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それから僕は、夏休みの大半を睦月さんと過ごすことになった。

彼女が行ってみたいと言っていたカフェや公園、映画や脱出ゲームなど、ほぼ毎日のようにいろんな場所へとにかく出向いた。

僕のこれまでの人生の中で、一番外に出た夏休みだと言っても過言ではないほど、家にいない日が続く。

それは今日も例外ではなく、星や天体観測が好きだという睦月さんに誘われて、街のはずれにある小さな展望台に流星群を見に来ている。

「慎也くんはさ、流れ星に何をお願いするの?」
「えっと、そうだな。志望大学に受かりますように、とか?」
「ふふっ、お願いごとって人に言っちゃったら叶わないらしいよ?」
「なっ、そうなの?じゃあ聞かないでよ……」
「アッハハ!慎也くんは相変わらず素直だね!」

となりで笑う睦月さんを見て、僕も釣られて笑った。

ほんの数週間前までは、挨拶もまともに交わさないような間柄だったのに、今ではこんなにも近くに彼女がいる。

最初こそ多少の警戒心や不安があったけれど、一緒にいる回数を増やすたびにそれらは自然と消えていた。

「……睦月さんのお願いごとも聞かせてよ」
「やだ、私のは秘密。絶対叶えてほしいことだもん」
「なんだよ、僕ばっかり」
「ふふっ、でもね!今年のペルセウス座流星群はね、途中でパァッて明るくなる星がたくさんあるの!」
「そうなの?」
「うん!今夕方の四時でしょ?五時くらいから始まって、三十分も経てば出てくるんだ!」
「睦月さん、相当星に詳しいんだね。そんな情報、どこにも載ってなかったよ」
「……あ、うん。まぁね」

展望台には同じように流星群を見に来た人たちが、徐々に増えはじめた。

彼女が誘ってくれなければ、僕は人生の中で一生、流れ星を見るなんてことはしなかったと思う。

睦月さんは美味しいご飯屋さんも、楽しい遊び場のスポットもよく知っていて、きっとこれまでにいろんな人達と、いろんな場所へ行って来たんだろうなと想像がついた。

そして、ふと思った。

「ねぇ、睦月さん。どうして僕以外の人とは会わないの?」
「……え?」
「ほら、睦月さんは僕と違ってたくさん友達がいるでしょ?いいの、他の人達と会わなくて?」

何気なく問いかけた質問に、彼女はひどく焦ったように視線を泳がせる。

もしかして、喧嘩でもしてしまったのだろうか。

いや、睦月さんに限ってそんなことはないはず。

「この夏休みだけは、慎也くんとたくさん一緒にいたいの」
「……っ!?」
「だから、もう少しだけ私のわがままに付き合ってくれないかな?」

僕を見上げてそう言った彼女の瞳が、あまりに切なかったから。

「……うん。分かった」

グッと込み上げてくる何かを必死に押し殺しながら、そう答えるのが精一杯だった。

急激に顔が熱を持ちはじめる。

僕は展望台の室内が仄暗くセットされていることに心底感謝しながら、心臓の激しい鼓動が彼女に聞こえないよう少しだけ距離をとった。

僕は今、きっと睦月ちひろに恋をしている──。