暗がりの中、道の方から声がした。
ケモ達はフードを被り、ネックゲイターを鼻の上まで持ち上げ口元を隠す。
ざくざくと草を踏む音をさせながら、数人の男女が近づいてきた。
(魔石ハンターのパーティー?)
灯りが彼らを照らすにつれ、先頭を歩く男二人の顔がはっきりとしてくる。
その顔に見覚えがあった。
「あ! 昨夜の!」
私の作っただし茶漬けを求め、代わりに米と干し肉を差し出した男たちだった。
「やっぱりだ! 独得な飯の匂いと服のシルエットで、もしかしてと思ったら」
「くぁあ~、今日もいい匂いさせてるな」
二人の男へ、あとに続く仲間が問いかける。
「知り合いか?」
「あぁ。昨夜、ちょっと変わったトロイストを食わせてもらってさ。美味いんだこれが」
トロイスト? だし茶漬けをこの世界ではそう言うのだろうか?
彼らは普段パーティーとしてまとまって活動しているが、昨日は二人だけが別行動をとっていたらしい。
「昨日はありがとうな。おかげで助かったよ」
「どういたしまして」
「それでさ。申し訳ないんだが、今日も一皿だけ食わせてくんねぇかな?」
「えっ?」
「いや、仲間にもあの味を教えてやりたくてよ。全員に一口ずつでいいんだ。そうだ、金を払う!」
言ったかと思うと、男は1000カヘ札を差し出してきた。
「お金なんて、そんな!」
「いやいや、ぜひ受け取ってくれ! その代わり、もう一度それを食わせてほしい」
(鍋の残り汁にご飯投入したものだけど、いいのかな)
元の世界では、日本のこの習慣に眉をひそめる海外の人も多いと聞く。
「あの、これは私たちの食べ終えた……」
「わかった! これでどうだ!」
男はもう一枚1000カヘ札を出してきた。
(勿体ぶってるわけじゃないんだけど!)
これ以上ぐずぐずしていると、さらに払おうとするかもしれない。
パティがいれば、「限界まで吊り上げぇ!」なんてことも言うだろうが。
「じゃあ、少しずつで良ければ。いいよね、二人とも?」
私の問いかけに、レオポルドはうなずく。コリンは不承不承のようであったが。
(炊いたお米の一部は、昨日この人からもらったものだし)
ちなみに干し肉の方は、三人でおやつに食べた。
十分に汁を吸ったご飯を、私は彼らの差し出す容器によそう。
「……美味い!」
「なんだこれ、食ったことない味だ」
「腹の底からぽかぽかしてくるぞ」
「昨日のものより味が複雑だな」
歓声を上げる彼らに、コリンが立ち上がり、腰に手をやるとフンと胸を反らす。
「当然なの! アリスのご飯は最高なの!」
「コリン!」
「あはは、そうだな、間違いない。そっか、あんたアリスって言うんだな」
ほんの三口ばかりの雑炊を流し込むと、彼らは立ち上がった。
「ありがとうな、アリス。いい思い出が出来た」
(思い出?)
「俺らは今夜、グランファの『金の穂亭』に泊まる予定だ。またどこかで会えるといいな」
「あっ、はい」
(『金の穂亭』なら、私たちも泊まるんだけど)
彼らの姿が灯りの範囲から完全に消えると、レオポルドとコリンはネックゲイターを引き下ろした。
「もーっ、ご飯が減っちゃったなの!」
「怒るなコリン、まだ十分あるだろう」
「ボクは全部食べたかったなの!」
「じゃあコリン、私の分も食べる?」
「あっ、あっ、そうじゃないなの! アリスとは仲良く分けて食べるなの!」
しかし、ケモ達にしろ先ほどの人にしろ、私の作ったものを食べると力が漲ると言ったことを口にする。
(もしかして……)
ファンタジー小説などで見たことのある、「異世界人の作った料理がステータスアップアイテムとなる」現象が起きたのではないかと期待する。
(えぇと、効果が出ているかどうかは、どうやって確認するんだっけ? 確か……)
「ステータス!」
私はレオポルドに手を向けて、試しに唱えてみる。
が、光るウィンドウらしきものが、出現する気配はなかった。
「どうした、アリス?」
「アリス、これは何なの? 『ステータス』?」
「……なんでもない、忘れて」
少し冷えた雑炊を、私は一気にかき込んだ。
ケモ達はフードを被り、ネックゲイターを鼻の上まで持ち上げ口元を隠す。
ざくざくと草を踏む音をさせながら、数人の男女が近づいてきた。
(魔石ハンターのパーティー?)
