私は泣くことが出来ない。たとえ、どんなに辛いことがあったとしても。苦しくて、痛くて、耐え切れないことが起きたとしても、私は泣けない。
☆ ☆ ☆
俺は泣くことが出来ない。それは愛する人を守るため。人間は涙を流すことで強くなれる。そんな迷信を、どこかで聞いたことがある。だったら俺は泣かないことで、お前を守れる“魔王”にだってなってやる。
お前を暗闇から救ってやれる光にだってなれる。だけど、その夢は永遠に叶うことはなかった。俺は今でも後悔している。愛する人を、お前を自分の手で殺したことを。
☆ ☆ ☆
「今度、この掟を追加してくれないかな?」
「承知しました。ザンゲツ様」
(また、やってる)
俺の名前はヒョウガミ キボウ。ヒョウガミ家は昔から魔王の家系。
俺は次男で魔王候補に名前は上がることはなく、親父が死んでからはすぐに俺の兄であるザンゲツが当然のように魔王になった。
昔から、ひねくれていた兄は魔王になってからは、やりたい放題。勝手に掟を変えたり、自分が必要ないと判断した掟は即効で消したりと、自由気まま過ぎる性格。そんな兄を隣で見てきた俺は案の定、悪いガキに育った。
「うぜぇ」
その一言で、任務も会議もほったらかし。
この世の全てがウザいと思うようになった。別にそんなに仲の良い友達がいるわけでも、好きな人もいない。いないというか逆に恐れられている。
ただ、負けず嫌いな性格だけは変えられず、努力することだけは諦めなかった。だけど、どんなに努力しても兄に勝つことは出来なかった。
兄は魔王になる前から人望もあったし、魔力だって強かった。それに比べ、俺の魔力はそこらへんの悪魔たちと同等だった。
何をやっても天才の兄には敵わない。でも、それ以上に兄を追い越したかった。誰でもいいから俺を認めてほしかった。魔王候補に名前も上がらないし、皆が見ているのは魔王のザンゲツだけ。
いつからか俺は、“兄に勝てなくて悔しいよりも”、“兄に勝って認めてもらいたい”と思うようになっていった。だが、兄との差は開くばかりで、正直諦めかけた。
そんなとき、ある一つの依頼が来た。
依頼の内容は、“人間の少女を外に連れ出してほしい”というものだった。聞いた時はイマイチ理解が出来なかった。
俺と同じ十四歳と聞いて、学校にも行っているはずなのに、どうして外に出れないのかと疑問に思った。俺は何故か出会ってもない少女のことが気になり、依頼を引き受けることにした。俺は人間界へと足を運び、少女と出会った。
「初めまして氷神希望です。貴女を外に出せと依頼があったので」
俺は自分の名前を不自然じゃないように、漢字に変え名前を名乗った。外国でもないのに全てがカタカナなんて不思議がられるからな。
「外に出てなんになるんですか? 外に出ても何にもならないなら、引きこもってた方がずっといい」
彼女の名は暁崎 緋凪 (あきさき ひなぎ)というらしい。暁崎の一人娘で、お金持ちのお嬢様。
金銭面では、何不自由なく暮らしているが、物心ついた時には両親は他界していたらしい。そのためメイドたちが面倒を見ているそうだが、生まれてから一度も感情を豊かにしたことがなく、学校にも足を運んだことがないらしい。
「外に出て、何になるとか関係ない。だから早く出てくれないか? 俺はウザい女は嫌いなんだ」
彼女の手を無理矢理引っ張り、外に出そうとした。だが彼女の体は思ったよりも痩せていて、ちゃんと食べてるのか? と思うほどだった。
「いやっ……触らないで! ウザいなら早く出て行って! 依頼だか何だか知らないけどこれ以上、私に関わらないで!」
彼女は力もないくせに、俺の手を振り払おうとした。
「俺は男だぞ! 力で勝てないくせに抵抗するな!」
「そんなの、わかってる。力で勝てないことくらい、最初から……」
彼女は、今にも泣きそうだったが必死に涙を堪えていた。
