
「このお店を一緒にやっていく仲間ってこと。二人とも、今後一切仲間のパティに攻撃するの禁止」
「そうか。……仲間を屠ってはならないな」
レオポルドの言葉に、パティは「ほふっ!?」と叫び、顔色を変えた。
「わかったなの~」
二人はあっさりと戦闘態勢を解く。
「ハァ、これでウチは安全圏ってこと?」
へなへなと私に体重をかけるパティに、私はにやりと笑う。
「ひとまずはね。でも信頼を裏切ったら、容赦なく『もうパティは仲間じゃない』って言っちゃう」
「……アンタも大概な性格しとんな」
パティは恨めし気に言って、口を尖らせた。
「そうね、まずはそこのイスやテーブルを端っこに寄せて、床や壁をきれいにしていこうか」
「任せてなの!」
鼻歌を口ずさみつつ、コリンは掃除を始める。
(後で、レオポルドにもフォロー入れておかなきゃ)
背に哀愁を漂わせ、階段を上っていった彼の姿を思い出す。
ふと脳裏をかすめたのは、ネットなどでいつか目にした
「下の子が生まれたら、上の子にもしっかりフォローを!」
という、子育て記事だった。
「ボロいし汚れとったけど、床が腐ったりはしてへんかったわ」
適度な活動でお腹がいい音を立て始めた頃、パティはレオポルドを伴い二階から降りて来た。
「そっちはどない?」
「こっちも大丈夫。ほら」
私は、何とか使える状態にまで持って行った飲食店エリアを指し示す。
「えぇ感じやん」
「だよね。古いけど、しっかりした造りのようだし。調理場周りも問題なさそう」
キッチンとフロアはカウンターテーブルで隔てられ、キッチンにいながら店の端まで目が行き届く造りになっている。
また、キッチンの両隣には小部屋があり、一方は食材を保管する倉庫として、もう一方は洗い場として使えるようになっていた。
さすがに蛇口をひねればきれいな水が、というわけにはいかなかったが。
「ほな」
パティは清潔な状態になったイスにどっかと座り、テーブルに頬杖をつく。
「ごはん」
「は?」
「アリスの作ったご飯、食べさせてぇや。めっちゃ美味しいらしいやん?」
「……あの、私ももうお腹ぺこぺこで、今から作りたくないんだけど」
「えーっ、ウチはアリスのご飯を楽しみに、お掃除いっぱい頑張ってんで?」
「だったら、朝からちゃんと伝えておいてよ。いきなり言われても困る。食材もこれから買いに行かなきゃだし」
その時、黒い影がそっと私とパティの間に立つ。
「アリス、困っているのだな」
「え? うん」
レオポルドはペリドット色の瞳を、チラとパティに向ける。
「ヒュッ」
オレンジ色のポニーテールがぴょこんとはねた。
「分かった、分かったって!」
「まだ何も言ってない」
「見たら、分かるわ!!」
レオポルドの指には、既に長い爪がスタンバイしていた。
(攻撃体勢への移行が速すぎる!)
恐らく掃除の時に選ばれなかったことで、自分が私の役に立てるとアピールしたい気持ちがあるのだろう。
「レオポルド、パティと戦うなの?」
「場合によっては」
「なら」
コリンは元気よく、その場でトントンとジャンプする。
「ボクだって負けないなの! アリスのために頑張るの!」
「いや、ここは自分一人でいい」
「やだやだなの! ボクもアリスの役に立ちたいの!」
「アーリースぅううう!!」
パティが悲鳴を上げながら、私の背にすがってきた。
「昼ご飯は、外で何か調達しよ? な? ウチが全部おごったるし!! せやから」
パティは私の肩ごしに、レオポルドたちを指差す。
「あの兵器ども止めてぇえ!!」
「はいはい」
私はぽんぽんと手を叩く。
「レオポルド、コリン、共同経営者を攻撃しちゃだめだよ」
「きょーどーけーえーしゃ? って、何なの?」
「このお店を一緒にやっていく仲間ってこと。二人とも、今後一切仲間のパティに攻撃するの禁止」
「そうか。……仲間を屠ってはならないな」
レオポルドの言葉に、パティは「ほふっ!?」と叫び、顔色を変えた。
「わかったなの~」
二人はあっさりと戦闘態勢を解く。
「ハァ、これでウチは安全圏ってこと?」
へなへなと私に体重をかけるパティに、私はにやりと笑う。
「ひとまずはね。でも信頼を裏切ったら、容赦なく『もうパティは仲間じゃない』って言っちゃう」
「……アンタも大概な性格しとんな」
パティは恨めし気に言って、口を尖らせた。