声が聞こえた。
鉛の様に重い頭の、白っぽい空間の中に響く。
声。
眼を開くと、辺りは真っ暗だが、遠くには点のような光がいくつも見えた。
まるで星のよう。
いや、星だ。
俺は今、星空を見ている。
しかし見上げているわけではない。正面に星空があった。
その無数の星の中の一つがだんだんとこちらに迫ってきて、それが星ではないことに気付く。
発光体は目の前で一層激しく光った。
眩しさに目を細め、その光が弱まるのを待っていると、そこから老人と思しき人影が見える。
大量の白い髭を蓄えたその老人が、先ほどと同じ声でもって問い掛けてきた。
「仮名活太郎、目覚めたか」
頭は重いが、体はふわふわと宙に浮いている。
無重力空間の中、どちらが上とも分からないまま、上下に頭を振った。
「わしはおぬしの世界の言語でいうところの、神」
「……神様」
ぼんやりとした思考の中で発した声。
それが自分の声だと気付くまでに少しだけ時間が掛かった。
「そう。しかし、おぬしが住んでいた惑星のそれではない。別の星の神じゃ」
「その別の世界の神様が、どうして俺に語り掛けているんですか」
「おぬしの力を借りたいのじゃ。わしの世界に来て、世界を救ってはくれぬか」
「え? でも……」
話していく内にだんだん思い出してきた。
そうだ。
俺は死んだのだ。
だからこんな真っ暗の中に居る。
宇宙のような無限の闇の中に居る。
「その、俺は死んでいます。なので、お力にはなれないと思います」
「いや、問題ない。寧ろ死んでいることが好都合じゃ。わしの世界に転生させるからの」
「転生?」
「生まれ変わるのじゃ」
「でも……それにしても、多分、救えませんよ。俺では」
「なぜそう思うのじゃ?」
「神様ならご存知かと思いますが……、俺は自殺したんです。そんな自らの命も救えないような俺なんかに世界を救うだなんて大それたこと、絶対に無理です」
「自ら命を絶ったことについて、後ろめたさのようなものがあるのなら気にすることは無い。わしはそれも含めおぬしを選んだのじゃ」
「選んだ?」
「そう。言い換えるならおぬしは、死すら恐れぬ生粋の戦士。人間が作った価値観などは、世界によって異なると言うことじゃよ」
「はあ」
神様の発言にはいまいちピンと来ていないが、選ばれた理由は解った。
「その狂戦士の如き鋼の精神力で、この世界の魔王を消し去って欲しい」
「それが、俺の使命ですか」
「そうじゃ。この世界の魔王は強すぎる。それゆえわしが世界に放った聖剣を抜き去りし勇者でも勝ち目はないじゃろう」
「……自分が勇者ってわけではないんですね」
「既にこの世界には唯一無二の勇者がおるのでな。しかしおぬしにはその勇者を凌ぐほどの力を与えるゆえ、気にすることは無い」
なるほど。
だいたい話が見えてきた。
俺の世界では不純とか過ちとかの類になってしまう自殺も、こっちの世界では強靭な精神力の持ち主と言う解釈になるようだ。
そしてこの度俺はこの神様の世界に転生して、勇者の助太刀をすることになるようだ。
自分が死んでしまった世界のことは、今はもう思い出したくないが、こうして別世界の神様がチャンスをくれたことは単純にありがたい。
「この大義、頼まれてくれるか」
「はい」
俺は深く頷いた。
新しい世界で、もう一度生きなおす。
最後まで生き抜くことができなかった自分自身の為に。
目を閉じると、無重力の中、体がことさら軽くなるのを感じた。
まるで眠りにつく手前のあの感覚……。
鉛の様に重い頭の、白っぽい空間の中に響く。
声。
眼を開くと、辺りは真っ暗だが、遠くには点のような光がいくつも見えた。
まるで星のよう。
いや、星だ。
俺は今、星空を見ている。
しかし見上げているわけではない。正面に星空があった。
その無数の星の中の一つがだんだんとこちらに迫ってきて、それが星ではないことに気付く。
発光体は目の前で一層激しく光った。
眩しさに目を細め、その光が弱まるのを待っていると、そこから老人と思しき人影が見える。
大量の白い髭を蓄えたその老人が、先ほどと同じ声でもって問い掛けてきた。
「仮名活太郎、目覚めたか」
頭は重いが、体はふわふわと宙に浮いている。
無重力空間の中、どちらが上とも分からないまま、上下に頭を振った。
「わしはおぬしの世界の言語でいうところの、神」
「……神様」
ぼんやりとした思考の中で発した声。
それが自分の声だと気付くまでに少しだけ時間が掛かった。
「そう。しかし、おぬしが住んでいた惑星のそれではない。別の星の神じゃ」
「その別の世界の神様が、どうして俺に語り掛けているんですか」
「おぬしの力を借りたいのじゃ。わしの世界に来て、世界を救ってはくれぬか」
「え? でも……」
話していく内にだんだん思い出してきた。
そうだ。
俺は死んだのだ。
だからこんな真っ暗の中に居る。
宇宙のような無限の闇の中に居る。
「その、俺は死んでいます。なので、お力にはなれないと思います」
「いや、問題ない。寧ろ死んでいることが好都合じゃ。わしの世界に転生させるからの」
「転生?」
「生まれ変わるのじゃ」
「でも……それにしても、多分、救えませんよ。俺では」
「なぜそう思うのじゃ?」
「神様ならご存知かと思いますが……、俺は自殺したんです。そんな自らの命も救えないような俺なんかに世界を救うだなんて大それたこと、絶対に無理です」
「自ら命を絶ったことについて、後ろめたさのようなものがあるのなら気にすることは無い。わしはそれも含めおぬしを選んだのじゃ」
「選んだ?」
「そう。言い換えるならおぬしは、死すら恐れぬ生粋の戦士。人間が作った価値観などは、世界によって異なると言うことじゃよ」
「はあ」
神様の発言にはいまいちピンと来ていないが、選ばれた理由は解った。
「その狂戦士の如き鋼の精神力で、この世界の魔王を消し去って欲しい」
「それが、俺の使命ですか」
「そうじゃ。この世界の魔王は強すぎる。それゆえわしが世界に放った聖剣を抜き去りし勇者でも勝ち目はないじゃろう」
「……自分が勇者ってわけではないんですね」
「既にこの世界には唯一無二の勇者がおるのでな。しかしおぬしにはその勇者を凌ぐほどの力を与えるゆえ、気にすることは無い」
なるほど。
だいたい話が見えてきた。
俺の世界では不純とか過ちとかの類になってしまう自殺も、こっちの世界では強靭な精神力の持ち主と言う解釈になるようだ。
そしてこの度俺はこの神様の世界に転生して、勇者の助太刀をすることになるようだ。
自分が死んでしまった世界のことは、今はもう思い出したくないが、こうして別世界の神様がチャンスをくれたことは単純にありがたい。
「この大義、頼まれてくれるか」
「はい」
俺は深く頷いた。
新しい世界で、もう一度生きなおす。
最後まで生き抜くことができなかった自分自身の為に。
目を閉じると、無重力の中、体がことさら軽くなるのを感じた。
まるで眠りにつく手前のあの感覚……。