「アルト。お前は人間を過去へと連れて行った。これは禁忌であることは知っていますね?」

「はい」

「雫。あなたは寿命でもないのに、その命を自ら捨てようとしましたね?」

「……はい」

「これは二つとも重大な罪に問われます。よって、あなた達の記憶消去を行います。最後に、あなた達に問いたい」

ゴクリ、と唾を飲み込んだ。きっと今から待っているのは悪いことなんだと覚悟を決めた。

「アルト。貴方は自らの命を犠牲にしてまで友を助けようとしましたね。……海の底が危険だということは理解していましたか?」

「わかっていた。だけど親友が困っていたら、助けずにはいられない。それが本当の友ってもんだろ!? あの時、俺だって溺れて死ぬなんて思わなかったんだ」

アルトは再び涙を流す。それでも、神は眉一つ動かすことはなく、言葉を続けた。

「それでは、もし死ぬことがわかっていたら貴方は海に入りませんか?」

「それでも入る! 親友が助けを求めている。それだけでも助ける理由には十分だろ!? 何か他に文句があるか?」

神に対して、とても強気な発言をするアルトに、少しだけだが、神が驚いたようにも見えた。

「そうですか。アルト。貴方の処遇は決まりました。それでは、次に雫」

「はい」

神はアルトとの話が終わったのか、次は私との話だと言わんばかりにこちらに視線を送ってきた。

「雫。貴方に問います。兄が死んだ真実を知った今、貴方は自らの命を捨てることを選びますか?」

「いいえ。私は兄の分まで生きたいと思います。……きっと兄もそれを望んでいるから。」

「ですが、貴方はさきほど自分の帰る場所はないと言っていたでしょう?」

「帰る場所はたしかにありません。 私には両親も頼れる親戚もいません。だけど、自分の居場所は自分で作るものだと、お兄ちゃんとアルトを見てそれがわかりました。私もお兄ちゃんたちみたいに友達を作りたいと思います」

私はそう答え、微笑んだ。もう、ほかに言い残すことはない。

「そうですか。それでは、言い渡しましょう。貴方たちはーーー」

☆☆☆

「翼。朝よ、起きなさい。今日もバスケの朝練があるんでしょ?」

「そうだった! 行ってきます、母さん!」

「おはよう、翼君」

「あぁ、おはよ。有紗《ありさ》」

「今日もバスケの朝練頑張ってね!」

「ありがとな」

私たちは神から新しい身体を授かった。次こそは、自らの命を捨てることがないようにしよう。私たちは生きる。死んだ兄の分まで。

〜完〜