夕食を食べ終える頃に、今後の事を提案してみた。
「さっきレアーが言っていた戦術の話だが、今後戦闘が起きた時の為に、身構えとして、ある程度決めておいた方がいいのかなと思う」
三人は俺を見て続きを促す。
「最前衛は俺がやる。中盤はロアネハイネ。後衛はレアー。そして最後衛はネイア。
それぞれの役割だが、俺は剣で前線を上げていく。魔術である程度の壁役もやろう。
ロアネハイネは攻守のバランスを考えて俺とレアーとの間隔を均等に保って、サイドアタック、バックアタックなどの奇襲に備えて常に気を張っていてくれ。だから基本的にそこまで攻撃的にならないくらいがちょうどいい。
レアーは魔術に集中してくれればいい。俺とロアネハイネがお前には絶対に攻撃を通させない」
その言葉にロアネハイネがピンと耳を立てた。レアーを見ているその瞳には、まっすぐな意志が通っているようだった。
レアーもそれに応える様に、にやりと笑う。
そんな二人を見て、ネイアは肩を落としている。
「ネイア」
呼びかけると姿勢を正してこちらに向き直る。
「はい」
「君は参謀だ。戦闘中の指示系統の全てを君に託す」
「え」
驚いて、それから乾いた笑いを響かせる。
「そんな大役は無理です。あの、私が法術を使えない事へのお気遣いなら……」
「気を遣っているわけじゃあない。ネイアにはその素質がある。レアーなら気付いているだろう?」
レアーは腕を組んで頷いている。
「そもそも回復役は、その役割ゆえ、後方に回る事が多い。勇者一行は元々6人パーティなんだろ? それを後ろで見て、ここぞと言う時に法術を使うには、それほどの大局観と瞬発力の両方が必要になる。それをネイアは今までやってきていたんだ。自分では気付いていないかも知れないが、君には戦術家の才がある。これは紛れもない事実だ」
そう言い切っても、不安を払拭できないネイアは首肯できずに俯いている。
「ネイアにだったらできるわよ!」
元気よく言ってネイアの肩を叩くレアー。
「レアーさん」
ネイアの不安げな顔にレアーが笑いかけ、つられて彼女も微笑する。
「あと、このパーティのリーダーはレアーがやってくれ」
しばらく笑顔でうんうんと頷いていたレアーだったが、数秒遅れで驚きの声を上げた。
「はあ!?」
「お前が一番一人一人の性格と性能を知っている。何よりレアーの声は、元気が出る」
「何よ! それ! 元気だけが取り柄みたいじゃない!」
怒るレアーをしり目に、二人はきゃらきゃらと笑っている。
「もう! 二人まで!」
だが俺は別に彼女を怒らせるためにおちょくっているわけじゃあない。
「元気が出るってことは重要なことだ。俺は思考が陰気に陥りがちだ。そんな俺がリーダーをやっては士気が下がる。戦闘の時とそれ以外の時で指揮命令権が違うのは、やりづらいかもしれないが、現状の適材適所を考えれば仕方ない」
言い終わると同時に、突然、視界が揺らいだ。
地震か?
そう思ったが、どうやら違う。
眩暈だ。
それを認識した瞬間、急に頭が痛くなってきた。
戦術について考えていたからか?
