翌日、カズンは朝食後に自室に戻ると、口内清浄剤が残り少ないことに気づいた。
口内清浄剤は、カズンの前世の人物がいた日本にあった、ミントタブレットなどと同じような清涼感のある錠剤のことだ。
この世界では、口に入れた本人の魔力と反応して、口の中全体を清浄にする作用を持った薬の一種だ。
魔力持ちの貴族なら、食後は自分で清浄魔術を使って歯磨きやうがい代わりにする。
それでも、口内清浄剤の風味や清涼感を好んで、日常的に用いる者が多かった。
「学園の購買で買えばいいか」
口の中に一粒放り込んで、頭の片隅にメモをした。
学園で昼休みにヨシュアを伴い、途中で合流したユーグレンも連れて一緒に一階の売店へ向かった。
何の用だろうと二人が思っていると、棚からマッチ箱より一回り大きいぐらいの細長の薄く四角い缶を三つ手に取って、そのまま購入した。
購入した缶は、そのまま一つずつ二人に押し付けた。
受け取った缶の表面には。
「口内清浄剤?」
「まあ、仲良し記念ということで」
あまり高いものだと賄賂になってしまうから、いつも自分が使っているスペアミントの口内清浄剤を買ってみたということらしい。
ヨシュアとユーグレンが顔を見合わせる。
ふ、と小さく笑って、ヨシュアも三つ、同じ風味の口内清浄剤を買った。
薔薇の香りの付いた、かすかな甘味のあるタイプだ。
ユーグレンも得心がいったというように頷いて、やはり同じ風味のものを三つまとめて買う。王子様でも学園内で使う用に、ちゃんと自分の財布は持っていた。
「私はアニスが好きなんだ。使うたび、私を思い出してくれると嬉しいな」
余計な言葉とともに、アニスことハーブの八角のイラストが描かれた口内清浄剤の缶を渡された。
「ふふ。用も済んだようですし、昼休みが終わる前に食堂へ行きましょうか」
三種類三つの小型缶をビリジアングリーンのブレザーのポケットに突っ込んで、三人並んで食堂への廊下を歩き始める。
左隣からヨシュアが、
「ねえ、カズン様。食後は薔薇とアニス、どちらの口内清浄剤を使ってくださるのですか?」
「!?」
銀色の花咲くアースアイを期待の色に輝かせて、見つめてくる。
「す、スペアミントに決まってるだろう!」
両隣から弾けるような爽やかな笑い声が起こる。
「そうだな、では私も今日はスペアミントを使おう」
「オレもスペアミントにします。ね、カズン様?」
「………………」
共謀して自分をからかってくる二人に気分を害し、両肘で強めに突くと、ごめんごめんと両隣から宥められる。
(おかしい。いつの間にか自分が真ん中になっているじゃないか)
“両手に花”をやるのはユーグレンじゃなかったのか。
そんな三人を、空気と化したユーグレンの護衛ローレンツが苦笑しながら見守っていた。
売店でのこの光景はもちろん、周囲の生徒たちも見ている。
その中にはユーグレン派閥の者も、カズン派閥の者もいるわけで。
口内清浄剤を楽しげに渡し合う姿は、三人が親しくなったことをよく表していた。
もっとも、王弟カズンはそういった思惑を持って周囲の目を気にする性格ではない。
計算したのはヨシュアだろう。
そしてユーグレン王子がすぐ意図を悟り追随した。
「案外、三人で上手くやっていくのかもしれませんね」
そう願いたかった。
口内清浄剤は、カズンの前世の人物がいた日本にあった、ミントタブレットなどと同じような清涼感のある錠剤のことだ。
この世界では、口に入れた本人の魔力と反応して、口の中全体を清浄にする作用を持った薬の一種だ。
魔力持ちの貴族なら、食後は自分で清浄魔術を使って歯磨きやうがい代わりにする。
それでも、口内清浄剤の風味や清涼感を好んで、日常的に用いる者が多かった。
「学園の購買で買えばいいか」
口の中に一粒放り込んで、頭の片隅にメモをした。
学園で昼休みにヨシュアを伴い、途中で合流したユーグレンも連れて一緒に一階の売店へ向かった。
何の用だろうと二人が思っていると、棚からマッチ箱より一回り大きいぐらいの細長の薄く四角い缶を三つ手に取って、そのまま購入した。
購入した缶は、そのまま一つずつ二人に押し付けた。
受け取った缶の表面には。
「口内清浄剤?」
「まあ、仲良し記念ということで」
あまり高いものだと賄賂になってしまうから、いつも自分が使っているスペアミントの口内清浄剤を買ってみたということらしい。
ヨシュアとユーグレンが顔を見合わせる。
ふ、と小さく笑って、ヨシュアも三つ、同じ風味の口内清浄剤を買った。
薔薇の香りの付いた、かすかな甘味のあるタイプだ。
ユーグレンも得心がいったというように頷いて、やはり同じ風味のものを三つまとめて買う。王子様でも学園内で使う用に、ちゃんと自分の財布は持っていた。
「私はアニスが好きなんだ。使うたび、私を思い出してくれると嬉しいな」
余計な言葉とともに、アニスことハーブの八角のイラストが描かれた口内清浄剤の缶を渡された。
「ふふ。用も済んだようですし、昼休みが終わる前に食堂へ行きましょうか」
三種類三つの小型缶をビリジアングリーンのブレザーのポケットに突っ込んで、三人並んで食堂への廊下を歩き始める。
左隣からヨシュアが、
「ねえ、カズン様。食後は薔薇とアニス、どちらの口内清浄剤を使ってくださるのですか?」
「!?」
銀色の花咲くアースアイを期待の色に輝かせて、見つめてくる。
「す、スペアミントに決まってるだろう!」
両隣から弾けるような爽やかな笑い声が起こる。
「そうだな、では私も今日はスペアミントを使おう」
「オレもスペアミントにします。ね、カズン様?」
「………………」
共謀して自分をからかってくる二人に気分を害し、両肘で強めに突くと、ごめんごめんと両隣から宥められる。
(おかしい。いつの間にか自分が真ん中になっているじゃないか)
“両手に花”をやるのはユーグレンじゃなかったのか。
そんな三人を、空気と化したユーグレンの護衛ローレンツが苦笑しながら見守っていた。
売店でのこの光景はもちろん、周囲の生徒たちも見ている。
その中にはユーグレン派閥の者も、カズン派閥の者もいるわけで。
口内清浄剤を楽しげに渡し合う姿は、三人が親しくなったことをよく表していた。
もっとも、王弟カズンはそういった思惑を持って周囲の目を気にする性格ではない。
計算したのはヨシュアだろう。
そしてユーグレン王子がすぐ意図を悟り追随した。
「案外、三人で上手くやっていくのかもしれませんね」
そう願いたかった。