灯りが彼らを照らすにつれ、先頭を歩く男二人の顔がはっきりとしてくる。
その顔に見覚えがあった。
「あ! 昨夜の!」
私の作っただし茶漬けを求め、代わりに米と干し肉を差し出した男たちだった。
「やっぱりだ! 独得な飯の匂いと服のシルエットで、もしかしてと思ったら」
「くぁあ~、今日もいい匂いさせてるな」
二人の男へ、あとに続く仲間が問いかける。
「知り合いか?」
「あぁ。昨夜、ちょっと変わったトロイストを食わせてもらってさ。美味いんだこれが」
トロイスト? だし茶漬けをこの世界ではそう言うのだろうか?
彼らは普段パーティーとしてまとまって活動しているが、昨日は二人だけが別行動をとっていたらしい。
「昨日はありがとうな。おかげで助かったよ」
「どういたしまして」
「それでさ。申し訳ないんだが、今日も一皿だけ食わせてくんねぇかな?」
「えっ?」
「いや、仲間にもあの味を教えてやりたくてよ。全員に一口ずつでいいんだ。そうだ、金を払う!」
言ったかと思うと、男は1000カヘ札を差し出してきた。
「お金なんて、そんな!」
「いやいや、ぜひ受け取ってくれ! その代わり、もう一度それを食わせてほしい」
(鍋の残り汁にご飯投入したものだけど、いいのかな)
元の世界では、日本のこの習慣に眉をひそめる海外の人も多いと聞く。
「あの、これは私たちの食べ終えた……」
「わかった! これでどうだ!」
男はもう一枚1000カヘ札を出してきた。
(勿体ぶってるわけじゃないんだけど!)
これ以上ぐずぐずしていると、さらに払おうとするかもしれない。
パティがいれば、「限界まで吊り上げぇ!」なんてことも言うだろうが。
「じゃあ、少しずつで良ければ。いいよね、二人とも?」
私の問いかけに、レオポルドはうなずく。コリンは不承不承のようであったが。
(炊いたお米の一部は、昨日この人からもらったものだし)
ちなみに干し肉の方は、三人でおやつに食べた。
十分に汁を吸ったご飯を、私は彼らの差し出す容器によそう。
「……美味い!」
「なんだこれ、食ったことない味だ」
「腹の底からぽかぽかしてくるぞ」
「昨日のものより味が複雑だな」
歓声を上げる彼らに、コリンが立ち上がり、腰に手をやるとフンと胸を反らす。
「当然なの! アリスのご飯は最高なの!」
「コリン!」
「あはは、そうだな、間違いない。そっか、あんたアリスって言うんだな」
ほんの三口ばかりの雑炊を流し込むと、彼らは立ち上がった。
「ありがとうな、アリス。いい思い出が出来た」
(思い出?)
「俺らは今夜、グランファの『金の穂亭』に泊まる予定だ。またどこかで会えるといいな」
「あっ、はい」
(『金の穂亭』なら、私たちも泊まるんだけど)
彼らの姿が灯りの範囲から完全に消えると、レオポルドとコリンはネックゲイターを引き下ろした。
「もーっ、ご飯が減っちゃったなの!」
「怒るなコリン、まだ十分あるだろう」
「ボクは全部食べたかったなの!」
「じゃあコリン、私の分も食べる?」
「あっ、あっ、そうじゃないなの! アリスとは仲良く分けて食べるなの!」
しかし、ケモ達にしろ先ほどの人にしろ、私の作ったものを食べると力が漲ると言ったことを口にする。
(もしかして……)
ファンタジー小説などで見たことのある、「異世界人の作った料理がステータスアップアイテムとなる」現象が起きたのではないかと期待する。
(えぇと、効果が出ているかどうかは、どうやって確認するんだっけ? 確か……)
「ステータス!」
私はレオポルドに手を向けて、試しに唱えてみる。
が、光るウィンドウらしきものが、出現する気配はなかった。
「どうした、アリス?」
「アリス、これは何なの? 『ステータス』?」
「……なんでもない、忘れて」
少し冷えた雑炊を、私は一気にかき込んだ。