「泣いたらどうだ? 本当は外が怖いんだって。素直に言えよ。理由を言えば無理に外に出したりしねぇよ」
俺は彼女の頭にゆっくりと手を乗せて、優しく頭を撫でた。
「泣きません。何があっても泣いたらいけない」
その言葉には力がこもっていて、その言葉を言っている彼女の目は死んでいた。
「それはお嬢様だからか?」
「上から目線の神様に言われたくありません」
「あ? 何だと? つーか、俺は神様じゃねぇよ。俺は魔王候補にも名が上がらなかったくらいだぜ」
「どうして?」
彼女は、きょとんとした顔で聞いてきた。
今の時代、天使や悪魔などといった架空の存在は人間界で普通に暮らしていた。だから、俺の正体がバレたところで別に構わなかったのだ。
「兄弟がいたら、長男が魔王になるのは当たり前だろう? 才能だって兄の方が上だし。いくら努力したところで現状は変わらない。弟の俺が今更何を言ったって無駄だ」
俺は兄に勝つために努力をしていた。でも、いつからか諦めてしまって。俺はいつ諦めてしまったのか。もう、そんなことを思い出すのも面倒だな。
「関係ありませんよ。才能なんて努力したら、いつかは発揮されます。天才は確かに生まれ持った才能ですけど、最後まで諦めないで努力したら叶いますよ。その夢」
出会ったばかりというのに、彼女は俺を元気付けてくれた。
俺が途中で投げ出した夢を笑わずに聞いて、そのあとに、最後まで諦めるなと言ってくれた。俺は、そう言われるのをずっと待っていたのかも知れない。自分の存在や性格をちゃんと見て、認めてくれる人を。
まあ、そんなことも素直に言えない俺は、
「変わってるな。つーか、外に出れないくせに他人に言えた義理かよ。なら、外に出てみろよ」
現実の俺は心で思っているのは裏腹に、冷たい態度をとっていた。
「うっ。た、確かにそうですね」
そう言うと、彼女はいきなり服を脱ぎ、制服に着替えた。
「頑張って外に出てみます。そしたら説得力ありますよね? ねっ?」
彼女の足は震えていた。だけど、自分に“大丈夫だよ”と言い聞かせドアを開けた。
彼女が外を見て、最初に口にした言葉。それは……。
「太陽って、こんなに眩しいんですね。まるで貴方みたい」
「俺が太陽? そんなわけないだろ。俺は夜みたいに真っ暗だ」
それだけは認めたくなかった。自分が太陽みたいに眩しいなんて絶対にあり得ない。彼女は俺に同情してる。そう思った。
「でも、貴方の名前。太陽みたい」
「これは親がつけただけで……」
「じゃあ、貴方の親は太陽みたいに、誰かの光になってほしいって気持ちを込めて、名前をつけたんだと思います」
彼女は自信満々にそう答えた。
確かに俺の名前は、キボウ。でも、それは単に親が勝手につけただけで、それ以外に意味はない。
「どうしてだよ」
彼女の言葉一つ一つが真実のようで、そっちのほうが良いと思う自分がいて。そういう考えをする自分を信じたくも、認めたくもなかった。
「え?」
「やっぱり人間って意味わかんねぇ。特にお前は他の奴とは違う。真実なわけないだろ? 天才には何十年、何百年経とうと敵わないんだよ。勝てるはずがない。レベルが違いすぎる」
「でも、私は外に出れました。頑張れば、きっと……いいえ、絶対願いは叶います」
「外に出れた? はっ、笑わせるなよ。そのくらい誰でも出来る。お前に俺の何がわかる? 兄弟もいない。両親もいない。比べられたことがない奴が俺の気持ちなんか理解出来るわけないだろ」
言いたいことを、言い放った。ムカついて何もかも嫌になった。きっと図星をつかれたからなんだろう。だから、こんなにもイライラしているんだ。そんな時だった。
「化け物!」
「病気の子がいるわ」
「知らない内に人を殺すんですって」
「それって病気じゃない? なんで、そんな化け物が外に出てるわけ? 空気が汚れるじゃない」
「……」
彼女の体は震えていた。化け物とは彼女のことだろうか。だけど病気ってなんのことだ?
