翌日は午後には王都に戻るため、もう港町まで出ることはせずホーライル侯爵邸での余暇を楽しむことにした。
とはいえ、ご令嬢たちのようにお茶を楽しんでウフフと微笑み合うわけではない。
「訓練しようぜー。剣でも魔法でも魔術でもOKな!」
と言って、朝食後サロンで休んでいた一同の元に、ライルが倉庫から木刀などの模造剣を持ってきた。
本人はさっそく動きやすい訓練着に着替えている。
「魔力を使っていいのですか?」
不敵にヨシュアが微笑んでいる。
麗しの美貌と、まだ成長期で細身な体格に誤魔化されがちだが、彼は現時点で既に魔法剣士として完成されている。
“魔法”と付くからには、分類上は魔法使いだ。最も魔力を高度に使いこなす職業であり称号といえる。
「ま、待て、お前に魔力使われるとさすがに俺たち全員ヤバい。とりあえず剣やろう、剣!」
ハッとライルもすぐ気づいて、慌てて訂正する。
ところが今度は、カズンとユーグレンが躊躇いを見せた。
「剣か……」
「まあ、魔力を使うよりはマシ、か?」
互いによく似た黒い瞳を見合わせて、溜め息をついている。
「ん? 二人とも、剣は不得手だったか?」
「いや、剣は好きだが、王族は身の守りを優先せねばならないからな。防御や体術のほうが得意なんだ」
それに、王子のユーグレンは今回、護衛を連れてきていない。
専用の防具も持ってきていないことから、傷を作る可能性が高い剣術の練習は却下だ。
「王族の皆様は体術とバックラーの防御を中心に学ばれるのですよね」
「そう。こういうやつだ」
とカズンは自分の魔力で、バックラーと呼ばれる小型の丸い短剣付きの盾を利き腕とは逆の腕側に出して装着した。
(僕の数少ない、異世界転生したっぽい能力だ)
「王族は社交や外交で剣を持てない場面が多いからな。必然的に防御特化していくことになった」
ユーグレンも同じような形状のバックラーを出して見せる。
「ヴァシレウス様もバックラー、使われてますよね」
「うちのお父様の場合、魔改造しまくって原型を留めてないけどな」
バックラーを改造する場合、盾のサイズや形状を変えるか短剣の刃を伸ばすかだが、カズンの父ヴァシレウスの場合はバックラー本体そのものを武器にできるような改造を行っている。
「最初に見たのは子供の頃で、あれが格好良いと大はしゃぎしたものだったが……」
既に何か違う別の武器になっている疑惑もある。
それから昼食の時間まで、訓練着を借りてホーライル侯爵邸の庭で4人で組手をして身体を動かしていた。
その後はヨシュアとライルで木刀での打ち合いをやっていた。
「魔法剣士と剣士の対戦か」
「んー……やはり身体強化なしだとヨシュアが押されてしまうなあ」
背丈はどちらも同じくらいなのだが、ヨシュアのほうが華奢だ。
対するライルは脚や肩、腕など剣士に特化した筋肉がよく鍛えられている。
身体強化術を使わない対戦では、ライルの一勝。
次は制限なしの身体強化術を使用しての対戦。
「お。おおお、互角……!?」
「でもないな。やはりヨシュアが押され気味だ。単純な剣術の技は剣士の方に軍配が上がるか……」
さて本命の、魔力を使う対戦は。
「カズン様、持っててください」
「おっと」
ヨシュアから木刀を投げ渡され、ユーグレンと見学していたカズンは慌てて受け取った。
手ぶらになったヨシュアの両手の中に、魔法樹脂の透明な剣が創り出される。
同じように空中にも次々と魔法樹脂の剣が現れていく。
数十本ほど出現させた時点で、ヨシュアは自分の瑠璃色の魔力をすべてに満たした。
すると透明だった魔法剣は金剛石、即ちダイヤモンドの輝きを帯びて光を乱反射するようになる。
「リースト伯爵家の魔法剣。……やはり、美しいな」
隣でユーグレン王子が感嘆の溜め息を漏らしている。
「まだあれで半分も出してませんよ」
「ああ。竜退治のときは百本以上あったものな」
こうなると、もはやヨシュアの独壇場だ。
手に剣を持ってはいても、ヨシュアはその場から動かない。宙に浮かせた魔法剣を操作してライルに向けて自在に翻弄している。
数十本もの空中からの魔法剣攻撃に、ライルは奮戦したものの、数分で音を上げた。
「ぎ、ギブ、ギブアップ!」
「はい。勝利、いただきました」
にっこり笑って、魔法剣を魔力に戻したヨシュアだった。
「くそ、あの数は反則だろ、反則!」
訓練着のあちこちが細かく避けた姿でライルが悪態をついている。
服は避けたが、その下の皮膚はどこも傷ついていない。ヨシュアが操る魔法剣のコントロール技術は実に精密で微細だ。
「魔法剣士とはそういうものだ。諦めろ、ライル」
「うう、悔しいったら……絶対ぇに攻略してやるからな、待ってろよヨシュア!」
ビシッと人差し指で指されてもヨシュアは笑っていた。
「こちらこそ。身体強化や魔法剣抜きの素のオレも、まだまだです。ともに切磋琢磨して参りましょう」
大変良い子のお返事であった。
さて、今日はもう昼食をいただいた後は王都へ帰るだけだ。
