ヒロはそれから、どこへ行くにも私を連れていくようになった。
「ヒロ。汚れちゃうからポムは置いていったら?」
「やだ。連れていく」
ヒロが私を連れていってくれるのは好都合だった。これでいつでもヒロを守ることができる。ヒロが泣いたら、ヒロの涙を受け止めることができる。
それが私の役割なのだと、誰に教えられたわけでもなく私は理解していた。
これが人間のいう、〝本能〟いうやつなのかもしれない。
大男はヒロと私を乗せて車を走らせた。
大男は時折、ある夫婦のいる家へ私たちを連れていく。夫婦はふた組いて、必ず交互に訪れる決まりのようだった。
「あらぁ〜、いらっしゃい! ヒロくん、また大きくなってぇ」
家に着くと、年老いたおばさんが私たちを出迎えた。
おばさんのうしろには年老いたおじさんもいて、ふたりともいつも笑顔だった。
「ヒロ! 久しぶりだなぁ、何歳になったんだ?」
「よんさい……」
「ほら、ヒロ。前に来な」
ヒロは大男のうしろでもじもじしている。ヒロは基本人見知りで、久しぶりの人間と会うと恐怖を感じる。そういうときは必ず私を抱きしめている。
ヒロが怖がるから、寄ってたかってヒロに声をかけるのはやめてほしい。けれどおじさんとおばさんはいつもヒロを質問攻めにする。厄介な人間だ。
大男がおばさんたちをいなしつつ、家の中に入った。
大男とおばさんは台所へ、私とヒロとおじさんは居間へとわかれた。
「ショウジ、家のほうはどうなの? ケイコさんが亡くなってもう一年でしょう。もし散らかってるなら掃除しに行くけど」
「いいよ、俺もケイコもきれい好きだから今でもきれいだよ」
「そう? 荒れ果ててるのかと思ったわ」
大男とおばさんは台所でなにやら作業をしている。一方でヒロは、またおじさんに質問攻めにあっていた。
私はヒロに危害が及ばないよう、大男たちとおじさん、両方に聞き耳を立てていた。
「だってヒロったら、あんなに汚いクマを連れてるんだもの。生活が荒んだと思われてもしかたないわよ。新しいの買ってあげようか?」
背後からおばさんの視線を感じる。
たしかに私は、どこへでもヒロと出かけていたので少し毛がボサボサになっていた。
「母さん、そういう言い方はよしてくれ。ヒロの大切な友達なんだから」
「あぁ、そうなの。まぁそれならいいのだけど」
おばさんがお茶菓子の乗ったお盆を持ってくる。頭上から蔑むような視線が落ちてくる。でも、どんな目で見られようとも気にはならない。私には感情はないし、あったとしても私が興味があるのは飼い主だけだ。
私はともかく、この夫婦はヒロには一応やさしくしてくれるから、そのことは満足だった。
「ヒロ。汚れちゃうからポムは置いていったら?」
「やだ。連れていく」
ヒロが私を連れていってくれるのは好都合だった。これでいつでもヒロを守ることができる。ヒロが泣いたら、ヒロの涙を受け止めることができる。
それが私の役割なのだと、誰に教えられたわけでもなく私は理解していた。
これが人間のいう、〝本能〟いうやつなのかもしれない。
大男はヒロと私を乗せて車を走らせた。
大男は時折、ある夫婦のいる家へ私たちを連れていく。夫婦はふた組いて、必ず交互に訪れる決まりのようだった。
「あらぁ〜、いらっしゃい! ヒロくん、また大きくなってぇ」
家に着くと、年老いたおばさんが私たちを出迎えた。
おばさんのうしろには年老いたおじさんもいて、ふたりともいつも笑顔だった。
「ヒロ! 久しぶりだなぁ、何歳になったんだ?」
「よんさい……」
「ほら、ヒロ。前に来な」
ヒロは大男のうしろでもじもじしている。ヒロは基本人見知りで、久しぶりの人間と会うと恐怖を感じる。そういうときは必ず私を抱きしめている。
ヒロが怖がるから、寄ってたかってヒロに声をかけるのはやめてほしい。けれどおじさんとおばさんはいつもヒロを質問攻めにする。厄介な人間だ。
大男がおばさんたちをいなしつつ、家の中に入った。
大男とおばさんは台所へ、私とヒロとおじさんは居間へとわかれた。
「ショウジ、家のほうはどうなの? ケイコさんが亡くなってもう一年でしょう。もし散らかってるなら掃除しに行くけど」
「いいよ、俺もケイコもきれい好きだから今でもきれいだよ」
「そう? 荒れ果ててるのかと思ったわ」
大男とおばさんは台所でなにやら作業をしている。一方でヒロは、またおじさんに質問攻めにあっていた。
私はヒロに危害が及ばないよう、大男たちとおじさん、両方に聞き耳を立てていた。
「だってヒロったら、あんなに汚いクマを連れてるんだもの。生活が荒んだと思われてもしかたないわよ。新しいの買ってあげようか?」
背後からおばさんの視線を感じる。
たしかに私は、どこへでもヒロと出かけていたので少し毛がボサボサになっていた。
「母さん、そういう言い方はよしてくれ。ヒロの大切な友達なんだから」
「あぁ、そうなの。まぁそれならいいのだけど」
おばさんがお茶菓子の乗ったお盆を持ってくる。頭上から蔑むような視線が落ちてくる。でも、どんな目で見られようとも気にはならない。私には感情はないし、あったとしても私が興味があるのは飼い主だけだ。
私はともかく、この夫婦はヒロには一応やさしくしてくれるから、そのことは満足だった。