俺は彼女と一緒に住むことにした。彼女の病気を治すカウンセラーの先生という設定を作り、彼女のメイドたちには誤魔化した。
俺は彼女が寝るまで側にいた。彼女が寝たらすぐに両手を鎖で繋いだ。最初は虐待だと思い抵抗もあった。だが、彼女が自ら願ったことだから毎日のようにやった。そうしないと次の被害者が出てしまうから。
次第に彼女は俺に心を開いてくれるようになった。 感情も豊かになり、楽しい時には俺の前で笑ってくれた。俺は彼女の笑顔が好きだった。彼女が笑っているとき、彼女は本当に楽しそうだった。しかし夜になると、いつもの暗い表情に戻っていた。
「夜は嫌。暗いし、私は夜が大嫌い」
「仕方ないだろ? それに夜が来ないと朝もこない」
「そうだけど、でも……」
「病気が治ったら、ちゃんと寝れるんだ。それまでは我慢してくれ。それじゃあ鎖で繋ぐぞ」
「ちょっと待って」
「どうした?」
すると彼女は俺の手をギュッと握った。 男の俺と違って彼女の小さな手は不思議と惹かれるものがあった。優しくて、小さくて。でも、人を何人も殺してる。一日でも早く彼女の病気が治ってほしいと心から願った。
「ねえ、希望」
「?」
「私の手、どうかな? やっぱり汚いよね」
「汚くなんかない。むしろ綺麗だ。俺なんて大きいだけだし」
「そんなことない。大きい方が良いよ。男って感じがして、カッコいい」
「ありがとう。そんなこと言ってくれるのは、緋凪だけだよ」
「希望……」
彼女は静かに目をつむった。それは同時にキスをしてほしいという合図だ。
彼女と同居するようになって、一年が経とうとしていた。俺たちはお互いに名前で呼びあっていた。一緒に住むようになってから、友達以上になるのに、そう時間はかからなかった。
付き合っているわけだし、そろそろキスもして良い頃だ。俺はごくりと唾を飲み込んだ。そりゃあ彼女から求められているわけだし、ここでしなきゃ男じゃない気がする。
「緋凪」
「んっ」
俺は耳元で、彼女の名前を優しく呼んだ。そして、キスをした。初めてのキスだったけど、長い、とても深いキスをした。
お互いに愛し合っていた。好きで好きで堪らなかった。彼女を、緋凪を離したくない。その日は本当に幸せな夜だった。
* * *
翌日、目が覚めると彼女の姿は消えていた。
「緋凪?」
鎖も自分で解いたあとだった。やっぱり、何処かでまた……。俺は必死に彼女を探し回った。そして見つけた。が、誰かと話しているのが聞こえた。
「お前が俺様の奴隷になれば、お前の好きな人は無事だ。その代わりにお前は人を殺せ。そのくらい、出来るだろう? 夢遊病は無意識なのだから」
「はい。帝王様」
緋凪と会話をしている人物、それは闇の帝王だった。
闇の帝王。それは大昔、人間界をあと一歩のところまで滅亡させようとした人物。不老不死で強大な力を持つ彼の前では誰も逆らうことは出来ない。
見た目は20代前半に見えるほど若い。が、実年齢はかなりいってるはずだ。噂でしか聞いたことはなかったが実際に会ってみると、距離があるはずなのに威圧感と殺気で動くことすら出来ない。
緋凪を助けようと思った。だけど、闇の帝王を見た瞬間、恐怖のあまりその場から逃げてしまった。
好きな人一人を守る力もない、ただの無力な魔王の息子。人間界に来た悪魔は、魔力を使うことを制限されていた。それは第二の闇の帝王を出さないためだ。
俺は桜の下で悔やんでいた。そして、悲しさのあまり泣こうとした。すると、後ろから
「泣かないで!」
小さな体が、俺を後ろから抱きしめた。
「希望、泣かないで。お願い……だから。私の家系のこと、ちゃんと話すから」
緋凪はそう言って、自分の家系のことを語り出した。
「私の家系は互いに愛し合っている相手の為、自分の為に涙を流してはいけないの。涙を流したら、相手は灰となって死んでしまうの」
