呆れたように天井を仰いでため息をつく高坂先輩。

「それにこの薬剤は対照薬と比較試験を行い有効性の高さが証明されているものだ」
「つまり、ガチンコ対決で勝利したってことですね!」
「だからいい加減、学生気分の話し方はやめろ!」
「ひ-ん!」
「いいか、とにかくプレゼンではエビデンス(科学的根拠)に基づいた長所を強調するべきだ」
「えと、今なんて? エビで酢の物突っついた長所……?」
「貴様、なに面白空耳変換やっているんだ!」
「だってそう言ったじゃないですかー!」

高坂先輩はコテンパンに罵ってから、ようやっとわたしの顔を見ました。わたしは愛想笑いを浮かべたのですけれど、高坂先輩は眉間に谷底のような深いしわを寄せて首を横に振りました。

「……これは人前に出せるような代物じゃないな。スライドだけじゃなくて、お前自身もブラッシュアップしてこい」

わたしの顔に視線を送ってから放った、蔑むようなその言葉。それは社会人としての未熟さを容赦なく浮き彫りにしたひとことでした。



その夜、シャワーを浴びているわたしのおでこに、ふたたびにきびの顔が出現しました。

「にっ、にきびのお化け! また出たぁ~!!」

「クックック、自力ではいかんともしがたいところまで来てしまったようじゃな。ちなみにワシはお化けではなく神な。そこを間違うなよ」

驚きはしましたが、あの日以来消えることがなかったものですから、やっぱりわたしの様子を見ていたのだと腑に落ちました。

「おぬしは今、崖っぷちにおる。だからわしが背中を押してやりに来たのじゃ」
「崖っぷちで背中押されたら転落しちゃうじゃないですか!」

けれどたしかに現状のわたしが頼れるのはおでこのにきびしかいないようです。
さんざん迷いましたが、悪いにきびではなさそうですし、自称は神のようなので、おっかなびっくりお願いしてみます。

「相談に乗っていただきたいのですがよろしいでしょうか、にきび様!」
「ほう、ついにワシを頼る気になったか」

にきび様はわたしが折れると確信していたらしく、自信満々に言い返してきました。
悩みなんて星の数ほどありますが、解決できる方法なんて簡単に見つかるものではありません。でも神様なら何とかしてくれるかもしれません。

「わたし、自分に自信が持てるようになりたいんです!」