「…え?本当…?」

「嘘ついてどうすんだよ」

「それは…そうだけど」

「でも、もちろんタダじゃねぇよ。“契約”っていうんだから、命を延ばすかわりに“あるもの”を差し出してもらう」


やはり、そんなうまい話なんてあるわけがない。

わたしはごくりとつばを呑む。


「契約に必要な“あるもの”とは、――お前の記憶だ」

「…記憶?」

「ああ。記憶と言ってもなんでもいいわけじゃない。お前が一番大切に想っている人間の記憶をいただく。この記憶がまたとびきりうめぇんだよ」


なにを想像してか、舌なめずりをする死神。

どうやらこの死神は、命ではなく人の記憶を食べるようだ。


「わたしが一番大切に想っている人の記憶…。その記憶だけで、あとの記憶は取られないの…?」

「ああ。他の記憶に興味はねぇ。お前はその記憶さえオレに差し出せば、本来の寿命を全うするまで命を延ばしてやるよ」