「あの、危ない所を助けて頂きありがとうございました」

 ネイアが深々と頭を下げる。
 自分がほとんど裸体に近い事を忘れているのか、衣服の切れ間から白く柔らかそうな胸のふくらみのその輪郭の下部が垣間見えているにも拘わらず、恥じらう様子が微塵もない。
 俺は彼女に目もくれず、近くに落ちている布切れを拾い集める。

「あ、あの……」
「ちょっと待っていろ」

 拾い集めた布をネイアの前に置く。
 自分の服を裁縫した時同様に魔界から裁縫セットを呼び寄せる。
 服を脱いでネイアに渡す。

「服を脱いで貸してくれ。縫おう。その間は俺の服を着ていてくれ」
「あ、ありがとうございます!」

 と、俺が見ている前でいきなり脱ぎ始めたので、慌てて顔を背けそのまま背中も向ける。

 なんで平気なんだよ!

 と内心思ったが、自分が魔人、しかも子供であったことを思い出した。

「脱ぎました。えっと」

 俺が背を向けているので困っているようだ。

「じゃあ、それを俺の後ろ辺りに置いて」

 視線を落としたまま振り向き、地面に置かれた彼女の衣服を見る。
 目玉が飛び出すかと思った。

「いやパンツは穿いておけよ!」

 彼女を見られないのでほぼパンツに対してツッコんだ形になる。
 白くテラっとした生地感のパンツはどこも破れてなさそうだった。なんで脱いだんだよ。

「すみません! 脱いで貸してくれと言うので、取り敢えず全部渡した方が良いのかと思って」
「破れた所を縫うだけだから!」

 するとパンツに釘付けになっていた視界にネイアが現れる。不意に視線が交わり、俺が子供とは言えさすがに恥ずかしく思ったのか、頬を染めて視線を逸らしいそいそとパンツを回収していった。

 ローブなのである程度ゆとりがあるはずだったが、破れた箇所がほつれないように裁断しなおして縫っていったら相当タイトな仕上がりになってしまった。縫ったのは俺じゃあないが。

 でき上がった服を渡す。

「凄いです! ありがとうございます!」
「ちょっと小さくなったから、きつかったら言ってくれ。とはいっても布をどこかで仕入れなければ仕立て直しようがないんだがな」

 ネイアは俺に服を返そうと脱ぎ始める。
 俺はまた慌てて後ろを向く。

「ばんざいしてください」

 ばんざい?

 言われるままに手を上にあげると、服が被せられた。
 本当に子供になったみたいでなんか恥ずかしい。
 森の中で全裸の女性に服を着せてもらうって、いったいどういう状態なんだ?

 しばらくゴソゴソと着替える音がしていたが、着替え終わったようで、「いいですよ」と声を掛けられた。

 振り返るとそこには、サラサラの長い金髪を風になびかせた美少女が、澄んだ蒼い瞳でこちらを見ていた。

 ゆとりがあったはずの白いローブはフィットするようなサイジングになり、肩はノースリーブ。袖口からちらりと腋が見えている。
 金色の装飾刺繍が美しい肩帯(ストラ)は、元々破れてなかったので長さはそのままで、首から膝下まで垂れ下がっている。
 それを腰の辺りでローブと一緒に紐で結んでいる。ローブを紐で締め付けることにより、華奢なウエストと丸みのあるヒップとの差をより鮮明に浮かび上がらせている。
 本当は脛の辺りまであったはずのローブの丈は著しく縮み上がり、先端は太ももの辺りで止まっている。

 地球風に言うなら、本来ジーンズなどのボトムを穿く前提で着る丈感のチュニックを生足で穿いて、首から平べったいストールを掛けているイメージか。

 股下から脛にかけて、ハリのあるキメの細かい肌が陽の光を受けて艶々と輝き、色白でありながらも健康的な肉体であることを主張していた。
 太ももを魅力的に見せているのは、ただローブの丈が短いからと言うだけではない。足に対して並行に走る長いストラもまた彼女の太ももを輝かせていた。

 その長いストラと短いローブの丈のアンバランスさが、なんだかとてもセクシーで。更に白い修道帽(クロブーク)と手袋とブーツで先端が隠れることにより、露出している部分が一層際立ちセクシーさを倍増していて。そのうえに彼女が持つ神官としての清楚さが加わり、性格と服装とのギャップまで発生してしまっている。

 もはやこれはていの良いセクハラではないか?
 などと考えていると、ネイアがふふっと笑ってその場で回って見せた。

「とても可愛いですね。似合いますか?」
「あ、ああ」

 どうやら気に入ってくれたようだ。
 先ほどの今にも色んな部分が見えそうなハレンチ全開の状態に比べたら、服としての機能を果たしている分こちらの方が良いだろう。

 こういう衣装だと思えば馴染めるはずだ。多分。