建前としては、だ。

 別に同じ学園に通う生徒であるわけだし、ユーグレン王子が現役伯爵のヨシュアと仲良くなることに問題などあろうはずもない。

 そもそも、学生同士の交友に他者から口を挟まれる道理はない。



 というわけで、学園内ではカズンたち三人の仲は特に隠すでもなく、大っぴらにするでもなくの方針でいくと決めた。

 いつものメンバーで食堂でのランチを食べ終わった後、何となく他愛のない話をしながら、皆でヨシュアが持参していた菓子を摘んでいた。

「くう、やはり今回のガスター菓子店の新作ショコラは当たりだな、神レベルか!」
「はい、ここ数年で一番のヒットですね」

 包み紙にくるまれた四角いミニチョコレートを数粒ずつ配って、食後の紅茶と一緒に堪能した。

 先日、同じものをアルトレイ家に持参して、カズンやその母セシリアといただいたが、全員が美味に悶えた。

 ただのチョコレートではない。紅茶味のチョコレートだ。カズンの前世でいえば、アールグレイに相当する柑橘系の風味を付けた紅茶味。

 普通のチョコレートのように口に入れてすぐはかたいのに、程なくして舌の上で蕩ける。
 その蕩け方が滑らかで、柔らかい。

「まるで貴婦人の口づけの如く……」

 うっとりしながら、舌の上でチョコレートを転がしているヨシュアと、同じように至福の表情でほわっと微笑んでいるカズン。

 特にカズンは、美味しいものを食べているときのテンションが高い。普段は淡々としているだけに意外な一面でもあった。

「口づけを交わす相手とかいるんですかー?」
「はははは、そんな淑女がいるなら紹介してほしいな」

 後輩グレンからの突っ込みをヨシュアは軽くかわした。
 相変わらずお見合い惨敗記録を更新中である。

「ガスター菓子店、今度は中通りにも出店するそうです。そちらは予約なしでもお茶できるそうなので、今度行きましょう、カズン様」
「行く……絶対行って作りたてのこのショコラを味わってきたい……!」

 調理スキル持ちの二人は、以前から放課後の食べ歩きが実用を兼ねた趣味だった。
 休日も、予定が合えば二人で出かけてはカフェ巡りを満喫していたものだ。



 ところが、そんなことも知らなかったユーグレンが二人の話を聞いて拗ねた。

「お前たち、そんな楽しいことをしてたなら、私も混ぜてくれ。ガスター菓子店のショコラは私だって好物なんだ!」
「おまえの身分で、放課後の寄り道ができるのか?」

 と、ユーグレン本人ではなく、護衛の生徒のウェイザー公爵令息にして騎士爵のローレンツを見ると、必死にプルプルと首を横に振られる。

「ユーグレン殿下も一緒なら、やはり本店を予約するのがいいでしょうね。放課後、都合の良い日にちを後で側近候補の方から聞いておきます。楽しみですね」

 先日、先走って失態をやらかした宰相令息の顔を思い浮かべる。
 自分たち三人が今後は積極的に親しくしていくと聞いたとき、あの銀縁眼鏡の優等生がどのような表情になったのだろう。

 想像するだけでヨシュアは楽しかった。