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◯月✕日、試合前日。

『翼。明日の試合、絶対勝とうな!』

『明日は妹も見に来るから絶対に勝たなきゃならないんだ』

「翼、お兄ちゃん……」

「雫。俺たちの姿はアイツ等には見えてないからな」

「うん」

『へぇ。お前、妹いるのか?』

『うん。雫っていうんだ。名前だけじゃなくて、とても綺麗で性格も繊細な子だよ』

『シスコン話、ごちそうさま』

『こっちこそ、聞いてくれてありがとう』

同じバスケ部の人と私の話をしているお兄ちゃん。とても楽しそう。この時は、お兄ちゃんも自分が死ぬなんて思ってもみなかっただろうな。

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◯月✕日 試合当日。

『あの“二人”は有力候補だからな。今のうちに潰しておかねぇと』

「あれって、お兄ちゃんたちが戦う相手チームよね?」

「ああ、そうみたいだな」

何故かわからないが、すごく嫌な予感がした。敵チームのキャプテンらしき人物はガタイも良く、お兄ちゃんたちの何倍も大きい。

『キャプテン。アイツ等、すんなり嘘に引っかかってくれました!』

『これで邪魔が入ることはありません!』

敵チームの人たち、何の話をしているの?

『まさか海に妹が落ちたっていう嘘に騙されるなんて、お人好しにもほどがあります』

『それだけじゃないっすよ。翼だけではなく、有人《あると》もその海に行ったんですから』

「ねぇ、アルト。これって」

「あ、あ……」

アルトのほうを見ると何かを言いたそうに、でも放心しているかのようにも見えた。

「アルト! どうしたの!?」

その場に倒れ込むアルトに私は驚き、アルトを抱きかかえた。

「雫。もう、見ちゃダ、メだ」

「え? どういうこと」

「これ以上見たら、お前が俺を嫌いに……うっ。頭が……頭がいたい!!」

「アルト!」

歪みはじめる。過去の世界が。これはきっとアルトが何かしらの力を使って保っているのだろう。だけど今の不安定なアルトじゃ、この世界を保つことはできない。

『まさか、試合前に亡くなるなんてね』

『有人《あると》君が溺れて、それを助けた翼君まで死んでしまうなんて』

「……え?」

「うわぁぁぁ!!!!」

アルトの雄叫びが響き渡る。そして、空間は消滅した。私たちは元いた場所へと返された。

「う、うぅ」

「アルト……」

真実は時に残酷なのであると、どこかで聞いたことがある。世の中には知らなくていいこともあると。
そう、私たちはこの真実を知ってはいけなかったのだと。後悔してもう遅い。

有人《あると》、それはアルトが人間だった時の名前。翼、それは私の唯一の肉親であり、大切で大好きだったお兄ちゃんの名前。二人は友達だったんだ。
だけど、敵チームに嘘をつかれ、私を助けに海に入ったが、最後、力尽きて溺れてしまう。

私は当日まで補習のことは先生から聞かされておらず、お兄ちゃんに補習のことを話すことは出来なかった。あの時、私がお兄ちゃんに一言でも補習のことを言えていたら、運命は違っていたのかもしれない。

アルトも泳げないのに海に入ったのではない。友達が必死に探していたから、自分も一緒に探そうと思ったのだろう。お兄ちゃんの友達なら、そう思うに違いない。

これが全ての真実。そして、兄が死んだ理由。

「雫。ごめんな、俺のせいで。俺が溺れさえしなければ翼は今頃……」

「ううん、謝らないで。アルトも私を必死に探してくれてたんでしょ? ごめんね、私も補習のこと言えなくて」

私たちは涙が止まらなかった。

自分自身を責めても意味がないことも、泣いてもお兄ちゃんが戻ってこないこともわかっていた。が、泣かずにはいられなかったのだ。

「アルト。私の命をあげるから、貴方を生き返らせることは出来ないの?」

「お前、何言って……」

「そこは翼を生き返らせるの間違いだろ」とアルトは怒った。だけど、私は首を横に振った。

「ムリよ。お兄ちゃんの身体は既にないもの。だけど、貴方はここにいるでしょ?」

「お前が罪を感じることはない! お前だけでも現世に帰れよ」

「私に帰る場所なんてない」

「アルト、雫。貴方たちに大事な話があります」

「「!?」」

私たちの前に現れたのは、白い翼が生えた女性だった。これはきっと、神なのだと私たちは確信した。