☆☆☆
◯月✕日、試合前日。
『翼。明日の試合、絶対勝とうな!』
『明日は妹も見に来るから絶対に勝たなきゃならないんだ』
「翼、お兄ちゃん……」
「雫。俺たちの姿はアイツ等には見えてないからな」
「うん」
『へぇ。お前、妹いるのか?』
『うん。雫っていうんだ。名前だけじゃなくて、とても綺麗で性格も繊細な子だよ』
『シスコン話、ごちそうさま』
『こっちこそ、聞いてくれてありがとう』
同じバスケ部の人と私の話をしているお兄ちゃん。とても楽しそう。この時は、お兄ちゃんも自分が死ぬなんて思ってもみなかっただろうな。
☆☆☆
◯月✕日 試合当日。
『あの“二人”は有力候補だからな。今のうちに潰しておかねぇと』
「あれって、お兄ちゃんたちが戦う相手チームよね?」
「ああ、そうみたいだな」
何故かわからないが、すごく嫌な予感がした。敵チームのキャプテンらしき人物はガタイも良く、お兄ちゃんたちの何倍も大きい。
『キャプテン。アイツ等、すんなり嘘に引っかかってくれました!』
『これで邪魔が入ることはありません!』
敵チームの人たち、何の話をしているの?
『まさか海に妹が落ちたっていう嘘に騙されるなんて、お人好しにもほどがあります』
『それだけじゃないっすよ。翼だけではなく、有人《あると》もその海に行ったんですから』
「ねぇ、アルト。これって」
「あ、あ……」
アルトのほうを見ると何かを言いたそうに、でも放心しているかのようにも見えた。
「アルト! どうしたの!?」
その場に倒れ込むアルトに私は驚き、アルトを抱きかかえた。
「雫。もう、見ちゃダ、メだ」
「え? どういうこと」
「これ以上見たら、お前が俺を嫌いに……うっ。頭が……頭がいたい!!」
「アルト!」
歪みはじめる。過去の世界が。これはきっとアルトが何かしらの力を使って保っているのだろう。だけど今の不安定なアルトじゃ、この世界を保つことはできない。
『まさか、試合前に亡くなるなんてね』
『有人《あると》君が溺れて、それを助けた翼君まで死んでしまうなんて』
「……え?」
「うわぁぁぁ!!!!」
アルトの雄叫びが響き渡る。そして、空間は消滅した。私たちは元いた場所へと返された。
「う、うぅ」
「アルト……」
真実は時に残酷なのであると、どこかで聞いたことがある。世の中には知らなくていいこともあると。
そう、私たちはこの真実を知ってはいけなかったのだと。後悔してもう遅い。
有人《あると》、それはアルトが人間だった時の名前。翼、それは私の唯一の肉親であり、大切で大好きだったお兄ちゃんの名前。二人は友達だったんだ。
だけど、敵チームに嘘をつかれ、私を助けに海に入ったが、最後、力尽きて溺れてしまう。
私は当日まで補習のことは先生から聞かされておらず、お兄ちゃんに補習のことを話すことは出来なかった。あの時、私がお兄ちゃんに一言でも補習のことを言えていたら、運命は違っていたのかもしれない。
アルトも泳げないのに海に入ったのではない。友達が必死に探していたから、自分も一緒に探そうと思ったのだろう。お兄ちゃんの友達なら、そう思うに違いない。
これが全ての真実。そして、兄が死んだ理由。
「雫。ごめんな、俺のせいで。俺が溺れさえしなければ翼は今頃……」
「ううん、謝らないで。アルトも私を必死に探してくれてたんでしょ? ごめんね、私も補習のこと言えなくて」
私たちは涙が止まらなかった。
自分自身を責めても意味がないことも、泣いてもお兄ちゃんが戻ってこないこともわかっていた。が、泣かずにはいられなかったのだ。
「アルト。私の命をあげるから、貴方を生き返らせることは出来ないの?」
「お前、何言って……」
「そこは翼を生き返らせるの間違いだろ」とアルトは怒った。だけど、私は首を横に振った。
「ムリよ。お兄ちゃんの身体は既にないもの。だけど、貴方はここにいるでしょ?」
「お前が罪を感じることはない! お前だけでも現世に帰れよ」
「私に帰る場所なんてない」
「アルト、雫。貴方たちに大事な話があります」
「「!?」」
私たちの前に現れたのは、白い翼が生えた女性だった。これはきっと、神なのだと私たちは確信した。
◯月✕日、試合前日。
『翼。明日の試合、絶対勝とうな!』
『明日は妹も見に来るから絶対に勝たなきゃならないんだ』
「翼、お兄ちゃん……」
「雫。俺たちの姿はアイツ等には見えてないからな」
「うん」
『へぇ。お前、妹いるのか?』
『うん。雫っていうんだ。名前だけじゃなくて、とても綺麗で性格も繊細な子だよ』
『シスコン話、ごちそうさま』
『こっちこそ、聞いてくれてありがとう』
同じバスケ部の人と私の話をしているお兄ちゃん。とても楽しそう。この時は、お兄ちゃんも自分が死ぬなんて思ってもみなかっただろうな。
☆☆☆
◯月✕日 試合当日。
『あの“二人”は有力候補だからな。今のうちに潰しておかねぇと』
「あれって、お兄ちゃんたちが戦う相手チームよね?」
「ああ、そうみたいだな」
何故かわからないが、すごく嫌な予感がした。敵チームのキャプテンらしき人物はガタイも良く、お兄ちゃんたちの何倍も大きい。
『キャプテン。アイツ等、すんなり嘘に引っかかってくれました!』
『これで邪魔が入ることはありません!』
敵チームの人たち、何の話をしているの?
