すでに諦めていた…この命。

だけど、記憶と交換にわたしはまた病気をする前のもとの生活に戻ることができる。


「それなら、今すぐ――」


と言いかけて、わたしははっとして口をつぐんだ。


…待って。

よく考えてみたら、わたしの中からだれの記憶が消えるの?


一番大切に想っている人――。


お父さん?

お母さん?

それとも…ペットのムギ?


「いるだろ。この間まで付き合ってたやつが」


退屈そうに頬杖をつく死神の言葉に、わたしはある人物の顔が頭の中に浮かんだ。


…陸斗だ。


わたしが命を延ばすかわりに、陸斗の記憶が消える。


幼い頃からずっといっしょに遊んでいた記憶も。

陸斗のことを初めて好きと自覚した記憶も。

陸斗に告白されて付き合うことになった記憶も。


これまでの陸斗に関するすべての記憶が…消えてしまう。