「は? 互いにって、俺は緋凪の家系じゃないぞ」
ただ、緋凪の言っているのが嘘ではないと言うのがわかった。俺はあることを思い出していた。それは緋凪の親が、緋凪が物心つく前に他界したという話。
「私の家系と恋をした者は自動的に家系の掟に従わないといけないようになっているの。今まで黙っていて、ごめんなさい」
緋凪は淡々と自分の家系について全てを話してくれた。きっと、嫌われてしまう覚悟で。だけど今時、特殊の家系なんてもの珍しくはない。人間界に天使や悪魔がはびこってる世界なんだ。こんな家系がいても、おかしくはない。
緋凪の話を聞いて多少驚きはしたが、それ以上に俺は緋凪のことを以前より愛おしく感じていた。
「わかった。また治さないとな。夢遊病もだけど、俺も簡単には泣かないようにする」
「……希望」
彼女は申し訳なさそうに、何度も俺に謝った。
「なあ、緋凪。一つ聞いて良いか?」
「何?」
「闇の帝王の奴隷になるつもりなのか?」
俺は、さっきのことが気になり緋凪に聞いてみた。
「だって、そうしないと、希望が殺されるから。希望がどこか遠くに行くって」
「どこかに行くって、俺は緋凪の側にずっと居るつもりだ。だから断れ。帝王の所なんか行くな。わかったか?」
「うん。そうする」
いくら逆らうことが出来ないとはいえ、それは大昔の話だ。今の闇の帝王にそんな力はないはず。そう自分に言い聞かせ、闇の帝王の命令を完全に無視した俺たち。
だけど帝王の忠告通り、俺は緋凪の側を離れる日はそう遠くはなかった。
* * *
いつものように、俺は夕飯の買い出しに行っていた。緋凪は家で俺の帰りを待っている。帰ろうとしていた所に数人の男たちが俺の前に現れた。
「お前は強いな。ぜひとも俺たちの仲間になってくれ」
「……」
どうせ俺と同じ種族からの勧誘だろうと思い、無視をしようとした、その時……。
ドカッ。
いきなり後ろから殴られて、俺は気を失った。目を覚ました俺は、辺りを見回した。目の前には俺を攫ったであろう、さっきの男たち。俺は身体を鎖で繋がれ、身動きはとれなかった。
「何のつもりだ?」
「お前を俺たちが買った。今からお前は俺たちの為に任務を遂行しろ」
「買った? 俺には帰る場所がある」
「残念だがお前の恋人も男に買われたぞ」
「なんだと!?」
一瞬で頭が真っ白になった。自分が誘拐され、緋凪まで……。緋凪は今、何をされているのだろう。心配で心配で自分の心が壊れそうになった。
「大丈夫だ。緋凪はもうすぐ十五になる。体をいくら痛め付けても構わん」
「ふざけるな! 俺はどうなろうと構わない。だが、人間のアイツに手を出すのは許さない!」
緋凪の体が壊される。他人に緋凪の体が……考えただけで緋凪を誘拐した奴等を殺したくなった。
「働け。働かないなら、働くような体にするまでだ」
身動きのとれない俺に、男たちは見たこともない注射を打ったり、薬を飲ませてきた。精神的にも壊れそうになり、緋凪のことすら考える余裕もなくなっていた。
それから毎日のように任務の日々だった。任務の内容、それは悪事を働いたり、時には罪もない人を殺したり。
俺の体と心は、もう限界だった。だけど、限界という前に元気になる注射と言って、男たちは毎日のように俺に注射を打ち続けた。
その頃、
「殴られても、泣かないとは強い女だな」
「殴りたいなら好きなだけ殴ればいい。希望に会えないなら汚れたっていい。人を殺した私は、とっくに醜い化け物よ!」
緋凪は、俺なんかよりもずっと強かった。どんなに体が傷付いても、心が壊れることはなかった。
俺に会えないなら、死んだ方がマシ。そう思っていたから何をされても許したのだろう。だけど、そんな俺は緋凪のように心は強くなくて任務をするたびに俺の体は弱っていった。