「空気が汚れる。あ、そっか。私は生きていたら駄目なんだった。そう、だよね」
彼女は自己暗示をしているのか、その場でぶつぶつと何かを言って、部屋に戻った。俺はその後を追いかけた。すると彼女は、いきなり台所から包丁を持ち出してきて、自分を切りつけようとした。
「!? やめろ!」
俺は咄嗟に彼女の両手を握った。包丁は彼女の手から離れ、床に落ちる。
「なん、でっ……」
「それはこっちが聞きたい。いきなり、どうしたんだ。それにお前は人間だろ?」
「私は寝ている間に人を何人も殺すの」
彼女は自分のことを語り始めた。
「この病は夢遊病っていうの。世間的には病気とされている。でも、私のは治らない酷い病気。今まで人を何人も殺してきた。
希望君にとっても汚れの対象だよね? いいよ、殺しても。生きる価値はないから。……ごめんなさい。努力したら願いは叶うとか言ってたけど、私がそれを実行しないと説得力はないよね。でも、無理なの」
夢遊病。それは無意識に、正確には自分が寝ている間に何かをしてしまう。例えば、料理や洗濯といった家事全般。歩き回ったり外に出たり。でも、彼女の夢遊病は人を殺すまでいくらしい。病気の中でも重症に匹敵するくらい。
この世の中は既に腐りきっていて、殺人も珍しいことではなかった。大量の犯罪者が増える中、警察はそれに対処するのに必死で、一人一人の調査をする暇などなかった。
だから依頼が来たんだ。外に出るのが恐怖で、人と関わりを持たない少女。でも、引き受けた依頼は最後までやり遂げないといけない。
「治すよ。その夢遊病を」
「え?」
「俺がお前の病気を治す。だからお前も努力してくれ。二人でやれば出来る。絶対に」
「いいの? 私の病は重症で、もしかしたら希望君を殺すかも知れないんだよ?」
「死なないよ。俺は何があっても絶対に死なない。魔王の弟だしな。だからお前も頑張れよ」
「うん。頑張る」
こうして、彼女の夢遊病を治す日々が始まった。
☆ ☆ ☆
俺は泣くことが出来ない。それは愛する人を守るため。人間は涙を流すことで強くなれる。そんな迷信を、どこかで聞いたことがある。だったら俺は泣かないことで、お前を守れる“魔王”にだってなってやる。
お前を暗闇から救ってやれる光にだってなれる。だけど、その夢は永遠に叶うことはなかった。俺は今でも後悔している。愛する人を、お前を自分の手で殺したことを。
☆ ☆ ☆
「今度、この掟を追加してくれないかな?」
「承知しました。ザンゲツ様」
(また、やってる)
俺の名前はヒョウガミ キボウ。ヒョウガミ家は昔から魔王の家系。
俺は次男で魔王候補に名前は上がることはなく、親父が死んでからはすぐに俺の兄であるザンゲツが当然のように魔王になった。
昔から、ひねくれていた兄は魔王になってからは、やりたい放題。勝手に掟を変えたり、自分が必要ないと判断した掟は即効で消したりと、自由気まま過ぎる性格。そんな兄を隣で見てきた俺は案の定、悪いガキに育った。
「うぜぇ」
その一言で、任務も会議もほったらかし。
この世の全てがウザいと思うようになった。別にそんなに仲の良い友達がいるわけでも、好きな人もいない。いないというか逆に恐れられている。
ただ、負けず嫌いな性格だけは変えられず、努力することだけは諦めなかった。だけど、どんなに努力しても兄に勝つことは出来なかった。
兄は魔王になる前から人望もあったし、魔力だって強かった。それに比べ、俺の魔力はそこらへんの悪魔たちと同等だった。
何をやっても天才の兄には敵わない。でも、それ以上に兄を追い越したかった。誰でもいいから俺を認めてほしかった。魔王候補に名前も上がらないし、皆が見ているのは魔王のザンゲツだけ。
いつからか俺は、“兄に勝てなくて悔しいよりも”、“兄に勝って認めてもらいたい”と思うようになっていった。だが、兄との差は開くばかりで、正直諦めかけた。
