「ブルー男爵領近くのダンジョンには、そこそこミスリル銀出るそうなんですけどね。うち、家の中で冒険者として戦えるの僕だけだから、ちょっと戦力的に心許なくて」
発明家で魔導具師の妹カレンも魔力持ちではあるものの、才能は発明だけに割り振られてて戦闘力は低いそうだ。
「驚いたな。グレンは冒険者登録しているのか」
「はい。父さんが男爵家に引き取ってくれる前は、母さんが身体を壊してる期間が長かったので。冒険者ギルドには8歳から登録できますし」
もちろん一番下のFランクからのスタートになるが、子供でも倒せる弱い魔物は多いし、小遣いの稼ぎやすい薬草集めのような低級クエストは常設されている。
「あと、そのミスリル銀の出るダンジョン、未成年だと入場規制があって。Dランクに上がるまでは、保護者役でBランク以上の冒険者の同伴が必要なんです。ボクの知り合い、Cランクまでしかいないから、それも困っちゃって」
現在のグレンの冒険者ランクはE。一番下のFランクから一段階上がっているが、それからはブルー男爵家に迎えられて、あまり冒険者活動ができていないのだそうだ。
「そういうことなら、一つ案がある」
しばらく黙って話を聞いていたユーグレンが、一同を見回した。
「この学園の教師の中には、冒険者から転職した方が数名おられたはずだ。教師になるぐらいだから冒険者ランクもそこそこ高いに違いない。どなたかに同伴を頼んでみてはどうだろう?」
「待て。Bランク以上の冒険者なら一人、思い当たる人がいる。僕のほうで話を通しておくから、一緒に連れて行ってくれ!」
とカズンが張り切った顔になっている。
黒縁眼鏡のレンズ越しでもわかるぐらい、黒い瞳が輝いていた。
「グレンが冒険者になっているなら、僕も冒険者登録は可能だよな?」
「カズン……冒険者、なりたいのかよ?」
「なりたいとも! うちは両親が過保護で、護身術を習うのも渋ってたぐらいだ。だが男なら冒険者! ダンジョン! 憧れぬわけがない」
「お、おう……なら俺も付き合うぜ。騎士の鍛錬とはまた別の修行ができそうだし」
何やら想定しない流れになっている。
「ならオレもお供します。ミスリル銀やダンジョン産のドロップ品は魔法や魔術用の素材になりますしね」
同行を名乗り出たライルとヨシュアに、自分も行きたそうな顔になるユーグレンだったが、さすがに次期王太子の自分には祖父王の許可が下りないだろう。
「皆、怪我をしないようにな。一応、学園側にあらかじめ報告しておくといい。冒険者活動で手持ちのスキル練度の上がり具合によっては、単位として認められるものもあるからな」
生徒会長らしく優等生なアドバイスをするに留めた。
ユーグレンの後ろのほうで控えていた護衛を兼ねた補佐官候補の生徒が、ホッと胸を撫で下ろしている。
「やった! じゃあ、カズン先輩の冒険者の当てに話がついたら、連絡くださいね!」
残りの昼食を腹に詰め込んで、バスケット片手にグレンは1年生の教室へ戻っていった。
「ダンジョンか……皆、装備は万全にして行くのだぞ。特にカズン、お前が怪我をするとお祖父様がお怒りになる。防具はランクの高いもので固めておけ」
ユーグレンが本気の顔で忠告してきた。
年の離れた弟カズンを、現国王テオドロスは溺愛している。下手すると孫のユーグレンより甘い。多分、カズンのほうがユーグレンより生まれたのが後だからだろう。
下手に怪我でもしようものなら、王宮に軟禁するぐらいは平気でやらかす。
「ブルー男爵領近くのダンジョンでミスリル銀が出るところってえと……ミスリルスライムの出るとこか。第4号ダンジョンだっけ」
「ミスリルスライムかあ。硬そうですねえ」
金剛石の魔法剣の使い手ヨシュアが、のほほんと呟いている。
自分の創り出す剣でミスリルの皮膚を持つスライムが斬れるかどうか考えているのだろう。
「ふふ……ようやく自分専用の武器や防具を揃えられる! ダンジョン潜りの口実をくれたグレンには感謝せねばな!」
拳を握り締めて歓喜に震えるカズン。
そんな彼を見て不思議そうな顔をするライル。
事情を知るヨシュアとユーグレンは苦笑いしている。
「カズンはヴァシレウス様が80のお歳のときの子供でな。数多の妃妾を娶っても王女と王子ひとりずつしか恵まれなかったヴァシレウス様が、晩年に得た末っ子ということでそれはもう大事に大事に育てられた」
産まれてからずっと王宮の離宮で、掌中の珠の如く愛でられてきた。
どのくらい大切にされてきたかというと、同い年の王族であるユーグレンとも赤ん坊の頃は会わせなかったぐらいで、初めて会う4歳まで離宮から一歩も出さなかったのだから徹底している。
「僕は生まれ持った魔力が少なかったからな。剣や護身術も、危ないからといってなかなか訓練させてもらえなかった。母がアルトレイ女大公に叙爵されて離宮を出て今の屋敷に移ってきてから、ようやくバックラーを作る訓練も認めてもらえたぐらいで」
「まあ、お前は王族だもんな。自分を鍛えるより、外出るときは護衛付けたほうが早いもんな」
自分の身を守れる程度の護身術と、防御術としての盾剣バックラーを使いこなせるようになったからこそ、王族であっても比較的カズンは自由に動けている。
ただ、王都や学園内は比較的安全だが、さすがにそろそろ専属護衛を付けるという話は出ている。
