二日ぶりのベッドに、私はごろりと横になる。
「背中がやわらかぁい……」
ここに来た初日には固いと感じたベッドが、板の間で二日間寝た後だとふわふわに思える。
愛しいケモ達に挟まれて寝るのは温かくて心地よかったけれど、さすがに背中の下が直接板なのは、快適とは言い難かった。
「今日は、ここに泊まるなの?」
コリンが私のベッドに腰を下ろし、左から顔を覗き込んでくる。
「うん、そうだよ。下で美味しいご飯食べられるし、嬉しいでしょ?」
「うーん」
コリンは不服そうに口をとがらせる。
「ボクはアリスのご飯が食べたいなの」
「え? でも、ここのマスターが作るご飯の方が、プロの味!って感じだよ」
「ボクにはアリスのご飯の方が美味しいなの」
私が調理をしたのなんて、昨夜のなんちゃってだし茶漬けだけだ。
たった一度で勝敗を決めてしまうのはどうかと思うが、彼らは私が作った料理の方が力になると言っていた。味わいについてはあまり関係ないのかもしれない。
「コリン、アリスを困らせるな」
ぎしりと音を立て、レオポルドがコリンとは反対の右側に腰を下ろす。
「自分たちと違い、アリスには柔らかな寝床が必要なんだ」
「その寝床だって不満なの!」
言いながらコリンはころりと私の隣へ横向きに寝転がってきた。
「コリン、危ないよ! 寝返り打ったら落っこちちゃう!」
「ほら、狭いこのベッドじゃ一緒に寝られないなの! ボクはアリスとくっついてぬくぬく寝られる、あの宿が良かったなの!」
コリンは私の手を取り、それを大事そうに両手で包むと、ぐいぐい身を寄せてくる。
(わはぁ、コリンの白いモフ毛が柔らかくて気持ちいい)
上目づかいで見てくるいじらしい姿に、つい笑みがこぼれる。その途端、右側からずっしりとした圧力がかかった、
(うぉ!?)
コリンと同じように横向きになり、レオポルドもベッドに乗り込んできた。寝そべっていると言うより、ギリギリで引っかかっている状態だ。体が大きいので、ほんのわずかでもバランスを崩せば、床に落ちる。
「レオポルド!? 危ないよ! このベッドに3人は無理だって!」
「……」
私に向けるレオポルドの目は、少し拗ねているようだ。
(あっ! この目、覚えがある!)
猫型魔獣を魔獣人化させようと抱きしめた日、レオポルドが私に見せたものと同じだ。
(てことは、またヤキモチ妬いているの? コリンが私にくっついているから? それはちょっと可愛いし、嬉しいんだけど!)
レオポルドの漆黒の腕が、ぬぅ、と伸びる。
それは私の上を通過し、コリンに到達すると、その背に回った。
「え? 何? なんなの?」
戸惑いの声を上げるコリンを、レオポルドはグイと引き寄せる。私ごと。
「んぎゃ!?」
まるでプレス機にでもかけられたように、私は左右からきつくサンドされてしまった。
「これでいい」
(いっ……、いい、のか!?)
モフモフサンドだ。
正直言って、天国だ。肺が押しつぶされて息が苦しい以外は。
右側を見れば、目を細めて私を見下ろしているレオポルドがいる。
左側を見れば、甘えるようにニコニコしているコリンだ。
「コリン、この宿でもこうして一緒に寝られる。これで文句はないな」
「うん、ないなの!」
「いやいやいやいや!」
モフモフサンドの幸せを噛みしめながらも、私は首を横に振る。
「さっきからベッドがギシギシいってるから! 悲鳴上げてるから! 壊れないうちに二人とも降りなさーい!」
部屋で一息ついた後もまだ陽は高かったため、私たちは近場の討伐依頼を一つだけ請負うことにした。
「あっ、いた、鼠型魔獣!」
草むらの中に見える茶色の獣毛を私は指差す。その私の視界を遮るように、コリンが回り込んできた。
「アリス。あのね、ボクのお話聞いてほしいなの」
周囲に人影がないためネックゲイターを下ろし、彼のキュートな顔はあらわになっている。
コリンは両手を後ろで組み、小首をかしげて上目遣いでこちらを見ていた。
(ぐっ、可愛い……!)
これは自分の可愛さを理解せし者の仕草だ。
あざとい! だが可愛い! 許す!