そんなとき、ある一つの依頼が来た。
依頼の内容は、“人間の少女を外に連れ出してほしい”というものだった。聞いた時はイマイチ理解が出来なかった。
俺と同じ十四歳と聞いて、学校にも行っているはずなのに、どうして外に出れないのかと疑問に思った。俺は何故か出会ってもない少女のことが気になり、依頼を引き受けることにした。俺は人間界へと足を運び、少女と出会った。
「初めまして氷神希望です。貴女を外に出せと依頼があったので」
俺は自分の名前を不自然じゃないように、漢字に変え名前を名乗った。外国でもないのに全てがカタカナなんて不思議がられるからな。
「外に出てなんになるんですか? 外に出ても何にもならないなら、引きこもってた方がずっといい」
彼女の名は暁崎 緋凪 (あきさき ひなぎ)というらしい。暁崎の一人娘で、お金持ちのお嬢様。
金銭面では、何不自由なく暮らしているが、物心ついた時には両親は他界していたらしい。そのためメイドたちが面倒を見ているそうだが、生まれてから一度も感情を豊かにしたことがなく、学校にも足を運んだことがないらしい。
「外に出て、何になるとか関係ない。だから早く出てくれないか? 俺はウザい女は嫌いなんだ」
彼女の手を無理矢理引っ張り、外に出そうとした。だが彼女の体は思ったよりも痩せていて、ちゃんと食べてるのか? と思うほどだった。
「いやっ……触らないで! ウザいなら早く出て行って! 依頼だか何だか知らないけどこれ以上、私に関わらないで!」
彼女は力もないくせに、俺の手を振り払おうとした。
「俺は男だぞ! 力で勝てないくせに抵抗するな!」
「そんなの、わかってる。力で勝てないことくらい、最初から……」
彼女は、今にも泣きそうだったが必死に涙を堪えていた。
「泣いたらどうだ? 本当は外が怖いんだって。素直に言えよ。理由を言えば無理に外に出したりしねぇよ」
俺は彼女の頭にゆっくりと手を乗せて、優しく頭を撫でた。
「泣きません。何があっても泣いたらいけない」
その言葉には力がこもっていて、その言葉を言っている彼女の目は死んでいた。
「それはお嬢様だからか?」
「上から目線の神様に言われたくありません」
「あ? 何だと? つーか、俺は神様じゃねぇよ。俺は魔王候補にも名が上がらなかったくらいだぜ」
「どうして?」
彼女は、きょとんとした顔で聞いてきた。
今の時代、天使や悪魔などといった架空の存在は人間界で普通に暮らしていた。だから、俺の正体がバレたところで別に構わなかったのだ。
「兄弟がいたら、長男が魔王になるのは当たり前だろう? 才能だって兄の方が上だし。いくら努力したところで現状は変わらない。弟の俺が今更何を言ったって無駄だ」
俺は兄に勝つために努力をしていた。でも、いつからか諦めてしまって。俺はいつ諦めてしまったのか。もう、そんなことを思い出すのも面倒だな。
「関係ありませんよ。才能なんて努力したら、いつかは発揮されます。天才は確かに生まれ持った才能ですけど、最後まで諦めないで努力したら叶いますよ。その夢」
出会ったばかりというのに、彼女は俺を元気付けてくれた。
俺が途中で投げ出した夢を笑わずに聞いて、そのあとに、最後まで諦めるなと言ってくれた。俺は、そう言われるのをずっと待っていたのかも知れない。自分の存在や性格をちゃんと見て、認めてくれる人を。
まあ、そんなことも素直に言えない俺は、
「変わってるな。つーか、外に出れないくせに他人に言えた義理かよ。なら、外に出てみろよ」
現実の俺は心で思っているのは裏腹に、冷たい態度をとっていた。
「うっ。た、確かにそうですね」
そう言うと、彼女はいきなり服を脱ぎ、制服に着替えた。
「頑張って外に出てみます。そしたら説得力ありますよね? ねっ?」
彼女の足は震えていた。だけど、自分に“大丈夫だよ”と言い聞かせドアを開けた。
