【遺書】
「えっ、遺書!? い、遺書って……だっ、誰の?」
「……朔夜のだよ」
「八神……くん?」
「そう。それは、朔夜から朝井さんへ書いた手紙」
八神くんから、私に?
「嘘」
「朔夜に言うなって言われてたから、ずっと隠していたんだけど。実は朔夜、高二に進級してすぐにガンが見つかって」
私の手から、封筒が地面にはらりと落ちる。
「朔夜はずっと自分がガンだって信じられなかったみたいで。しばらくは治療も拒んでたらしいんだけど。朝井さんと喧嘩したあと、やっと治療を始めて。治療に専念する為に学校も辞めたんだよ」
ガンって、あの八神くんが? ほんとに?
どうしよう、急展開過ぎて頭がついていかない。
「う、嘘だよね?」
きっとまた八神くんが、今度は汐野くんと二人で私のことを騙そうとして……。
「ううん、嘘なんかじゃない」
汐野くんが首を横に振り、話を続ける。
「だけど、思いのほか病の進行が早くて。ガンは肺にも転移していたらしい。余命半年って医者からは言われたけど、それでも朔夜は諦めずに治療を頑張って……っ。だけど、朔夜は昨日……っう」
それまで淡々と話していた汐野くんが、言葉に詰まる。隣を見ると、彼は大粒の涙を流していた。
いきなりのことで、どこか非現実的な話だと思っていたけれど。汐野くんの涙を見て、これは嘘ではなく本当なのだとようやく私は悟る。
「そんな……」
八神くんのことは苦手だったけど、まさかあんな喧嘩別れしたまま、もう二度と会えなくなるなんて思ってもいなかった。
「朝井さん。朔夜からの手紙、読んであげて?」
「えっ」
汐野くんが地面に落ちた封筒を拾い、私に渡してくれる。
「そんな、読めないよ」
「これは、あいつが病床で懸命に書いたんだ。だから頼む。読んでやって」
「……分かった」
私は封筒から便箋を取り出し、手紙を読み始める。