いや、その程度でふらつくようなやわな頭ではないはずだが。
上下の間隔が分からなくなり、俺は気付いたら地面に手を突いていた。
目の前にある地面がぐわんぐわんと近くなったり遠くなったりしている。
「ウーさん!?」
ネイアが近付いてくる。
肩に添えられた手。
優しい彼女のやわらかくて華奢な手。
それがなぜだか物凄く鬱陶しいものに感じてしまい、憤りが駆け抜けた。
気が付いたら、乱暴に手で払いのけていた。
「痛っ」
相当強く当たってしまった。
「す、すまない」
胸が痛い。
これは精神的なものじゃあない。本当に痛くなってきたのだ。
「大丈夫ですか!?」
「大丈、夫……。ちょっと、火に当たり過ぎたみたいだ」
自分でもフラフラしていると言う自覚はあったが、立ち上がって歩き出した。
「どこへ!」
肩で息をするほど息が乱れている。声を返すのも億劫なほどだった。
「ちょっと、体を冷ましてくる。すぐ戻るから」
「私も一緒に」
「来るな!」
俺が怒号を発すると、立ち上がろうとしていたネイアが顔を引きつらせた。
「……お願いだ」
果たして相手に届いているのかも分からない声量で絞り出した。自分が情けない表情をしていることが容易に想像できた。
ネイアはごくっとのどを鳴らし、ゆっくりと頷いた。
俺は暗闇に向かって歩き出した。
突然の体調不良に混乱はしているが、原因の憶測はついている。
自分の中の魔王が制御しきれなくなってきている。
ネイアの手を払いのけたのも俺の意思じゃあない。
先もイラついただけで無意識に焚火の炎を大きくしていた。
ガンジマルと対峙した時も、俺の魔術とは別に勝手に魔術が放出された。しかも一度も使ったことがない魔術だ。
神はそもそも俺がすぐ自殺する前提で、魔王の体に転生させている。
と言うことは、一時的な処置しかしてないないと言うことになる。魔王の意思を完全に消し去り、俺の意思を上書きしたわけじゃあないんだ。きっと魔王の意思そのものはずっとこの体にあるのだ。
今は俺の意思が勝っているから体が言うことを聞いているだけ。
いったいいつまで自分の意思で動かせるのか。
だいたい、この運動神経や剣の使い方や魔術の使い方は、全て魔王に由来するものだ。自身の体の様に動かしているが、そのコントロールを突然奪われることは、起こりうることだ。
そしたら、気付いたら味方を全員殺してしまうなんてことは……。
自分の体について集中して考えていたおかげか、呼吸はいつの間にか整い、先ほどの頭痛胸痛はなくなっていた。
とにかく一度キャンプに戻ろう。
心配してネイアが追いかけてきたら大変だ。
一対一で力が暴走したら、間違いなくネイアを殺してしまう。
それだけは避けなければいけない。
「さっきレアーが言っていた戦術の話だが、今後戦闘が起きた時の為に、身構えとして、ある程度決めておいた方がいいのかなと思う」
三人は俺を見て続きを促す。
「最前衛は俺がやる。中盤はロアネハイネ。後衛はレアー。そして最後衛はネイア。
それぞれの役割だが、俺は剣で前線を上げていく。魔術である程度の壁役もやろう。
ロアネハイネは攻守のバランスを考えて俺とレアーとの間隔を均等に保って、サイドアタック、バックアタックなどの奇襲に備えて常に気を張っていてくれ。だから基本的にそこまで攻撃的にならないくらいがちょうどいい。
レアーは魔術に集中してくれればいい。俺とロアネハイネがお前には絶対に攻撃を通させない」
その言葉にロアネハイネがピンと耳を立てた。レアーを見ているその瞳には、まっすぐな意志が通っているようだった。
レアーもそれに応える様に、にやりと笑う。
そんな二人を見て、ネイアは肩を落としている。
「ネイア」
呼びかけると姿勢を正してこちらに向き直る。
「はい」
「君は参謀だ。戦闘中の指示系統の全てを君に託す」
「え」
驚いて、それから乾いた笑いを響かせる。
「そんな大役は無理です。あの、私が法術を使えない事へのお気遣いなら……」
「気を遣っているわけじゃあない。ネイアにはその素質がある。レアーなら気付いているだろう?」
レアーは腕を組んで頷いている。
「そもそも回復役は、その役割ゆえ、後方に回る事が多い。勇者一行は元々6人パーティなんだろ? それを後ろで見て、ここぞと言う時に法術を使うには、それほどの大局観と瞬発力の両方が必要になる。それをネイアは今までやってきていたんだ。自分では気付いていないかも知れないが、君には戦術家の才がある。これは紛れもない事実だ」
そう言い切っても、不安を払拭できないネイアは首肯できずに俯いている。
「ネイアにだったらできるわよ!」
元気よく言ってネイアの肩を叩くレアー。
「レアーさん」
ネイアの不安げな顔にレアーが笑いかけ、つられて彼女も微笑する。
「あと、このパーティのリーダーはレアーがやってくれ」
しばらく笑顔でうんうんと頷いていたレアーだったが、数秒遅れで驚きの声を上げた。
「はあ!?」
「お前が一番一人一人の性格と性能を知っている。何よりレアーの声は、元気が出る」
「何よ! それ! 元気だけが取り柄みたいじゃない!」
怒るレアーをしり目に、二人はきゃらきゃらと笑っている。
「もう! 二人まで!」
だが俺は別に彼女を怒らせるためにおちょくっているわけじゃあない。
「元気が出るってことは重要なことだ。俺は思考が陰気に陥りがちだ。そんな俺がリーダーをやっては士気が下がる。戦闘の時とそれ以外の時で指揮命令権が違うのは、やりづらいかもしれないが、現状の適材適所を考えれば仕方ない」
言い終わると同時に、突然、視界が揺らいだ。
地震か?
