「見た目で人を判断するでない! しかもおぬしには頼れる指導者がいるじゃろが!」

どうやらにきびはわたしの置かれた状況を把握しているようです。
にきびはアクネ菌という名の配下を従え、男女構わず美を蝕む悪魔ですが、同時にわたしの体の一部であることは否定できません。前髪の隙間から事の顛末を覗き見していたはずです。
今まで傍観していたのかと思うと、ふつふつと怒りが湧いてきて、思わず自分のおでこを平手打ちしていました。

「ぶほっ!」

うめき声が聞こえてにきびは喋らなくなりました。その隙にわたしは前髪を下げ、にきびを前髪の中に隠しました。

これは高坂先輩のサディスティックな言動がわたしのストレスとなり、幻覚を見せたんだ。病は気からって本当なのだと自分に言い聞かせながら。

以来、おでこのにきびが声を上げることはありませんでした。



それから数日後、わたしは会議室の一室を借り、高坂先輩の指導を受けていました。
自分なりに頑張って社内資料を用いたスライドを作成し、無難なプレゼンテーションをしたつもりでした。
けれどその評価は手厳しいものでした。

「……ダメすぎて聞いているだけで吐きそうだ」

辛辣な言葉は予想していたものの、現世から一気に地獄へ落とされました。わたしは今、なんらかの罪を犯したのでしょうか。

「あの……どこが悪かったですか……?」
「ああ? どこがって聞くってことは、ダメなところすら自分でわかってねえんだな」
「はい……スミマセン」

本題に踏み込む前にさっそくノックアウトされました。

「まず抑揚がなく、どこが重要ポイントか聞いていてわかりづらい。それからパソコンに向かって話すな。伝える相手は何十人いると思っているんだ。聞き手の顔を見ろ。しかも表情が暗すぎる。自信のなさが顔に出ているぞ」

矢継ぎ早に言われてぐうの音も出ません。

「いいか、この薬剤の利点は即効性があり、同効薬と比較して薬価が低めに設定されていることだ。しかも糖衣錠なので苦くなく、飲みやすいことも利点のひとつだ。そこをよく把握しておけ」
「なるほど。つまり、早くて、安くて、うまいんですね。そう言います~」
「なんで牛丼屋や節約レシピみたいなフレーズに変換するんだ!」
「ひーん、だっておんなじ意味じゃないですかぁ~」
「医者に医学用語で解説できなくてどうする!」