そして……、
「もう嫌だ。耐えきれない、壊れそうだ……」
そんな弱音を吐けるのも任務が終わって、一人になるときだけだ。任務が終わったから、アイツらに報告しないといけない。そしたら、また束縛される日々。
「誰でも良い。俺をこの絶望から救ってくれ……」
俺は初めて、その場で涙を流した。そう、緋凪が消えてしまうのも忘れて……。
「なんだ!? 緋凪の体が灰になっていくぞ」
「希望。やっと、泣いてくれた。会えないなら、せめて泣いて居場所を教えて。良かった。これで全部終わる。次に生まれ変わったら特殊な家系とかじゃなくて、人間同士で生まれて、普通に恋がしたいね。その時にまたキスをして、前みたいに好きだって言って。希望、大好きだったよ。さようなら」
そして彼女は俺の知らない場所で、灰となって消えた。
俺は我に返った。自分が涙を流しているのに気付き、咄嗟に涙を拭った。だけど、もう手遅れだ。
「緋……凪……」
遠く離れていても、消えたのはわかった。何故なら、涙を流してしまったから。
「緋凪、緋凪……ごめん、ごめんな。俺のせいで消えて。なあ、緋凪。お前の病気、治ったか? 治ってないなら、治るまで俺が側にいる。側にいるから……だから返事をしてくれ緋凪。お前のためだったら何度壊れようと立ち上がる。次は、もっと強くなってみせる。だから姿を見せてくれ……。緋凪ー!!」
俺は空に向かって、緋凪の名を呼び続けた。自分のせいで、緋凪を失った。俺が緋凪を殺したんだ。俺は緋凪の為に生きていた。
二人の叶わない夢。ずっと側にいること。叶わなくなったな、緋凪。緋凪がいないこの世界なんて、俺は生きる意味もない。
自分の身体を見ると、足元が、両手が軽くなっていくのがわかった。
あぁ、俺にも時間が来てしまった。
「さようなら、緋凪。愛してる」
俺は何度もその言葉を呟いた。そして俺は灰となって、消えた。俺たちは十五歳という若さで、生涯を閉じた。
END
俺は彼女が寝るまで側にいた。彼女が寝たらすぐに両手を鎖で繋いだ。最初は虐待だと思い抵抗もあった。だが、彼女が自ら願ったことだから毎日のようにやった。そうしないと次の被害者が出てしまうから。
次第に彼女は俺に心を開いてくれるようになった。 感情も豊かになり、楽しい時には俺の前で笑ってくれた。俺は彼女の笑顔が好きだった。彼女が笑っているとき、彼女は本当に楽しそうだった。しかし夜になると、いつもの暗い表情に戻っていた。
「夜は嫌。暗いし、私は夜が大嫌い」
「仕方ないだろ? それに夜が来ないと朝もこない」
「そうだけど、でも……」
「病気が治ったら、ちゃんと寝れるんだ。それまでは我慢してくれ。それじゃあ鎖で繋ぐぞ」
「ちょっと待って」
「どうした?」
すると彼女は俺の手をギュッと握った。 男の俺と違って彼女の小さな手は不思議と惹かれるものがあった。優しくて、小さくて。でも、人を何人も殺してる。一日でも早く彼女の病気が治ってほしいと心から願った。
「ねえ、希望」
「?」
「私の手、どうかな? やっぱり汚いよね」
「汚くなんかない。むしろ綺麗だ。俺なんて大きいだけだし」
「そんなことない。大きい方が良いよ。男って感じがして、カッコいい」
「ありがとう。そんなこと言ってくれるのは、緋凪だけだよ」
「希望……」
彼女は静かに目をつむった。それは同時にキスをしてほしいという合図だ。
彼女と同居するようになって、一年が経とうとしていた。俺たちはお互いに名前で呼びあっていた。一緒に住むようになってから、友達以上になるのに、そう時間はかからなかった。
付き合っているわけだし、そろそろキスもして良い頃だ。俺はごくりと唾を飲み込んだ。そりゃあ彼女から求められているわけだし、ここでしなきゃ男じゃない気がする。
「緋凪」
「んっ」
