「では、朧たち。あなたがたを、こう呼びましょう。ミノリ、ナギ、チヨ、アズサ……」

咲が光の粒ひとつひとつを指さし、名を呼んでいくと、光の粒がゆうらりと地上に降りてその場に留まり、その光の粒に千牙が手をかざすことで人型を取っていく。光を放つ透けた人型が、みるみるうちに光を手放し、質感のある人型の朧となる。こうなるともう、見た目は人間だ。

「ユキ、アカツキ、ヒナ、リク……」

浮き上がろうとしていた光の粒が、どんどん地上に集まってくる。千牙がもれなくそれらに人型を与えていく。

「シロガネ、ムツミ、タイラ、ヒジリ……」

発生していた全ての朧に名をつけ終わり、千牙が器を与えきると、その場には幼い子供の成りをした朧がずらりと揃った。彼らはきらきらした目で咲を見ている。みな、生を受けて喜びを隠しきれない子供の顔をしていた。

「見事だな、咲。一気にこれだけの数の朧を顕現とは。しかも全て、彼らを慶する名だな」

「母には、素敵な名前を付けてもらいました。私は長女だったので、両親の期待のもと、破妖の力が満開に花開くようにと、『咲』と名付けられたんです。……期待に沿えなくて、申し訳ないばかりでしたが……」

だから、自分の分も朧たちには幸せになって欲しかった。朧たちが、名を得ることで良き生を生きられるならと、そう願って付けたのだ。

「君のような考え方は新鮮だな。私は朧に名を与えてくれとは言ったが、名に言祝ぎを与えてくれとは言わなかった」

おかしなことを言う。名をつけるとはつまり、その相手の未来を祈ること。幸多からんと祈らないなんて、聞いたこともない。
咲がそう言うと、千牙が口端を歪めて目を伏せた。

「……そうか、名をつけるとは、そう言う意味があるのだな……」

「千牙さん……?」

わずかに寂しそうな千牙の表情が目に焼き付く。……そういえば、『千牙』とは、どういう意味をもってつけられたのだろうか。