光が止む気配を感じて、再びゆっくりと瞼を開く。
視界には見慣れた木目の天井。
そして身体の上に中綿が減った布団が掛かっていることから自分は寝ていたのだと思い出す。
そして視線を障子に移すと外が徐々に明るみを増しており、今は朝であると理解した。
(またあの夢……)
上半身をそっと起こすと、先ほどの出来事を思い返す。
お世辞にも丁寧に手入れされているとは言えない黒髪にほっそりとした身体、そして両手には多くのあかぎれがある少女、澄宮那美には何年も前から見るようになった夢がある。
それは不思議な青年、綺世と逢う夢。
ただ彼は名を名乗るだけで、歳はいくつなのか何処に住んでいるのかなどは何も話さない。
出逢ったときから綺世はよく知らないはずの那美のことを案じてくれている。
那美自身も不思議に思っていたが、これは味方がほしいという願いが反映された都合の良い夢なのだと深くは考えていなかった。
那美の家、澄宮家は由緒正しい巫女の家系。
古来よりこの国は瘴気漂う場所に幽鬼の類いが稀に現れる。
幽鬼を浄化し大地に安寧を与えられるのは天界に住まう龍のみ。
遙か昔、ある一人の巫女が龍に祈りを捧げたのが始まりとされている。
巫女が宿す力は龍の霊力を高めるもので家系に生まれた女の子なら物心がつく頃に目覚めるのが普通。
しかし那美は高校生になった今でもその兆しは無かった。
そのせいで家族からも虐げられており、使用人のような扱いだ。
いや、それ以下かもしれない。
澄宮家は他の家と比べて絶大な権力を誇っていて数十名の使用人も働いている。
しかし那美は誰よりも早く起きて食事の準備をし、庭掃除等を済ませなくてはいけないのだ。
一つでも怠ると、継母に手を出されてしまう。
実母の雪葉は那美が幼い頃に病気で亡くなり、間もなくして継母がやって来た。
元々、父と母は政略結婚で愛は無かった。
父は雪葉が亡くなっても悲しむことはなく、すぐに恋人をつくった。
それが雪葉の妹、葉月だ。
那美には双子の姉がいるが、大人しい那美とは正反対の性格で愛嬌があり、要領も良い。
そして巫女の力も目覚めており、すぐに継母と打ち解けた。
無能で地味な那美は彼らにとって邪魔な存在らしい。
『澄宮家の恥』『いらない子』
数々の浴びせられた言葉が鮮明に焼き付き脳内で響き渡る。
せっかく綺世と逢えて心が軽くなったのにつらい現実に引き戻される。
ふと枕元に置いていた時計を見ると針は起床時刻を指していることに気がついた。
(いけない。そろそろ起きないと)
那美は布団から出て、寝具を押し入れに片付ける。
そして通っている高校の制服に着替え、エプロンを身につけると台所へ向かうのだった。
視界には見慣れた木目の天井。
そして身体の上に中綿が減った布団が掛かっていることから自分は寝ていたのだと思い出す。
そして視線を障子に移すと外が徐々に明るみを増しており、今は朝であると理解した。
(またあの夢……)
上半身をそっと起こすと、先ほどの出来事を思い返す。
お世辞にも丁寧に手入れされているとは言えない黒髪にほっそりとした身体、そして両手には多くのあかぎれがある少女、澄宮那美には何年も前から見るようになった夢がある。
それは不思議な青年、綺世と逢う夢。
ただ彼は名を名乗るだけで、歳はいくつなのか何処に住んでいるのかなどは何も話さない。
出逢ったときから綺世はよく知らないはずの那美のことを案じてくれている。
那美自身も不思議に思っていたが、これは味方がほしいという願いが反映された都合の良い夢なのだと深くは考えていなかった。
那美の家、澄宮家は由緒正しい巫女の家系。
古来よりこの国は瘴気漂う場所に幽鬼の類いが稀に現れる。
幽鬼を浄化し大地に安寧を与えられるのは天界に住まう龍のみ。
遙か昔、ある一人の巫女が龍に祈りを捧げたのが始まりとされている。
巫女が宿す力は龍の霊力を高めるもので家系に生まれた女の子なら物心がつく頃に目覚めるのが普通。
しかし那美は高校生になった今でもその兆しは無かった。
そのせいで家族からも虐げられており、使用人のような扱いだ。
いや、それ以下かもしれない。
澄宮家は他の家と比べて絶大な権力を誇っていて数十名の使用人も働いている。
しかし那美は誰よりも早く起きて食事の準備をし、庭掃除等を済ませなくてはいけないのだ。
一つでも怠ると、継母に手を出されてしまう。
実母の雪葉は那美が幼い頃に病気で亡くなり、間もなくして継母がやって来た。
元々、父と母は政略結婚で愛は無かった。
父は雪葉が亡くなっても悲しむことはなく、すぐに恋人をつくった。
それが雪葉の妹、葉月だ。
那美には双子の姉がいるが、大人しい那美とは正反対の性格で愛嬌があり、要領も良い。
そして巫女の力も目覚めており、すぐに継母と打ち解けた。
無能で地味な那美は彼らにとって邪魔な存在らしい。
『澄宮家の恥』『いらない子』
数々の浴びせられた言葉が鮮明に焼き付き脳内で響き渡る。
せっかく綺世と逢えて心が軽くなったのにつらい現実に引き戻される。
ふと枕元に置いていた時計を見ると針は起床時刻を指していることに気がついた。
(いけない。そろそろ起きないと)
那美は布団から出て、寝具を押し入れに片付ける。
そして通っている高校の制服に着替え、エプロンを身につけると台所へ向かうのだった。