「やっぱりこのカレーは美味しいです!」

「ああ。この複雑な香辛料の味と、後からくる独特な辛さがあとを引くな」

 フィアちゃんもドルファもカレーライスは問題なく食べられるようだ。

「うむ、ラーメンも美味しいが、こっちのカレーという料理も本当に美味しいぞ」

「本当だよね。こんなに美味しい料理が外でも簡単に食べられるんだからすごいよ」

 収納魔法を使えるランジェさんは、カレーをいつでも温かい状態で食べられるから羨ましい。アルファ米はお湯さえあればすぐに温かいご飯を食べられるが、ルーのほうは毎回温めないといけない

 ありがたいことに、今週はランジェさんもお店のほうを手伝ってくれる。今日からまた新商品であるアルファ米を販売することになる。週の始めの今日は忙しくなりそうだから、開店前にみんなでご飯を食べている。レトルト味のカレーだが、この世界では棒状ラーメンと同様になかなかのご馳走だ。

 お店の2階の生活スペースで食べてはいるが、このおいしそうなカレーの匂いがお店に朝早くから並んでいるお客さんのほうにまで届かないことを祈ろう。このレトルトカレーも販売できるようにしたいところだ。

 食品関係の商品を多く販売すればするほど、それぞれの商品の需要は少しずつ減っていくはずだ。新しく売り始める際は大勢が並んでしまうが、こればかりは仕方がない。



「さあさあ、いつも朝早くから当店に並んでいただきまして誠にありがとうございます。いつも通りお店を開く前に、本日から新しく販売する商品の説明をさせていただきます」

 数日前からアウトドアショップに通知を張っていたおかげもあり、多くのお客さんが並んでいる。今日は前回よりも多めに試食品を用意しているから大丈夫だろう。


「こちらはアルファ米といって、お湯を加えて少し待つだけで、簡単に美味しい米という料理が食べられます! 時間は長くなりますが、普通の水を加えるだけでも簡単にできてしまう優れものです!」

「「「おお〜!」」」

 お湯ならば15分で済むが、水だと1時間くらい掛かってしまう。それにお湯のほうが少し温かくてふっくらとした食感になるから、お湯で作るほうがお勧めだ。

「しかもなんとこちらのアルファ米は、水分さえ加えなければ一月以上は持つという優れもの! 冒険者には何があるかわかりません。森で迷ってしまったり、怪我をして動けなくなってしまった時の非常食としてもお使いください!」

「「「おお〜!」」」

 パッケージに入っているアルファ米なら5年は持つらしいが、パッケージも乾燥剤もなければ、よくて半年くらいではないかと思う。少なくとも初めてアルファ米を購入してから一月ほど経過したものを食べてもなんの問題もなかった。

「論より証拠に、こちらが15分ほど前にお湯を加えたアルファ米になります。アルファ米は4種類ありますが、これも棒状ラーメンと同じで、おひとり様ひとつずつでお願いします」

「うわ〜これも制限があるのかあ……」

「また並ばないといけないわね……」

 アルファ米は5回分をワンセットにして販売するが、他の商品と同じで購入制限を付けているし、1日の販売量も決めてある。お客さんには申し訳ないが、それほど大きくないこのお店で無制限に商品を販売するのはいろいろとまずいからな。

 アルファ米はいつものように木筒に入れて販売し、使った木筒はまた回収して再利用する。元の世界のアルファ米には、パッケージの中にここまでお湯を注いでくださいという線があったが、こっちの世界ではシェラカップを使わないと正確な水の量が分からない。

 つまりはアルファ米と一緒にシェラカップも売れてしまうわけだ。棒状ラーメンの時はそこまで細かく水の量を気にしなくても良かったが、アルファ米の水の量はかなりシビアである。まだシェラカップを持っていない人はこれを機会に間違いなく買ってくれるだろう。

 ……えっ、抱き合わせ販売? 悪徳商法? いやいや、合法だからね!



「おお、モチモチしてうまいな! それにいろんな具材が入っているぞ!」

「こっちのオレンジ色のは酸味が少し効いていて美味しいわね!」

「こっちのは刻んだ海藻が入っているようだ。少ししょっぱくていけるな」

 アルファ米は普通の白米の他に、五目ご飯、チキンライス、わかめご飯の合計4種類がある。

「……教えてもらった通り、この白いやつは味がほとんどないんだな」

「こっちの白米は他のオカズや味の濃いものと一緒に食べると美味しいですよ」

 この中だと、たぶん味が付いていない白米の売り上げが一番少ないと思う。しかし、白米は料理をする上では必須だし、今後味の濃い様々な料理と合わせて真価を発揮することがわかれば、徐々に売れていくだろう。

 今回試食品の量は足りたようだな。棒状ラーメンと違ってご飯は多く作りすぎで問題ないから、多めに作っておいて正解だったようだ。

「それではお店を開きますので、順番にゆっくりとご入場ください!」





「「「ありがとうございました」」」

 今日の最後のお客さんが退店した。

「ふう〜なんだか日に日にお客さんが増えてる気がするよ」

「そうだな。ランジェがいてもなかなかに忙しい。もう少しお客さんが増えるようなら、もうひとり店員を雇っても良いかもしれないな」

 確かに新製品を販売していく度にお客さんが増えてきているようだし、リリアの言う通り新しい従業員をもうひとりくらい雇ってもいいころかもしれない。

「僕もようやく仕事に慣れてきたかな」

「ランジェさんはもう1人でも全然大丈夫そうだったね、さすがだよ」

 ランジェさんはまだ接客を始めてから2週目なのに、すでに接客はみんなと同じくらいできるようになっている。このあたりは性格の合う合わないもあるからな。ランジェさんは接客業にも向いているようだ。

 ……ちなみに昨日は前に約束していた女性の冒険者とデートしていたらしい。今日はそれとは別の女の子に声をかけていた。まあ、お店に影響が出ない限りは止めるつもりはない。

 ……ちっとも羨ましくなんてないぞ!