『まさか海に妹が落ちたっていう嘘に騙されるなんて、お人好しにもほどがあります』
『それだけじゃないっすよ。翼だけではなく、有人《あると》もその海に行ったんですから』
「ねぇ、アルト。これって」
「あ、あ……」
アルトのほうを見ると何かを言いたそうに、でも放心しているかのようにも見えた。
「アルト! どうしたの!?」
その場に倒れ込むアルトに私は驚き、アルトを抱きかかえた。
「雫。もう、見ちゃダ、メだ」
「え? どういうこと」
「これ以上見たら、お前が俺を嫌いに……うっ。頭が……頭がいたい!!」
「アルト!」
歪みはじめる。過去の世界が。これはきっとアルトが何かしらの力を使って保っているのだろう。だけど今の不安定なアルトじゃ、この世界を保つことはできない。
『まさか、試合前に亡くなるなんてね』
『有人《あると》君が溺れて、それを助けた翼君まで死んでしまうなんて』
「……え?」
「うわぁぁぁ!!!!」
アルトの雄叫びが響き渡る。そして、空間は消滅した。私たちは元いた場所へと返された。
「う、うぅ」
「アルト……」
真実は時に残酷なのであると、どこかで聞いたことがある。世の中には知らなくていいこともあると。
そう、私たちはこの真実を知ってはいけなかったのだと。後悔してもう遅い。
有人《あると》、それはアルトが人間だった時の名前。翼、それは私の唯一の肉親であり、大切で大好きだったお兄ちゃんの名前。二人は友達だったんだ。
だけど、敵チームに嘘をつかれ、私を助けに海に入ったが、最後、力尽きて溺れてしまう。
私は当日まで補習のことは先生から聞かされておらず、お兄ちゃんに補習のことを話すことは出来なかった。あの時、私がお兄ちゃんに一言でも補習のことを言えていたら、運命は違っていたのかもしれない。
アルトも泳げないのに海に入ったのではない。友達が必死に探していたから、自分も一緒に探そうと思ったのだろう。お兄ちゃんの友達なら、そう思うに違いない。
これが全ての真実。そして、兄が死んだ理由。
「雫。ごめんな、俺のせいで。俺が溺れさえしなければ翼は今頃……」
「ううん、謝らないで。アルトも私を必死に探してくれてたんでしょ? ごめんね、私も補習のこと言えなくて」
私たちは涙が止まらなかった。
自分自身を責めても意味がないことも、泣いてもお兄ちゃんが戻ってこないこともわかっていた。が、泣かずにはいられなかったのだ。
「アルト。私の命をあげるから、貴方を生き返らせることは出来ないの?」
「お前、何言って……」
「そこは翼を生き返らせるの間違いだろ」とアルトは怒った。だけど、私は首を横に振った。
「ムリよ。お兄ちゃんの身体は既にないもの。だけど、貴方はここにいるでしょ?」
「お前が罪を感じることはない! お前だけでも現世に帰れよ」
「私に帰る場所なんてない」
「アルト、雫。貴方たちに大事な話があります」
「「!?」」
私たちの前に現れたのは、白い翼が生えた女性だった。これはきっと、神なのだと私たちは確信した。