その裏にあるのは、辛辣な高坂先輩を見返してやりたいという反抗心です。
するとにきび様はひょうひょうとにきびの口を開きます。

「冷静になれ、川村殿。最初はだれもがシロウトじゃ。じゃが練習すればなんとでもなるわい。逃げればそれまでだがの」

にきび様がわたしのおでこで正論を吐いています。

「でも、明るい笑顔を振りまいて話すのが恥ずかしくて、気持ちがブレーキをかけてしまうんです」
「それならば、まずは人間の心を捨てるのじゃ。無心で餌を頬張る畜生になれ。そう、いっそのこと社畜になれば済む話だ」
「しゃ、社畜ですか!? そうおっしゃるにきび様は鬼畜ですか!?」
「ふむ、なかなかの鋭い切り返しだ。ちなみに『社畜』とは、かつて『企業戦士』と呼ばれた社会の英雄と同義でもある。そう考えると身を削って社会に貢献する立場も悪くなかろう?」
「企業戦士……なんだかかっこいい響きですね」

にきび様はにっと笑ったようです。なぜならおでこの皮膚が引っ張られたような感じがしたからです。

「いいか、自信とは己の確固たる努力の上に築き上げられるものだ。一朝一夕で得られるものではないぞ。だが、努力とは苦痛ではない。伝えたいことを伝える楽しさを知れば、魅力あるプレゼンなどお茶の子さいさいとなるであろう。これは宇宙の真理だ」
「……誰かに伝えることって壮大なドラマなんですね」

にきび様は拒絶を和らげたわたしに対して親身になってくれました。

「真摯な努力というものは、予想外の恩恵をもたらしてくれることもあるものじゃ。たどりつけばわかるじゃろう」

そしてわたしはひとつひとつ、他人に伝えるためのヒントをにきび様から得ていきます。

「実はわたし、真の面倒くさがり屋で、プレゼンのファイルを開くのも面倒なんです……」
「ならばプレゼンのファイルをファイルだと思うな。人生の新しい扉と思え!」

なんと! そう言われると今すぐにでもファイルを開いて見直したくなります。
そうして発見にいたる数々の誤字。正しく書いているつもりなのにひとりよがりだったという、自分の欠点に気づかされます。

「しゃべる上手さって生まれ持った才能で、どんなに努力しても限界があると思うんです」
「ならば打ち破れ! 天井などしょせん壊すためにあるのだ。ちなみにその先に広がるのは澄んだ青空だ」