「どうしたの、コリン?」
「ベッドのことなの。三人は無理でも、二人なら寝られる気がするのなの」
立てた二本の指を、コリンは自分の口元でチョキチョキと動かす。
「それでね、ここでたくさん鼠型魔獣をやっつけた方が、アリスと一緒にお休みできると素敵だと思うなの!」
「背中がやわらかぁい……」
ここに来た初日には固いと感じたベッドが、板の間で二日間寝た後だとふわふわに思える。
愛しいケモ達に挟まれて寝るのは温かくて心地よかったけれど、さすがに背中の下が直接板なのは、快適とは言い難かった。
「今日は、ここに泊まるなの?」
コリンが私のベッドに腰を下ろし、左から顔を覗き込んでくる。
「うん、そうだよ。下で美味しいご飯食べられるし、嬉しいでしょ?」
「うーん」
コリンは不服そうに口をとがらせる。
「ボクはアリスのご飯が食べたいなの」
「え? でも、ここのマスターが作るご飯の方が、プロの味!って感じだよ」
「ボクにはアリスのご飯の方が美味しいなの」
私が調理をしたのなんて、昨夜のなんちゃってだし茶漬けだけだ。
たった一度で勝敗を決めてしまうのはどうかと思うが、彼らは私が作った料理の方が力になると言っていた。味わいについてはあまり関係ないのかもしれない。
「コリン、アリスを困らせるな」
ぎしりと音を立て、レオポルドがコリンとは反対の右側に腰を下ろす。
「自分たちと違い、アリスには柔らかな寝床が必要なんだ」
「その寝床だって不満なの!」
言いながらコリンはころりと私の隣へ横向きに寝転がってきた。
「コリン、危ないよ! 寝返り打ったら落っこちちゃう!」
「ほら、狭いこのベッドじゃ一緒に寝られないなの! ボクはアリスとくっついてぬくぬく寝られる、あの宿が良かったなの!」
コリンは私の手を取り、それを大事そうに両手で包むと、ぐいぐい身を寄せてくる。
(わはぁ、コリンの白いモフ毛が柔らかくて気持ちいい)
上目づかいで見てくるいじらしい姿に、つい笑みがこぼれる。その途端、右側からずっしりとした圧力がかかった、
(うぉ!?)
コリンと同じように横向きになり、レオポルドもベッドに乗り込んできた。寝そべっていると言うより、ギリギリで引っかかっている状態だ。体が大きいので、ほんのわずかでもバランスを崩せば、床に落ちる。
「レオポルド!? 危ないよ! このベッドに3人は無理だって!」
「……」
私に向けるレオポルドの目は、少し拗ねているようだ。
(あっ! この目、覚えがある!)
猫型魔獣を魔獣人化させようと抱きしめた日、レオポルドが私に見せたものと同じだ。
(てことは、またヤキモチ妬いているの? コリンが私にくっついているから? それはちょっと可愛いし、嬉しいんだけど!)
レオポルドの漆黒の腕が、ぬぅ、と伸びる。
それは私の上を通過し、コリンに到達すると、その背に回った。
「え? 何? なんなの?」
戸惑いの声を上げるコリンを、レオポルドはグイと引き寄せる。私ごと。
「んぎゃ!?」
まるでプレス機にでもかけられたように、私は左右からきつくサンドされてしまった。
「これでいい」
(いっ……、いい、のか!?)
モフモフサンドだ。
正直言って、天国だ。肺が押しつぶされて息が苦しい以外は。
右側を見れば、目を細めて私を見下ろしているレオポルドがいる。
左側を見れば、甘えるようにニコニコしているコリンだ。
「コリン、この宿でもこうして一緒に寝られる。これで文句はないな」
「うん、ないなの!」
「いやいやいやいや!」
モフモフサンドの幸せを噛みしめながらも、私は首を横に振る。
「さっきからベッドがギシギシいってるから! 悲鳴上げてるから! 壊れないうちに二人とも降りなさーい!」
部屋で一息ついた後もまだ陽は高かったため、私たちは近場の討伐依頼を一つだけ請負うことにした。
「あっ、いた、鼠型魔獣!」
草むらの中に見える茶色の獣毛を私は指差す。その私の視界を遮るように、コリンが回り込んできた。
「アリス。あのね、ボクのお話聞いてほしいなの」
周囲に人影がないためネックゲイターを下ろし、彼のキュートな顔はあらわになっている。
コリンは両手を後ろで組み、小首をかしげて上目遣いでこちらを見ていた。
(ぐっ、可愛い……!)
これは自分の可愛さを理解せし者の仕草だ。
あざとい! だが可愛い! 許す!
「どうしたの、コリン?」
「ベッドのことなの。三人は無理でも、二人なら寝られる気がするのなの」
立てた二本の指を、コリンは自分の口元でチョキチョキと動かす。
「それでね、ここでたくさん鼠型魔獣をやっつけた方が、アリスと一緒にお休みできると素敵だと思うなの!」