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 月日が経つと、ヒロは私を始終連れ歩くようなことはなくなった。
 学校へ行き、帰ってくるとまた外へ遊びに出て、夜は大男としゃべりながら夕飯を食べる。一日の中で私に触れない日が着実に増えていった。
 それは、ヒロの中の寂しさが薄れたということなのだろう。
 私の力を借りなくてもいい。ひとりで行動し、ひとりで選択し、ひとりで自分の世界を作ることができる。その変化は私にとって喜ばしく、飼い主の成長を誇らしく思っていた。
 どこへ連れられることもなくなった私は、ヒロの部屋のタンスの上が定位置になった。
 私の横にはたくさんの仲間がいる。犬を模したもの。ネズミを模したもの。私が寂しくないようにと、ヒロが新たに連れてきてくれた仲間たちだ。

 ——この家の雰囲気はどうだい。
 ——人間は我々をぞんざいに扱うといううわさもあったけれど、この家はとても快適さ。

 彼らとはときどきコミュニケーションをとる。でも、たとえ話さなくても退屈ということはなかった。ヒロが部屋に戻ればヒロの様子を眺められたし、ヒロがいない時間は彼の生活を想像しながら過ごした。
 人間というものは私たちと違って、時間の経過により大きさが変わる。
 ヒロはいつのまにか、出会ったころの何倍も大きくなっていた。

「ヒロくん、これなに?」

 タンスの上の私に気づいた女の人が、私の顔を鷲掴みにした。
 ヒロは時折、女の人を家へ連れてくるようになっていた。

「あぁ……それは」
「わ、うしろにもたくさん。ヒロってこんな趣味あったんだー。ウケる!」
「……従姉妹にもらったんだよ。そういうのって、なんか捨てられないだろ」

 ヒロは事実と異なることを話す。理由はわからないけれど、今の彼にはそうすることが最善だったのだろう。
 女の人は私の頭をぺんぺんと叩くと、タンスの上に転がした。そしてヒロとテレビゲームをし、お菓子を食べ、散々騒いで帰っていった。
 ヒロは彼女と話している間は笑顔だったけれど、部屋に戻ってきたころには少し暗い表情をしていた。

「……ごめんね」

 ヒロが私の頭を撫でる。
 そして迷いながらも、私をそっと抱き、リビングへ連れていった。
 棚の上、部屋が見渡せる場所に座らせられる。ヒロは部屋を往復し、ほかの仲間たちも一緒に連れてきた。
 〝男の人がかわいいものを集めていると馬鹿にされることがある〟——テレビから流れてくる情報からヒロの行動理由を理解し、私は納得した。
 私の存在がヒロを窮地に追いやるのなら、私はヒロのそばにいなくていい。むしろクローゼットの奥深くにしまわれてもかまわないのだ。
 あれから彼女は数回家に来たけれど、いつからか姿を見せなくなった。