魔王の城は森の中心にあったらしく、どれだけ道を歩けども、木ばかりが続いた。
 同じ風景ばかりが続くと、なんだか不安になる。

 十数分歩き続けた所で、木々の隙間に湖畔を見つけた。
 後ろを振り返ると、城は随分小さくなっていた。

 この辺で良いか。

 俺は道を外れ、湖畔に進み入る。
 透明度の高い水は、俺の姿を綺麗に映していた。

 懐からヴァンパイアに貰った薬を取り出す。
 ピンクの液体が透明な瓶に入っている。
 こんな色のものを飲んで果たして無事で済むだろうか。
 ヴァンパイアが言うには、村人は子供になったらしい。ならば死ぬなんてことはないだろう。魔王の方が体強そうだし。

 キャップを外し、クイッと一気に飲み干す。

 甘っ。

 子供用風邪薬のシロップの味がした。
 間もなくして体が芯の方から熱くなるのが解った。
 心臓が早鐘を打つ。
 胸が締め付けられるような痛みが奔ったかと思うと、今度は頭がギリギリと痛み出す。
 全身を駆け巡る痛みに、毛穴と言う毛穴から汗が噴き出る。

 本当、に、これ、大丈夫……か……。

 意識が遠のいていく感覚があった。

 混濁した意識で捉えたのは、木の枝から生えた葉っぱをフレームにした青空だった。

 いつの間にか仰向けに倒れていたらしい。
 湖の方に転落しなくて良かった。

 あ。
 姿はちゃんと変わっているだろうか。
 立ち上がると、着ていた服がするりと抜けた。どうやら体のサイズはかなり小さくなったようだ。
 期待を胸に、恐る恐る水面に近づく。

 まず顔が映った。
 完全に子供の顔になっている。転生したばかりの魔王の顔が30代前半くらいだとすると、この顔は12歳程度に見える。
 それに角も無い。触るとその部分だけ異様に肌が固いが、見た目には全く分からない。
 オールバックだった髪型も、髪の毛が縮んだ所為か、パーマ感のある無造作ヘアになっていた。前髪は目にかかるかどうかという長さだ。
 服が脱げたことである程度理解していたが、体つきも幼くなっている。
 顔と同等程度だ。
 ちょっと子供にしては筋肉質な気がするが。

 ただまあ、何となく予想していたにはいたが、全体的な青紫さは変わらない。
 そりゃそうだ。
 いくら魔王が子供になったからと言って、人間の子供に近づくわけはない。
 角が隠れただけでも良しとしよう。
 これで魔族と人間のハーフくらいには見えるだろうし。
 すると、魔人ってことで良いのだろうか。
 どうあれ魔王の時よりは人に受け入れやすい姿形になっているはずだ。

 しかしこのまますっぽんぽんで街へ行くわけにもいかないな。

魔界裁ち鋏(デモンズシザー)
魔界縫い針(デモンズニードル)
魔界縫い糸(デモンズスティッチ)

 自分で裁縫などやった事は無いが、魔界から取り寄せたハサミや針、糸なら何となくいい感じに仕上げてくれそうな気がした。
 魔力を流し込むと、それらは自動的に服を裁断していく。
 思惑通り今の自分にぴったりフィットする服をこしらえてくれた。