俺は耳元で、彼女の名前を優しく呼んだ。そして、キスをした。初めてのキスだったけど、長い、とても深いキスをした。
お互いに愛し合っていた。好きで好きで堪らなかった。彼女を、緋凪を離したくない。その日は本当に幸せな夜だった。
* * *
翌日、目が覚めると彼女の姿は消えていた。
「緋凪?」
鎖も自分で解いたあとだった。やっぱり、何処かでまた……。俺は必死に彼女を探し回った。そして見つけた。が、誰かと話しているのが聞こえた。
「お前が俺様の奴隷になれば、お前の好きな人は無事だ。その代わりにお前は人を殺せ。そのくらい、出来るだろう? 夢遊病は無意識なのだから」
「はい。帝王様」
緋凪と会話をしている人物、それは闇の帝王だった。
闇の帝王。それは大昔、人間界をあと一歩のところまで滅亡させようとした人物。不老不死で強大な力を持つ彼の前では誰も逆らうことは出来ない。
見た目は20代前半に見えるほど若い。が、実年齢はかなりいってるはずだ。噂でしか聞いたことはなかったが実際に会ってみると、距離があるはずなのに威圧感と殺気で動くことすら出来ない。
緋凪を助けようと思った。だけど、闇の帝王を見た瞬間、恐怖のあまりその場から逃げてしまった。
好きな人一人を守る力もない、ただの無力な魔王の息子。人間界に来た悪魔は、魔力を使うことを制限されていた。それは第二の闇の帝王を出さないためだ。
俺は桜の下で悔やんでいた。そして、悲しさのあまり泣こうとした。すると、後ろから
「泣かないで!」
小さな体が、俺を後ろから抱きしめた。
「希望、泣かないで。お願い……だから。私の家系のこと、ちゃんと話すから」
緋凪はそう言って、自分の家系のことを語り出した。
「私の家系は互いに愛し合っている相手の為、自分の為に涙を流してはいけないの。涙を流したら、相手は灰となって死んでしまうの」
「は? 互いにって、俺は緋凪の家系じゃないぞ」
ただ、緋凪の言っているのが嘘ではないと言うのがわかった。俺はあることを思い出していた。それは緋凪の親が、緋凪が物心つく前に他界したという話。
「私の家系と恋をした者は自動的に家系の掟に従わないといけないようになっているの。今まで黙っていて、ごめんなさい」
緋凪は淡々と自分の家系について全てを話してくれた。きっと、嫌われてしまう覚悟で。だけど今時、特殊の家系なんてもの珍しくはない。人間界に天使や悪魔がはびこってる世界なんだ。こんな家系がいても、おかしくはない。
緋凪の話を聞いて多少驚きはしたが、それ以上に俺は緋凪のことを以前より愛おしく感じていた。
「わかった。また治さないとな。夢遊病もだけど、俺も簡単には泣かないようにする」
「……希望」
彼女は申し訳なさそうに、何度も俺に謝った。
「なあ、緋凪。一つ聞いて良いか?」
「何?」
「闇の帝王の奴隷になるつもりなのか?」
俺は、さっきのことが気になり緋凪に聞いてみた。
「だって、そうしないと、希望が殺されるから。希望がどこか遠くに行くって」
「どこかに行くって、俺は緋凪の側にずっと居るつもりだ。だから断れ。帝王の所なんか行くな。わかったか?」
「うん。そうする」
いくら逆らうことが出来ないとはいえ、それは大昔の話だ。今の闇の帝王にそんな力はないはず。そう自分に言い聞かせ、闇の帝王の命令を完全に無視した俺たち。
だけど帝王の忠告通り、俺は緋凪の側を離れる日はそう遠くはなかった。
* * *
いつものように、俺は夕飯の買い出しに行っていた。緋凪は家で俺の帰りを待っている。帰ろうとしていた所に数人の男たちが俺の前に現れた。
「お前は強いな。ぜひとも俺たちの仲間になってくれ」
「……」
どうせ俺と同じ種族からの勧誘だろうと思い、無視をしようとした、その時……。
ドカッ。
