その日から、私たちは魔石(ケントル)ハンターとして酒場に届く依頼を精力的にこなすこととなった。

 道すがら、おそらく同業者と思われる一行とすれ違う。
 その中に、紫色の肌、額に石、そして尖った耳を持つ人物を見つけた。
(ラプロフロス人……!)
 ビリッと肌に緊張が走り、目は件の人物に釘付けとなる。
「ジロジロ見んなや」
 パティの声にはっとなる。
「ごめん。でもラプロフロス人も、この国にいるんだね」
「当たり前やろ。休戦協定から200年経っとんやで。ラプロフロス人なんて、キハサカイになんぼでもおるわ」
「そうなんだ……」
「うっかり」兵器を送り込んでくる国と、その国にルーツを持つ人間。
(自分の祖先のいた国が送り込んでくる兵器を、駆逐する仕事で生活の糧を得てるんだ。どんな気持ちなんだろう)


 チチチチッ
鼠型魔獣(ユズオム)の群れ発見! レオポルド!」
「任せておけ!」
 レオポルドは稲妻のごとき素早さで、鼠型魔獣(ユズオム)をせん滅する。
 瞬きした次の瞬間には全ての鼠型魔獣(ユズオム)が消え失せ、地面には黒い石のかけらが散らばるのみといった具合だった。
「ごっついな。移動時間もあるから三件くらいが限界や思たけど、上手いことエリアを選べばもう一件くらい増やせそうや」
「う~ん。でもレオポルドをこれ以上酷使するのは……」
「構わない」
 息一つ乱さず、レオポルドは静かに笑う。
「自分は兵器だ。戦うことこそ自分の本懐。それに」
 レオポルドは翠がかった金色の瞳に柔らかな光をたたえ、私の目を覗く。
「アリスの役に立てるのは、自分にとって何よりの喜びだ」
(ふわぁあ~!)
 好みの見た目、好みの声で、こんなこと言われたら腰が砕けてしまいそうだ。
「いや、メロメロになってるところアレやけど、主な借金の原因はレオやからな? コイツ自分で自分の尻ぬぐいしとるだけやで?」
 あーあーあー! 聞こえなーい!
「アリス? また顔が赤いようだが」
「あ、うん。あはは。ちょっと暑いかな」
「具合が悪いのでは? 宿に戻るとしよう」
 そう言うと、レオポルドは流れるような動きで私の膝の裏を(さら)い、あっさりと抱き上げる。
(お姫様抱っこ再び!?)
 戦いを終えたばかりのレオポルドの体はいつもより熱く、ほのかに湯気が立っているように感じる。胸元から立ち上るヒノキの様な芳香は、完全に彼へ身を任せてしまいたくなるほどの安心感を、私にもたらせた。

 取ってきた依頼全てをこなし、私たちは「金の穂亭」へと戻る。
「おっ、ご苦労さん」
 マスターは、私たちの差し出す袋の中身を確認する。
 魔獣は倒すと消滅してしまうため、退治した証拠として提出するのは魔石(ケントル)だ。
 マスターに渡した袋の中には、依頼の三ヶ所で倒した魔獣の石が詰まっていた。
「はい、確かに。じゃあ、これは報酬だ」
 カウンターに出されたのは、約束通りの1万5000カヘ。
(よし)
 私はそれを丸ごとパティへと渡す。
「まいど!」
 パティはにんまりと笑ってそれを懐へと入れた。
(これで借金約3万カヘのうちの1万5000カヘを返せた! 残りあと1万5000カヘとちょっと! これならすぐに返済できそう)

 ――甘かった。
(まさか毎日の稼ぎの半分以上が、レオポルドの胃袋に消えてしまうとは……!!)
 あれから三日ほど魔石(ケントル)ハンターとして過ごしたのだが。
(返済どころか、食事代と宿代でさらなる借金を抱えることになってしまってる!)
 毎日大体2000カヘほど借金が追加されている計算になる。
「面目ない!」
 レオポルドは大きな体の背を丸め、頭を下げる。
「食べる量は控えたつもりだが、その、魔獣を討伐するとひどく腹が減ってしまって」
「う、ううん、気にしないで」
 動揺を抑えきれず上ずった声で、私は沈痛な面持ちのレオポルドを慰める。
「頑張って戦ってくれてるのはレオポルドだもんね! うんうん、あれだけ暴れればお腹もすくよね! しょうがないよ!」
「本当に、お恥ずかしい限りで……!」
「大丈夫、大丈夫だから!」
「いや、アカンやろ」
 パティが容赦なくツッコむ。
「アカンとこはアカン言いや。ダメ男に依存するダメ女みたいになってんで」
「レオポルドはダメ男じゃない!」
「アリスを侮辱することは許さん!」
「なんやねん、アンタら」