特に最近はドマ伯爵令息ナイサーのような悪漢も出てきているため、カズンの父母も本格的に考え始めているようだ。
発明家で魔導具師の妹カレンも魔力持ちではあるものの、才能は発明だけに割り振られてて戦闘力は低いそうだ。
「驚いたな。グレンは冒険者登録しているのか」
「はい。父さんが男爵家に引き取ってくれる前は、母さんが身体を壊してる期間が長かったので。冒険者ギルドには8歳から登録できますし」
もちろん一番下のFランクからのスタートになるが、子供でも倒せる弱い魔物は多いし、小遣いの稼ぎやすい薬草集めのような低級クエストは常設されている。
「あと、そのミスリル銀の出るダンジョン、未成年だと入場規制があって。Dランクに上がるまでは、保護者役でBランク以上の冒険者の同伴が必要なんです。ボクの知り合い、Cランクまでしかいないから、それも困っちゃって」
現在のグレンの冒険者ランクはE。一番下のFランクから一段階上がっているが、それからはブルー男爵家に迎えられて、あまり冒険者活動ができていないのだそうだ。
「そういうことなら、一つ案がある」
しばらく黙って話を聞いていたユーグレンが、一同を見回した。
「この学園の教師の中には、冒険者から転職した方が数名おられたはずだ。教師になるぐらいだから冒険者ランクもそこそこ高いに違いない。どなたかに同伴を頼んでみてはどうだろう?」
「待て。Bランク以上の冒険者なら一人、思い当たる人がいる。僕のほうで話を通しておくから、一緒に連れて行ってくれ!」
とカズンが張り切った顔になっている。
黒縁眼鏡のレンズ越しでもわかるぐらい、黒い瞳が輝いていた。
「グレンが冒険者になっているなら、僕も冒険者登録は可能だよな?」
「カズン……冒険者、なりたいのかよ?」
「なりたいとも! うちは両親が過保護で、護身術を習うのも渋ってたぐらいだ。だが男なら冒険者! ダンジョン! 憧れぬわけがない」
「お、おう……なら俺も付き合うぜ。騎士の鍛錬とはまた別の修行ができそうだし」
何やら想定しない流れになっている。
「ならオレもお供します。ミスリル銀やダンジョン産のドロップ品は魔法や魔術用の素材になりますしね」
同行を名乗り出たライルとヨシュアに、自分も行きたそうな顔になるユーグレンだったが、さすがに次期王太子の自分には祖父王の許可が下りないだろう。
「皆、怪我をしないようにな。一応、学園側にあらかじめ報告しておくといい。冒険者活動で手持ちのスキル練度の上がり具合によっては、単位として認められるものもあるからな」
生徒会長らしく優等生なアドバイスをするに留めた。
ユーグレンの後ろのほうで控えていた護衛を兼ねた補佐官候補の生徒が、ホッと胸を撫で下ろしている。
「やった! じゃあ、カズン先輩の冒険者の当てに話がついたら、連絡くださいね!」
残りの昼食を腹に詰め込んで、バスケット片手にグレンは1年生の教室へ戻っていった。
「ダンジョンか……皆、装備は万全にして行くのだぞ。特にカズン、お前が怪我をするとお祖父様がお怒りになる。防具はランクの高いもので固めておけ」
ユーグレンが本気の顔で忠告してきた。
年の離れた弟カズンを、現国王テオドロスは溺愛している。下手すると孫のユーグレンより甘い。多分、カズンのほうがユーグレンより生まれたのが後だからだろう。
下手に怪我でもしようものなら、王宮に軟禁するぐらいは平気でやらかす。
「ブルー男爵領近くのダンジョンでミスリル銀が出るところってえと……ミスリルスライムの出るとこか。第4号ダンジョンだっけ」
「ミスリルスライムかあ。硬そうですねえ」
金剛石の魔法剣の使い手ヨシュアが、のほほんと呟いている。
自分の創り出す剣でミスリルの皮膚を持つスライムが斬れるかどうか考えているのだろう。
「ふふ……ようやく自分専用の武器や防具を揃えられる! ダンジョン潜りの口実をくれたグレンには感謝せねばな!」
拳を握り締めて歓喜に震えるカズン。
そんな彼を見て不思議そうな顔をするライル。
事情を知るヨシュアとユーグレンは苦笑いしている。
「カズンはヴァシレウス様が80のお歳のときの子供でな。数多の妃妾を娶っても王女と王子ひとりずつしか恵まれなかったヴァシレウス様が、晩年に得た末っ子ということでそれはもう大事に大事に育てられた」
産まれてからずっと王宮の離宮で、掌中の珠の如く愛でられてきた。
どのくらい大切にされてきたかというと、同い年の王族であるユーグレンとも赤ん坊の頃は会わせなかったぐらいで、初めて会う4歳まで離宮から一歩も出さなかったのだから徹底している。
「僕は生まれ持った魔力が少なかったからな。剣や護身術も、危ないからといってなかなか訓練させてもらえなかった。母がアルトレイ女大公に叙爵されて離宮を出て今の屋敷に移ってきてから、ようやくバックラーを作る訓練も認めてもらえたぐらいで」
「まあ、お前は王族だもんな。自分を鍛えるより、外出るときは護衛付けたほうが早いもんな」
自分の身を守れる程度の護身術と、防御術としての盾剣バックラーを使いこなせるようになったからこそ、王族であっても比較的カズンは自由に動けている。
ただ、王都や学園内は比較的安全だが、さすがにそろそろ専属護衛を付けるという話は出ている。
特に最近はドマ伯爵令息ナイサーのような悪漢も出てきているため、カズンの父母も本格的に考え始めているようだ。