翌朝、朝食を作ってもらうため、ケモ達を部屋に残し『金の穂亭』の一階に降りた私は、三度(みたび)彼らと顔を合わすこととなった。
「あれ? アリスじゃないか!」
 昨夜雑炊を振舞った彼らは、完全に旅支度を整えた姿でそこにいた。
「早いですね、もう出立ですか?」
「あぁ、これからミーウォまで帰らなきゃいけないからね」
「そうなんですね」
 ミーウォってなんだろう。土地の名前かな? それとも施設?
「じゃあ、お気をつけて」
「あぁ」

 彼らが出ていくのを見送り、マスターに朝食を頼む。
「いつもの日替わりニシュドカでいいんだな」
 ニシュドカとはパンで総菜を挟んだ、サンドイッチ的なものだ。日替わりの場合、昨夜作りすぎた料理が挟まっている。
「お願いします、三人前」
「はいよ」

 カウンターに頬杖をつき、ニシュドカが出来上がるのを待っていた時だった。
 バタバタと足音がして、外から誰かが走り込んできた。
「あのっ!」
 見れば、先ほど旅立ったはずの魔石(ケントル)ハンターの人だった。私の料理をやたら誉めていた。
「どうしたぃ、忘れ物かい?」
「……」
 肩で息をつきながら、男はつかつかとこちらへ近づいてくる。
 そして私の前で一つ深呼吸をすると、キッとこちらを見た。
「アリス!」
「はい」
「俺と一緒に来てくれないか?」
「……」
(なんで?)
 意味が分からず、私はぽかんとなる。
 そんなことはお構いなしに、男は必死の顔つきで言葉を続けた。
「俺、魔石(ケントル)ハンターやめて、実家の食事処を継ぐことにしたんだ」
「あ、はい」
「それで、その、アリスにも一緒にそこで働いてほしいんだ!」
「……」
 だから、なんで?
「アリスの手料理は、初めて味わう味だけど本当に美味かった。ぜひ、俺の実家でもその腕を奮ってほしいんだ!」
「え? 料理人としてのスカウト、ってことですか?」
「違う! そうじゃなくて!」
 違うのか。
「お、俺と所帯を持ってくれ!! 一目惚れなんだ!!」
「……」
 いや、なんで?

「アリス、どうする?」
「どうするもこうするも……」
 マスターは面白がるように私を見ている。
「私、この人の名前も知らないんですけど?」
「そうなのかい?」
「あっ、そっか! 俺の名前はジョナスだ」
「はぁ……」
 ジョナスは私の手をがっしりと掴んだ。
「え? ちょっと……」
「俺と来てくれ、アリス!」
(私、あなたのことほっとんど知らないんだけど!?)
 なぜこんな勢いだけの告白に、女がついて来ると思うのだろう。この世界では、珍しいことではないのだろうか。
「は、離して!」
「贅沢はさせてやれないが、飢えることはないから!」
 その時だった。
 ジョナスに勢いよく飛び蹴りを食らわせた影があった。
「レオポルド!?」
「クラァ! 誰に断ってアリス連れて行こうとしてんねん! おぉん!?」
(じゃない!)