ここは異空間の狭間にある異界領域。そこには全ての神を統べるゼルウナスが住まう城がある。

 その城の奥には途轍もなく広い部屋があり、白い空間のような場所でゼルウナスが険しい表情で大きな玉座に腰かけていた。


 ゼルウナスは緑がかった銀色のロングヘア、シャープな顔立ちで数十メートルあるであろう巨体をしている。


 瞼を閉じて「ハァー」と息を漏らすと、目を開いて考え始めた。

「うむ、どうしたものか。ファイグからのメッセージだとスイクラムは数多くの者を自分の世界に召喚している」

 そう言いながら席を立ち、部屋の中をウロウロし始める。

(もしこれが本当ならば、スイクラムに対してなんらかの処罰を与えないとならぬ。だが、どうする?
 その処罰によってはスイラジュンムに神がいなくなる。そうなると世界を維持し管理することができない……ハッ!? ウム、その手があった)

 考えがまとまると、早速ファイグにメッセージを送った。



 時は少し遡り、ここはドラギドラス(ドラバルト)の洞窟。

 ファルスのおかげで美鈴は回復し、起き上がることができるまでになった。

 そしてファルスとドラバルト、ミィレインから倒れてからのことを聞き知る。

「ファルスさん、ありがとうございます」

 美鈴は軽く頭を下げた。

「ああ、問題ない。応急処置が効いていたみたいだからな」

「ドラバルトもありがとうね」

 頭を下げ、美鈴はニコリと笑う。

「い、いや……。俺は、礼をされるようなことなどしていない」

 と言いながらも、ドラバルトは照れる。

 そうこう話をしていると、ゼルウナスからのメッセージがファルスの頭の中に送られてきた。

 ファルスはそれに気づき、美鈴たちに悟られないようにメッセージを読んだ。

(なるほどそうなると、しばらくこの世界に居なくてはいけなくなった。まあ、たまにはいいか)

 そう思い、ニヤリと笑う。その後、“承知しました”とゼルウナス宛てに思念を送った。

(これで大丈夫だ。だが、ゼルウナス様はスイクラムにどんな罰を与えるだろうか?
 それをここで考えたところで知ることはできない。まぁ、そのことは、そのうち分かるだろう)

 そう考えると、再び美鈴たちの方に視線を向ける。

 そしてその後、美鈴たちはこのあとのことを話し合った。



 場所はゼルウナスの城へと戻る。あれからゼルウナスは光の衛兵型精霊六体をスイクラムの城に向かわせた。

 それから数分後、スイクラムは抵抗できないままゼルウナスのもとへ連行されてくる。

 現在、ゼルウナスはスイクラムの話を聞いていた。

「スイクラム、なぜここに連れてこられたか分かるな」

「はい、ですがこれには理由があるのです」

「ほう、それはどんな理由だ?」

 そう問われスイクラムは、これなら上手く誤魔化せると思い更に話し始める。

「それは……我が世界スイラジュンムに、再び魔王の復活を目論む者たちが現れたという報告があり--」

 長々と噓を交えながら理由を述べた。

「うむ、なるほど。そのために他の次元の世界から多くの者を召喚した、と」

「より強い者を、と思い召喚したのです。ですが中々、思っていた以上に強者が見つからず」

「それで多くの者を召喚したわけか。だが、しかしそうだとしてもな。美鈴とかいう者を、なぜ始末しようとした?」

 そう聞かれ、スイクラムはどう返答するか戸惑う。しかし、悪知恵の働くスイクラムはふとその理由が脳裏に浮かんだ。

「そのことなのですが、あの美鈴を殺そうなどと思っておりません」

「それはどういうことだ?」

「はい、本来なら元の世界に返すはずでした。ですが、誤って野獣の住処に……。ですので先程、美鈴を見つけ今度こそはと思い……」

 それを聞き、ゼルウナスは深い溜息を漏らし頭を抱える。

「もしそれが本当だとしても、なぜ美鈴があの洞窟にいた? 報告では、お前が転移させたとあったが」

「それは、何かの間違いです!?」

「間違い、だと? うむ、なるほど……」

 この時スイクラムは、ゼルウナスが自分の発言を信じたと思い、これならいけると安心した。

「それならば、これはどう説明する?」

 そう言い両手を前に掲げるとゼルウナスは、ファイグから送られて来た美鈴の記憶を具現化させる。

 そこには美鈴がスイクラムによりどんな扱いをされたのか、その一部始終が鮮明に映し出されていた。

 それを見たスイクラムは顔面蒼白になり何も言えなくなる。

「これを見ても、まだ何か弁明することはあるか?」

 そう問いかけられるも、スイクラムは言い返す言葉が見つからず黙ったまま首を横に振った。

 その後、スイクラムは罰として牢に入れられる。

「うむ。しばらく牢で過ごし、頭が冷えれば……恐らくは、反省すると思うのだが」

 地下牢がある東側に視線を向けそう願ったのだった。