いきなり後ろから殴られて、俺は気を失った。目を覚ました俺は、辺りを見回した。目の前には俺を攫ったであろう、さっきの男たち。俺は身体を鎖で繋がれ、身動きはとれなかった。
「何のつもりだ?」
「お前を俺たちが買った。今からお前は俺たちの為に任務を遂行しろ」
「買った? 俺には帰る場所がある」
「残念だがお前の恋人も男に買われたぞ」
「なんだと!?」
一瞬で頭が真っ白になった。自分が誘拐され、緋凪まで……。緋凪は今、何をされているのだろう。心配で心配で自分の心が壊れそうになった。
「大丈夫だ。緋凪はもうすぐ十五になる。体をいくら痛め付けても構わん」
「ふざけるな! 俺はどうなろうと構わない。だが、人間のアイツに手を出すのは許さない!」
緋凪の体が壊される。他人に緋凪の体が……考えただけで緋凪を誘拐した奴等を殺したくなった。
「働け。働かないなら、働くような体にするまでだ」
身動きのとれない俺に、男たちは見たこともない注射を打ったり、薬を飲ませてきた。精神的にも壊れそうになり、緋凪のことすら考える余裕もなくなっていた。
それから毎日のように任務の日々だった。任務の内容、それは悪事を働いたり、時には罪もない人を殺したり。
俺の体と心は、もう限界だった。だけど、限界という前に元気になる注射と言って、男たちは毎日のように俺に注射を打ち続けた。
その頃、
「殴られても、泣かないとは強い女だな」
「殴りたいなら好きなだけ殴ればいい。希望に会えないなら汚れたっていい。人を殺した私は、とっくに醜い化け物よ!」
緋凪は、俺なんかよりもずっと強かった。どんなに体が傷付いても、心が壊れることはなかった。
俺に会えないなら、死んだ方がマシ。そう思っていたから何をされても許したのだろう。だけど、そんな俺は緋凪のように心は強くなくて任務をするたびに俺の体は弱っていった。
そして……、
「もう嫌だ。耐えきれない、壊れそうだ……」
そんな弱音を吐けるのも任務が終わって、一人になるときだけだ。任務が終わったから、アイツらに報告しないといけない。そしたら、また束縛される日々。
「誰でも良い。俺をこの絶望から救ってくれ……」
俺は初めて、その場で涙を流した。そう、緋凪が消えてしまうのも忘れて……。
「なんだ!? 緋凪の体が灰になっていくぞ」
「希望。やっと、泣いてくれた。会えないなら、せめて泣いて居場所を教えて。良かった。これで全部終わる。次に生まれ変わったら特殊な家系とかじゃなくて、人間同士で生まれて、普通に恋がしたいね。その時にまたキスをして、前みたいに好きだって言って。希望、大好きだったよ。さようなら」
そして彼女は俺の知らない場所で、灰となって消えた。
俺は我に返った。自分が涙を流しているのに気付き、咄嗟に涙を拭った。だけど、もう手遅れだ。
「緋……凪……」
遠く離れていても、消えたのはわかった。何故なら、涙を流してしまったから。
「緋凪、緋凪……ごめん、ごめんな。俺のせいで消えて。なあ、緋凪。お前の病気、治ったか? 治ってないなら、治るまで俺が側にいる。側にいるから……だから返事をしてくれ緋凪。お前のためだったら何度壊れようと立ち上がる。次は、もっと強くなってみせる。だから姿を見せてくれ……。緋凪ー!!」
俺は空に向かって、緋凪の名を呼び続けた。自分のせいで、緋凪を失った。俺が緋凪を殺したんだ。俺は緋凪の為に生きていた。
二人の叶わない夢。ずっと側にいること。叶わなくなったな、緋凪。緋凪がいないこの世界なんて、俺は生きる意味もない。
自分の身体を見ると、足元が、両手が軽くなっていくのがわかった。
あぁ、俺にも時間が来てしまった。
「さようなら、緋凪。愛してる」
俺は何度もその言葉を呟いた。そして俺は灰となって、消えた。俺たちは十五歳という若さで、生涯を閉じた。
END