そう思ったが、どうやら違う。
眩暈だ。
それを認識した瞬間、急に頭が痛くなってきた。
戦術について考えていたからか?
いや、その程度でふらつくようなやわな頭ではないはずだが。
上下の間隔が分からなくなり、俺は気付いたら地面に手を突いていた。
目の前にある地面がぐわんぐわんと近くなったり遠くなったりしている。
「ウーさん!?」
ネイアが近付いてくる。
肩に添えられた手。
優しい彼女のやわらかくて華奢な手。
それがなぜだか物凄く鬱陶しいものに感じてしまい、憤りが駆け抜けた。
気が付いたら、乱暴に手で払いのけていた。
「痛っ」
相当強く当たってしまった。
「す、すまない」
胸が痛い。
これは精神的なものじゃあない。本当に痛くなってきたのだ。
「大丈夫ですか!?」
「大丈、夫……。ちょっと、火に当たり過ぎたみたいだ」
自分でもフラフラしていると言う自覚はあったが、立ち上がって歩き出した。
「どこへ!」
肩で息をするほど息が乱れている。声を返すのも億劫なほどだった。
「ちょっと、体を冷ましてくる。すぐ戻るから」
「私も一緒に」
「来るな!」
俺が怒号を発すると、立ち上がろうとしていたネイアが顔を引きつらせた。
「……お願いだ」
果たして相手に届いているのかも分からない声量で絞り出した。自分が情けない表情をしていることが容易に想像できた。
ネイアはごくっとのどを鳴らし、ゆっくりと頷いた。
俺は暗闇に向かって歩き出した。
突然の体調不良に混乱はしているが、原因の憶測はついている。
自分の中の魔王が制御しきれなくなってきている。
ネイアの手を払いのけたのも俺の意思じゃあない。
先もイラついただけで無意識に焚火の炎を大きくしていた。
ガンジマルと対峙した時も、俺の魔術とは別に勝手に魔術が放出された。しかも一度も使ったことがない魔術だ。
神はそもそも俺がすぐ自殺する前提で、魔王の体に転生させている。
と言うことは、一時的な処置しかしてないないと言うことになる。魔王の意思を完全に消し去り、俺の意思を上書きしたわけじゃあないんだ。きっと魔王の意思そのものはずっとこの体にあるのだ。
今は俺の意思が勝っているから体が言うことを聞いているだけ。
いったいいつまで自分の意思で動かせるのか。
だいたい、この運動神経や剣の使い方や魔術の使い方は、全て魔王に由来するものだ。自身の体の様に動かしているが、そのコントロールを突然奪われることは、起こりうることだ。
そしたら、気付いたら味方を全員殺してしまうなんてことは……。
自分の体について集中して考えていたおかげか、呼吸はいつの間にか整い、先ほどの頭痛胸痛はなくなっていた。
とにかく一度キャンプに戻ろう。
心配してネイアが追いかけてきたら大変だ。
一対一で力が暴走したら、間違いなくネイアを殺してしまう。
それだけは避けなければいけない。