「お邪魔しました…。勝手に上がってしまって…すみませんでした。もうきませんから…」


そう言って、そそくさとその場から立ち去ろうとした、――そのとき。


ぎゅっと、陸斗がわたしの手首をつかんだ。


「…もう少し、ここにいていいから」

「え…?」

「そんな顔で家に帰ったら、俺が泣かせたみたいだろ」


…陸斗。

わたしの記憶を失くしても、不器用だけどやさしいところは変わらない。


「…なんか、さっきは悪かった。突き返すようなことして」

「い…いえ」

「俺、全然思い出せないんだけど…。俺たちって、昔からの知り合いなの?」


陸斗がわたしの顔をのぞき込む。


「知り合い程度じゃないよ。わたしはキミのこと、なんでも知ってるよ」


すると、陸斗は純粋すぎるまなざしでわたしを見つめた。