一泊二日の小旅行だったが、それなりに4人の仲はより親しくなったように思う。
とはいえ、ご令嬢たちのようにお茶を楽しんでウフフと微笑み合うわけではない。
「訓練しようぜー。剣でも魔法でも魔術でもOKな!」
と言って、朝食後サロンで休んでいた一同の元に、ライルが倉庫から木刀などの模造剣を持ってきた。
本人はさっそく動きやすい訓練着に着替えている。
「魔力を使っていいのですか?」
不敵にヨシュアが微笑んでいる。
麗しの美貌と、まだ成長期で細身な体格に誤魔化されがちだが、彼は現時点で既に魔法剣士として完成されている。
“魔法”と付くからには、分類上は魔法使いだ。最も魔力を高度に使いこなす職業であり称号といえる。
「ま、待て、お前に魔力使われるとさすがに俺たち全員ヤバい。とりあえず剣やろう、剣!」
ハッとライルもすぐ気づいて、慌てて訂正する。
ところが今度は、カズンとユーグレンが躊躇いを見せた。
「剣か……」
「まあ、魔力を使うよりはマシ、か?」
互いによく似た黒い瞳を見合わせて、溜め息をついている。
「ん? 二人とも、剣は不得手だったか?」
「いや、剣は好きだが、王族は身の守りを優先せねばならないからな。防御や体術のほうが得意なんだ」
それに、王子のユーグレンは今回、護衛を連れてきていない。
専用の防具も持ってきていないことから、傷を作る可能性が高い剣術の練習は却下だ。
「王族の皆様は体術とバックラーの防御を中心に学ばれるのですよね」
「そう。こういうやつだ」
とカズンは自分の魔力で、バックラーと呼ばれる小型の丸い短剣付きの盾を利き腕とは逆の腕側に出して装着した。
(僕の数少ない、異世界転生したっぽい能力だ)
「王族は社交や外交で剣を持てない場面が多いからな。必然的に防御特化していくことになった」
ユーグレンも同じような形状のバックラーを出して見せる。
「ヴァシレウス様もバックラー、使われてますよね」
「うちのお父様の場合、魔改造しまくって原型を留めてないけどな」
バックラーを改造する場合、盾のサイズや形状を変えるか短剣の刃を伸ばすかだが、カズンの父ヴァシレウスの場合はバックラー本体そのものを武器にできるような改造を行っている。
「最初に見たのは子供の頃で、あれが格好良いと大はしゃぎしたものだったが……」
既に何か違う別の武器になっている疑惑もある。
それから昼食の時間まで、訓練着を借りてホーライル侯爵邸の庭で4人で組手をして身体を動かしていた。
その後はヨシュアとライルで木刀での打ち合いをやっていた。
「魔法剣士と剣士の対戦か」
「んー……やはり身体強化なしだとヨシュアが押されてしまうなあ」
背丈はどちらも同じくらいなのだが、ヨシュアのほうが華奢だ。
対するライルは脚や肩、腕など剣士に特化した筋肉がよく鍛えられている。
身体強化術を使わない対戦では、ライルの一勝。
次は制限なしの身体強化術を使用しての対戦。
「お。おおお、互角……!?」
「でもないな。やはりヨシュアが押され気味だ。単純な剣術の技は剣士の方に軍配が上がるか……」
さて本命の、魔力を使う対戦は。
「カズン様、持っててください」
「おっと」
ヨシュアから木刀を投げ渡され、ユーグレンと見学していたカズンは慌てて受け取った。
手ぶらになったヨシュアの両手の中に、魔法樹脂の透明な剣が創り出される。
同じように空中にも次々と魔法樹脂の剣が現れていく。
数十本ほど出現させた時点で、ヨシュアは自分の瑠璃色の魔力をすべてに満たした。
すると透明だった魔法剣は金剛石、即ちダイヤモンドの輝きを帯びて光を乱反射するようになる。
「リースト伯爵家の魔法剣。……やはり、美しいな」
隣でユーグレン王子が感嘆の溜め息を漏らしている。
「まだあれで半分も出してませんよ」
「ああ。竜退治のときは百本以上あったものな」
こうなると、もはやヨシュアの独壇場だ。
手に剣を持ってはいても、ヨシュアはその場から動かない。宙に浮かせた魔法剣を操作してライルに向けて自在に翻弄している。
数十本もの空中からの魔法剣攻撃に、ライルは奮戦したものの、数分で音を上げた。
「ぎ、ギブ、ギブアップ!」
「はい。勝利、いただきました」
にっこり笑って、魔法剣を魔力に戻したヨシュアだった。
「くそ、あの数は反則だろ、反則!」
訓練着のあちこちが細かく避けた姿でライルが悪態をついている。
服は避けたが、その下の皮膚はどこも傷ついていない。ヨシュアが操る魔法剣のコントロール技術は実に精密で微細だ。
「魔法剣士とはそういうものだ。諦めろ、ライル」
「うう、悔しいったら……絶対ぇに攻略してやるからな、待ってろよヨシュア!」
ビシッと人差し指で指されてもヨシュアは笑っていた。
「こちらこそ。身体強化や魔法剣抜きの素のオレも、まだまだです。ともに切磋琢磨して参りましょう」
大変良い子のお返事であった。
さて、今日はもう昼食をいただいた後は王都へ帰るだけだ。
一泊二日の小旅行だったが、それなりに4人の仲はより親しくなったように思う。