彼女が外を見て、最初に口にした言葉。それは……。
「太陽って、こんなに眩しいんですね。まるで貴方みたい」
「俺が太陽? そんなわけないだろ。俺は夜みたいに真っ暗だ」
それだけは認めたくなかった。自分が太陽みたいに眩しいなんて絶対にあり得ない。彼女は俺に同情してる。そう思った。
「でも、貴方の名前。太陽みたい」
「これは親がつけただけで……」
「じゃあ、貴方の親は太陽みたいに、誰かの光になってほしいって気持ちを込めて、名前をつけたんだと思います」
彼女は自信満々にそう答えた。
確かに俺の名前は、キボウ。でも、それは単に親が勝手につけただけで、それ以外に意味はない。
「どうしてだよ」
彼女の言葉一つ一つが真実のようで、そっちのほうが良いと思う自分がいて。そういう考えをする自分を信じたくも、認めたくもなかった。
「え?」
「やっぱり人間って意味わかんねぇ。特にお前は他の奴とは違う。真実なわけないだろ? 天才には何十年、何百年経とうと敵わないんだよ。勝てるはずがない。レベルが違いすぎる」
「でも、私は外に出れました。頑張れば、きっと……いいえ、絶対願いは叶います」
「外に出れた? はっ、笑わせるなよ。そのくらい誰でも出来る。お前に俺の何がわかる? 兄弟もいない。両親もいない。比べられたことがない奴が俺の気持ちなんか理解出来るわけないだろ」
言いたいことを、言い放った。ムカついて何もかも嫌になった。きっと図星をつかれたからなんだろう。だから、こんなにもイライラしているんだ。そんな時だった。
「化け物!」
「病気の子がいるわ」
「知らない内に人を殺すんですって」
「それって病気じゃない? なんで、そんな化け物が外に出てるわけ? 空気が汚れるじゃない」
「……」
彼女の体は震えていた。化け物とは彼女のことだろうか。だけど病気ってなんのことだ?
「空気が汚れる。あ、そっか。私は生きていたら駄目なんだった。そう、だよね」
彼女は自己暗示をしているのか、その場でぶつぶつと何かを言って、部屋に戻った。俺はその後を追いかけた。すると彼女は、いきなり台所から包丁を持ち出してきて、自分を切りつけようとした。
「!? やめろ!」
俺は咄嗟に彼女の両手を握った。包丁は彼女の手から離れ、床に落ちる。
「なん、でっ……」
「それはこっちが聞きたい。いきなり、どうしたんだ。それにお前は人間だろ?」
「私は寝ている間に人を何人も殺すの」
彼女は自分のことを語り始めた。
「この病は夢遊病っていうの。世間的には病気とされている。でも、私のは治らない酷い病気。今まで人を何人も殺してきた。
希望君にとっても汚れの対象だよね? いいよ、殺しても。生きる価値はないから。……ごめんなさい。努力したら願いは叶うとか言ってたけど、私がそれを実行しないと説得力はないよね。でも、無理なの」
夢遊病。それは無意識に、正確には自分が寝ている間に何かをしてしまう。例えば、料理や洗濯といった家事全般。歩き回ったり外に出たり。でも、彼女の夢遊病は人を殺すまでいくらしい。病気の中でも重症に匹敵するくらい。
この世の中は既に腐りきっていて、殺人も珍しいことではなかった。大量の犯罪者が増える中、警察はそれに対処するのに必死で、一人一人の調査をする暇などなかった。
だから依頼が来たんだ。外に出るのが恐怖で、人と関わりを持たない少女。でも、引き受けた依頼は最後までやり遂げないといけない。
「治すよ。その夢遊病を」
「え?」
「俺がお前の病気を治す。だからお前も努力してくれ。二人でやれば出来る。絶対に」
「いいの? 私の病は重症で、もしかしたら希望君を殺すかも知れないんだよ?」
「死なないよ。俺は何があっても絶対に死なない。魔王の弟だしな。だからお前も頑張れよ」
「うん。頑張る」
こうして、彼女の夢遊病を治す日々が始まった。